災害と障害⑥ / 田中恵美子

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「避難行動要支援者名簿」が金庫に眠ったままだったり、福祉サービスとのつながりが生活を支える唯一の手段となっていたり、制度があっても(あるいはあることで)うまく回らない現状は確かにある。

しかし、そのままで終わるわけにはいかない。このシリーズの最後に、防災と障害に関する地域での取り組み例を紹介しておこう。少し希望の見える終わり方をした方がいいだろうから。

福島県いわき市の自立生活センターでは、東日本大震災をきっかけにして近隣の住民と防災について学ぶ機会を共に持ち、避難訓練を一緒に行っている。津波で筋ジストロフィーの利用者が命を落としたことがきっかけとなっている(1)。

岡山県総社市下原地区では、同じく東日本大震災をきっかけとして、住民同士が声を掛け合って避難する仕組みを作り出した。岡山県は東日本大震災で被災したわけではないが、その惨憺たる状況をテレビで見て、住民が自ら自治防災組織を立ち上げたのである。その結果、先に紹介した2018年の大水害では奇跡的にすべての住民が避難することができた(2)。

大分県別府市では、2016年から各障害者に対応した個別支援計画の中に防災対策・避難誘導に関する計画も含めて立案している。平時に有事が一体化されているのである。まさに生活の持続可能性が計画として示されているのだ。そして避難訓練が実施される際には個別支援計画に沿って支援の実際を行ってみる。計画が絵に描いた餅にならないように日ごろから実践を怠らない(3)。

身近な例でも、④で述べたように、関西出身の友人は阪神淡路大震災をきっかけに地域の防災訓練に顔を出すようになっていた。彼女が防災訓練を行う学校の校庭に行くことに大きな意味があった。
今、小学校の校舎もバリアフリーの対象となった(新築)が、彼女の存在は地域の防災を考え直すきっかけになっていた。

先日、友人の海老原宏美さんは地域の自治会に入り、防災チームに入ったことからそのチームメイトのおじさまおばさまたちと議論し、東京都の「地域の底力発展事業助成金」を活用して自治会全体の防災訓練を行ったとFacebookで報告してくれていた(4)。

3階から車いすに人形を乗せて運び出す際のあれこれ、そしてさらに人工呼吸器の電源をご近所さんのソーラーパネルで使用することを考えたりといったことが記されているのだが、こうして地域に車椅子の、人工呼吸器を使っている自分がいると認識してもらうことが大事と記されていた。

誰もが自分から地域住民との関係を作ったりできるわけではないから、行政が率先して素地を作っていくことが大事だと思う。けれど、その素地を作ろうという機運を盛り上げていくのは、やはりこうした一人ひとりの日々の活動の積み重ねなのかもしれない。

(1)NHK戦争証言アーカイブス『戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか 2015年度「未来への選択」第6回 障害者福祉~共に暮らせる社会を目指して~』https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/postwar/bangumi/movie.cgi?das_id=D0001820050_00000&seg_number=001 (20210509)

(2)NHKハートネット「誰もが助かる地域を目指して[特集]東日本大震災10年(2)」https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/488/ (20210509)

(3) 注2同様

(4)2021年3月27日。本人承諾済み。

 

◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ

学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。

現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。

研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。

 

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