SDGsな生き方 / 鈴木達雄

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9.人工海底山脈の材料

宇宙船地球号の限られた資源を浪費し、多くの生物種を絶滅させ、人口を爆発的に増やしてきた人類。1798年マルサスが「人口論」、1972年ローマ・クラブが「成長の限界」で人類の成長の限界を予測してきた。そして2015年になって、ようやく国連サミット加盟193ヵ国がこの危機感を共有し、2030年までに達成する17の目標をSDGsとして採択し、SDGs.3では全ての人に健康と福祉を提供するとしている。

障害者の介護や老人ホームを経営する事業者には、激甚化する自然災害で起こり得る問題を想像し、クライアント、アテンダントの安心安全を確保する義務がある。首都直下地震等で都心の人口密集地域に発生する、人力で運べない膨大なコンクリート殻の迅速な処理が、バリアフリー・アクセスを必要とする障害者や支援者の殺生与奪の権を握る。

特に、食糧自給率が極端に低い大都市での避難生活では、食糧、医薬品、支援物資の供給ルートと移動ルートの確保を含む、復興期間の短縮について、行政に強く働きかけて計画を策定してもらう必要がある。

人工海底山脈は公共事業として海底に大規模な山脈を造り、食糧を増産する事業であり、大量に安定して入手できる環境負荷の少ない材料が不可欠である。開発当時、山林を破壊し、環境を脅かす石材の利用は考えられず、なんとしても新たな材料を開発する必要があった。

石炭灰は、発電の産業廃棄物として膨大な量、安定して発生する管理型廃棄物だが、藻場や干潟の浅海域に遮水型の灰捨場を建設して捨てられていた。この石炭灰を人工海底山脈に利用できれば、大量の材料を安定して安価に供給できると同時に海岸の環境保全に役立つと考えた。結果的に石炭灰コンクリート(アッシュクリート)を開発し、公共事業で利用するまでに15年もの年月がかかった。

アッシュクリートは、水質汚濁に係る環境基準を満足し、海水中で淡水中より強度を増す耐久性があり、海洋で使う最適な材料であった。人工海底山脈に利用するまでに膨大な時間をかけ、実証事業と公共事業で採用された。しかし、社会情勢が変わり、石材が主流になった。

大量に安定して安価に入手できる環境負荷の少ない材料という意味で、1964年の東京五輪前後に建設され、老朽化した都市の膨大なコンクリート構造物は、貴重な都市の鉱山とみなせる。山から採石する石材の代替材料として、新たな基準に沿って切出す安全なシティコン(City Concrete)の利用は、SDGsに叶い、迅速な復興対策に繋がる。

人工海底山脈の材料は石炭灰コンクリートで始まったが、石材、普通コンクリートも使われ、実績もある。SDGs13.2「気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。」を実現するには、未来の地球環境を見据えた政策、戦略、計画が重要である。

東日本大震災の後、2012年に水産庁漁港漁場整備部が「漁場施設への災害廃棄物等再生利用の手引き」を作成した。この手引きでは、下表のように漁場施設として海洋に設置する場合は、コンクリート殻を、海洋汚染防止法による廃棄物の定義「人が不要とした物(油及び有害液体物質を除く)」に対し、漁場施設としての効果を有すれば、現在の法の枠組みで利用可能となるとしている。

また、ロンドン条約では海洋投棄を原則として禁止している。しかし、附属書1の記載で例外として海洋投棄する場合には、許可制度を導入するとしており、実績があり費用対効果の高い人工海底山脈の建設に利用する場合は、例外として、許可制度を適用することでも可能になると解釈できる。

人工海底山脈は、事業主体を県とする公共事業、または国が事業主体となる直轄事業として、既に18年実施されてきた。費用対効果の高い漁場施設と評価され、国のフロンティア事業として実施されている。勿論、公共事業として正規に調査、計画、設計され、漁業者が望む海域に建設されなければならないのは自明である。

直近の課題は、明日起こっても想定外ではない首都直下地震、南海トラフ地震、東海・東南海地震で発生する数億トンのコンクリート殻を、いかに環境負荷を減らし、迅速に費用対効果の高い構造物に利用するかである。

これまで日常的に発生していたコンクリート殻は、全て破砕して再生砕石として利用されてきた。しかし、巨大地震で被災するコンクリート構造物は、膨大な量が分散して同時に発生する。これを広域処理するには、莫大な運搬・破砕エネルギー、時間、コストがかかり、既存の利用方法だけでは用途も不足する。

