知的障害のある人の結婚・子育て① / 田中恵美子

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これからしばらく知的障害のある人の結婚・子育てについて書いていこうと思う。今回は2020年3月に起きた事件について考えていきたい。のっけからテーマに直結していないように思われるかもしれないが、つながりは見えてくると思う。

北海道南部の江差町にある障害者就労支援施設の女子トイレで、利用者である当時29歳の女性が女児を出産し、直後に便器に押し込んで殺すという事件が起きた。懲役3年の実刑判決を受け、控訴中であったが、6月5日の北海道新聞の記事によれば、札幌高裁は「実刑は重すぎて不当」とし、函館地裁の裁判員裁判判決を破棄し、改めて懲役三年、保護観察付執行猶予5年を言い渡したという(6月5日、記事を書きながら、ネットで検証のために情報を検索していて、これにヒットした!ほんの少しホッとしつつ…だが先は必ずしも明るくない)。

報道によれば、女性は2020年3月3日午後0時10分ごろから4時半ごろまでの間に女子トイレで女の子を出産し、その直後に女の子を便器内の穴に押し込んで窒息死させた。夕方職員がトイレで女児を発見し、警察に通報していた。その際、女性は出産を含め「覚えていない」と容疑を否認していたが、その後容疑を認める供述をしたという。逮捕されたのは5月14日で、5月25日から責任能力を測るため鑑定留置が始まり、7月27日に終了、8月3日付で殺人罪として起訴となった。

2021年1月18日に行われた初公判で、検察側は、「被告は職員に出産がばれて大ごとになると思い、隠そうと思って殺意をもって赤ちゃんを上下逆さにして便器内の穴に押し込んだ」と指摘し、軽度の知的障害があることを考慮しても「自分の行為が赤ちゃんを死亡させる危険の高いものであると認識していたので、刑事責任能力はある」と主張した。
一方、弁護側は「被告は知的障害により、妊娠自体に気づいていなかった。突発的な出来事に対応することが困難で、赤ちゃんを出産した後、どうしたらいいかわからなかった」などとし、犯行時心神喪失又は心神耗弱の状態だったとして無罪を主張していた。

1月27日の一審の判決で函館地裁は、「知的障害の影響は犯行に多少影響はあったが軽度で、女の子を便器の穴に押し込みふたをするなど、出産の発覚を防ごうとする行動をしていることなどから完全責任能力がある。女の子を物同然に扱っていて、危険性は極めて高く、身勝手な動機に非難を向けざるを得ない」として懲役3年の判決を言い渡した。

女性はこの判決を不服として、2月10日付で札幌高裁宛の起訴状を函館地裁に提出し、6月3日に札幌高裁にて控訴審判決が行われた。先述のように、裁判官は「実刑は重すぎて不当」と述べ、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年を言い渡した。判決理由として裁判官は、医師の鑑定などから「被告の刑事責任能力は大きく損なわれていない」とした一審の判断を踏襲したが、一方で出産を隠すという殺害動機には「精神遅滞が相応の影響を与えた」と指摘し、出産するまで妊娠に気づいていなかった点も考慮して刑を軽くした。

【参考資料】
「“施設トイレ”で女児出産後に殺害容疑29歳女…一転容疑認める 死因は窒息死」 北海道ニュース 2020年5月14日 https://www.youtube.com/watch?v=-1t8FLqLEbo (2021.6.5閲覧)
「就労施設“トイレで出産”し女の赤ちゃんを殺害した29歳女…鑑定留置始まる 函館地裁」 北海道新聞 2020年5月27日 https://www.uhb.jp/news_test/single.html?id=12686 (2021.6.5閲覧)
「就労支援施設の女子トイレで女児出産し“便器”の穴に押し込み殺害…29歳母親を殺人罪で起訴 函館地裁」 北海道新聞 2020年8月3日 https://www.uhb.jp/news/single.html?id=14050 (2021.6.5閲覧)
「大ごとになるのを隠そうとした」トイレで女児出産し殺害…30歳女 起訴内容認める 北海道新聞 2021年1月18日 https://www.uhb.jp/news/single.html?id=17561 (2021.6.5閲覧)
「完全責任能力がある」判決に不服か…就労支援トイレで女児出産後殺害30歳女控訴」北海道新聞2021年2月10日  https://www.uhb.jp/news/single.html?id=18136 (2021.6.5閲覧)
「出産後殺害、母に猶予判決 札幌高裁「実刑は重すぎて不当」 北海道新聞 2021年6月5日  https://www.hokkaido-np.co.jp/article/551555/ (2021.6.5閲覧)

 

◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ

学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。

現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。

研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。

 

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