よりよい組織のために / 古本聡(CCO 最高文化責任者)

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人はもともと群れを成す動物であり、それは最初、他の捕食動物から身を守り、生き残る手段でした。それが脳の発達と生活の発展により社会というものを営む存在となりました。また、自然界での生き残りに長けてきた後も、私たちは個人では行えないような大規模な、あるいは複雑な作業を行うために、他者と協力し合いそれを成し遂げてきました。
ピラミッドの建設しかり、広範囲な感慨・治水工事、集団農業、船団を組んでの遠洋航海から、今日の世界各国が協力して進められている宇宙開発しかり。

それら一つ一つを遂行していく際の人のグループはもはや単なる群れではなく、統率の取れた組織になっています。こう考えていくと、私たち人間にとって組織での活動がいかに重要であるかは言うまでもないでしょう。

話のスケールがいきなり極小になって恐縮ですが、私は前職で、それこそ吹けば飛ぶような小さな会社を運営していました。業種は翻訳・通訳で、顧客から依頼される案件の規模にもよりますが、正規社員が5人、そこに多い時で25人、少ない時で10人ほどのフリーランサーが加わります。人数から言えば組織というよりはチームといったイメージでしょうか。

依頼は数十社の顧客から入るわけですから、当然のこと一時に取り組む案件も複数。一方、即戦力として仕事を任せられる人材は極僅か。しかも言語能力も得意とする分野もバラバラで、常に人材繰りに悩まされていたのを、今ではやや懐かしく思い出します。

特にフリーランサーという人たちは、言語能力・専門知識に秀でてはいるのですが、いわば「お山の大将」気質が強く、自分が編み出した仕事の方法が最良だと思っているので、彼らを一つのチームとしてまとめるのには骨が折れました。彼らが、価値観や文化が全く違う外国人だった場合はなおさらのこと。そこで最も必要だったこと、それは組織力をアップさせることでした。

株式会社土屋のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)のバリューに「(6) あらゆる人間関係の基盤は信頼、まず自ら信頼を提示しよう」の項目があります。私がこれを入れさせてもらった背景には、私が前職で貫いてきた2つの考え方と姿勢があるのです。極々当たり前のことなのですが・・・。

チームワークの向上=組織力向上=信頼関係という土台をつくること
チームワーク(組織力)を高める上で、まず考えるべきことは、そのチーム(組織)を構成しているのは、一人ひとり異なった価値観・文化背景と人格を持った個人だということです。当たり前のことのようですが、この点が案外と忘れられがち。その一人ひとりのプレゼンスをしっかりと、上に立つ者が認識することで信頼関係という土台がしっかりと培われるようです。仕事に関わらず、人間関係の全ての原点は「信頼関係」という土台がまず確立されることだと思います。

その信頼関係を構築するには、小さなことの積み重ねが大切だと思っています。相手が翻訳者ならば、一回原稿を渡せば次に顔を合わせるのは1週間後か10日後、通訳者ならば長いと3か月後になる場合もありました。ですから、時間を共有できるときにできるだけ多くの情報交換をする、というのが私のやり方でした。仕事上の問題はもちろんの事、健康状態、悩み事にいたるまで。

特に気を使ったのが「駆け出し君(さん)」、すなわち仕事を始めたばかりの人たちへの対応です。各専門分野の解説書、専門用語集の貸し出しから顧客対応の心得の説明まで丁寧に行いました。そうするなかで徐々に他の先輩スタッフたちも後輩たちに同じように接してくれるようになり、チーム内の信頼関係が構築、強化されていきました。また、そのプロセスが進行するのと同期してスタッフの生産性も会社の業績も向上していきました。

通訳・翻訳業は訪問介護と同様に孤独な仕事です。通訳は一度派遣されたら長期海外出向、短期でも直行直帰がほとんどで、翻訳はというと、締め切りに追われながら家で引き籠り状態です。同業者同士の情報交換が極端に少ないのです。だからこそ、チームのリーダーは積極的にコミュニケ-ションを取る姿勢でいないといけないのです。しっかりと相手の目を見て話す機会を作り、また話しやすい雰囲気を作ることが大事で、メンバー1人の存在をしっかりと認めていくことが信頼関係を強化することにつながるのです。

「そんな毎回毎回、一人ひとりを丁寧に相手できゃしねぇよ」というご意見も聞こえてきそうですが、私も完璧ではありません。できないこともありました。そんなときは時間帯を前もって決めて対応しました。なによりも根底にあるのは、相手を一人の人格者として認めている姿勢を見せていくことです。今の時代、そしてこの土屋でそれは、オンライン通信技術が十分になかった昔よりずっとやりやすいですよね。

「失敗」を許容する風土がチーム内(組織)にあること
上でも触れたように、私が最も気を使ったのが「駆け出し君(さん)」、すなわち仕事を始めたばかりの人たちへの対応です。個人差はあれ、誰にとっても初めての仕事に挑戦するには大きな勇気がいります。また、チームの新メンバーが主体的に動ける動機が必要です。それは失敗が起こってもリーダーが助けて楯になってくれるという安心感だと思います。

彼らの逃げ道をしっかりと用意してあげることで失敗への不安を軽減すること。そして成功確率を高めていくために経験を重ねてきた先輩たちへの相談を促すことがとても大切だと思います。もちろん失敗した際の「楯」=「逃げ道」としての役割を上に立つ者は果たさなければなりません。

普段私は各チームリーダーやメンバーに次のような言葉を伝えてきました。「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」ということはどういう意味か。それは何か「失敗」が起こったときに直属の上司を巻き込み楯にする=逃げ道をつくるために行うこと。だから積極的に行う必要がある。

もちろん上に立つ者も自分の立場にかかわりますから、自然とお互いが話し合うことにつながります。これも組織として主体的にホウレンソウを機能させていく秘訣でもあると思います。ただし、明らかな「ミス」であり、説明に納得できない場合は別で、厳しく接する必要がある場合も、もちろんあります。

出来る限り多くのコミュニケーションを図ること、事前に次の業務を共有すること、日頃の電話やメールでの報告期限を守ること、上から下への、邪魔に感じさせない程度に頻繁な声掛けなど、とても身近で細かなところに組織力向上の秘訣があると思います。

 

◆プロフィール
古本 聡(こもと さとし)
1957年生まれ

脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。

早稲田大学商学部卒。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。

2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。

 

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