老朽化し機能を失った都市のコンクリート鉱山から3トンから0.5トン程度の大きさの塊に切出す。極力破砕せず、粉塵を出さず、環境安全性、強度、耐久性を確認したシティコンを、他県への長距離運搬を極力避け、天然石材の代替材として海洋で利用することが、早期復興と環境負荷を低減する解決策になる。下図は東日本大震災で大割のコンクリート殻が大量に海域の食糧増産に利用された例である。

宮古市の田老漁港で、アワビ・ウニの増殖場を整備する目的でコンクリート殻を約40,000m3利用して、アワビ・ウニの餌となるワカメ、コンブを増殖するために水深10m程度の海底を6m程度嵩上げしている(資料提供:岩手県宮古水産振興センター2013)。

もし、この計画が、発災前に漁業者、住民、行政等で合意されていれば、少なくとも、発災後、計画策定に必要だった半年は早く漁業者が望む増殖場が実現し、漁港周辺からコンクリート殻が迅速に撤去され、復興が早まった可能性がある。

山から石材を切出すように、都市鉱山から必要な大きさと形状のシティコンを切出して人工海底山脈に利用すれば、処理時間、費用を半減でき、CO2排出量を激減することができる。下図で人工海底山脈に石炭灰ブロック、普通コンクリートブロック、石材を利用した場合のCO2排出量が比較され、右端に筆者がシティコンを加筆した。

石材の場合、森林の消失によるCO2固定・吸収量を排出量に加算して算出する。シティコンでは、ブロック(材料運搬・材料製造)、森林の消失はなくなり、シティコン製作・採掘、積込みだけになる。山林からの石材ブロック製作・採石と、都市鉱山からのシティコン製作・採掘のエネルギーを同等とすれば、CO2排出量は激減する。

さらに、発生したコンクリート殻を再生砕石にして利用するには、広域運搬、積込み、積降ろし、破砕、分級、貯蔵の後、用途に応じて加工し、工事現場に運搬する分、膨大なCO2の排出が加わる。

一方、人工海底山脈の建設では、計画海域の定点に海上からシティコンを投入することで作業は完了する。海で植物プランクトンを増殖させる海底山脈の材料による差は少なく、食糧増産と同時にCO2が固定される。

出典:「湧昇マウンド礁のCO2固定効果等把握調査」水産基盤整備調査委託事業/平成21(2009)年度。
https://www.mf21.or.jp/suisankiban_hokoku/data/pdf/z0000838.pdf

巨大地震で被災した膨大なコンクリート構造物の多くは、被災しなくても老朽化により機能を失い解体されることになる。材料の環境安全性を確保した上で計画的に、環境負荷を最小化し、有効な資源として海域で費用対効果の高い人工海底山脈等に循環利用する計画を策定し、実証実験を行うことで実現が可能になる。

巨大地震からの早期復興の成否は、わが国の国際的な評価を大きく変えることになろう。前例がないことが懸念され、研究課題も残されている。しかし、早期復興のための震災廃棄物の利用は技術的に可能であり、海域の生態系活性化による天然水産物の増産技術は、わが国の公共事業として実績が豊富である。これらの技術が震災廃棄物の迅速な利用と、海洋生態系を活性化する事業に展開されれば、造山帯に位置する多くの国々の早期復興と発展に貢献できる。

シティコン海底山脈研究会の動画を再掲する。 https://youtu.be/FutGdXqUJT4

 

◆プロフィール
鈴木 達雄(すずき たつお)
1949年山口県下関生まれ。

1980年に人工海底山脈を構想し開発を進めた。この理論の確立過程で1995年に東京大学工学部で「生物生産に係る礁による湧昇の研究」で論文博士を授かる。

同年、国の補助金を受け、海で人工の湧昇流を発生させ食糧増産をする世界初の人工海底山脈の実証事業を主導。これが人工海底山脈の公共事業化、さらに国直轄事業化に繋がった。

現在は、予想される首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震からの早期復興を支援するため、震災で発生する材料を人工海底山脈に利用する理論と技術開発に取り組んでいる。

SDGs、循環経済を重視し、都市で古くなったコンクリート構造物を工夫して解体し、天然石材の代わりに人工海底山脈に利用することで、予め海の生態系を活性化し食糧増産体制の強化を図り、同時に早期復興を支援する仕組みを、行政と協力して構築するための活動をしている。

趣味:水泳、ヨット、ダイビング、ウィンドサーフィン、スキー、ゴルフ、音楽、絵画

 

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