難病告知からの旅が人生を変えた / 櫻井純

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難病による四肢麻痺や嚥下困難で治療しながら、生きるか死ぬかの瀬戸際をさまよっていた頃。感染予防、転倒予防が最優先で、身体の自由がきかなければ誰かに頼る事しかできませんでした。外出許可ももらえず、いつも病室に缶詰。変わり映えのしない病院生活での憧れは、外出・外食でした。

特に冬場に入院する機会が多かった私の治療時期、寒い冬を病室で越えれば窓の向こうには綺麗な桜。いつか自分の足で歩けるようになって、目の前に広がる満開の桜を近くで見て春の風を感じたい。そんな願いが叶ったのは治療を始めてから1年半後、リハビリの時間に先生が車椅子で公園に連れ出してくれて叶いました。

春の風に吹かれて揺らめく美しい桜。何より病院や病室から外に出られたことが嬉しくて仕方がありませんでした。ずっと病院で過ごす私も、回復とともに病室内自立→病棟内自立→院内自立→の流れを経てようやく外に。将来奪われていくであろう身体の自由に不安を抱えていた私が、当時病院を出て最初にしたことは一人旅でした。

肢体不自由の障害で1番困難なのは「移動」。少しでも身体が元気な内に!と焦っていた私は、会いたい人の中で1番遠い距離の人から会っていこうと決めて、退院までに病室から旅行を計画。福岡→五島列島→長崎→熊本→鹿児島→甑島→鹿児島→神戸→大阪。一週間かけて家族に内緒で九州を縦断しました。

いつも家族や医療者に付き添ってもらっていた私の初めての一人旅。今思えばすごいチャレンジだったと思います。誰かに迷惑をかけることが申し訳なくて、行きたい、食べたい、会いたいをずっと病室で我慢してきた私。でも自分の足で自分の意志で1歩外に踏み出してみると、本当に多くの方が旅を支えてくださることに。

旅先では地元の方が車で迎えに来てくれて移動を助けてくれたり、現地の方が荷物を持ってくださったり、苦手としていた事を助けてくれる方がいてくれたお陰で、半分無理だと思っていた旅行の希望が叶いました。その当時は旅先がバリアフリーかの不安よりも、行きたいところに行く!を叶えてくれた人の優しさで溢れていました。

九州縦断の旅で1番心に残っていることは鹿児島県の離島「甑島」。甑島は私が旅行会社で初めて企画した思い出の場所。鹿児島県の薩摩川内市から高速船やフェリーで海を渡って行くことができる離島です。昔ながらの自然豊かな港町。島の地形は完全にバリアフリーとは言えないのですが、「知り合いが行くから助けてやってくれ」と、昔ながらの助け合いの文化と優しさが旅のバリアを取り除いてくれました。

島では地元の新鮮な海の幸や風景に感動し、昔ながらの港町の風情を感じながら滞在。
滞在中、「いつか車椅子では一人で絶対来られないから、なるべく早く会いに来た」と島の方に難病を初めて打ち明けたら、「車椅子になっても担いでやるからまた来い!」と島の方の予期せぬ優しい言葉に私はずっと涙を流しました。

当時、砂利道や坂道も段差もあってアクセスが悪い場所、内心は車椅子で来れるハズがないと思っていましたが、旅行会社を起業して数年後、写真のように車椅子で旅行添乗してお客様をお連れした時、島の方々が本当に担いでもてなしてくれました。また不可能だと思っていた船でのクルージングも、手取り足取り抱きかかえてくれて乗船。人の手と優しさが問題を全て解決してくれました。

初めて旅した離島での学びは、旅先がバリアフリーかどうかでなく、行きたいところに行くことの意義や大切さを再認識しました。

こんなに素敵な島旅の体験がきっかけで、病気や障害で旅を諦めず、人の優しさや心が癒される景色を大事な人と共有してほしいと願い起業。当時はリモートワークの概念もなかった時代でしたが、病室の中でも働ける方法を模索しながら、外出や旅行の支援を始めました。

病室にプリンターやパソコンを持ち込んで、治療が終わった夜に旅行手配や旅行券を準備し、週末病院を抜け出して旅行の添乗。治療もする、仕事もする、介護ではなく旅の仲間としてお客様を無事に旅に連れて行く。そんな日々を過ごしています。

旅を通じて障がいのある人もない人も、お互いに気付き自然と助け合える調和を私は目指しています。

 

◆プロフィール
櫻井 純(さくらい じゅん)
1987年 兵庫県加西市生まれ

12歳で急性散在性脳脊椎炎を発症。26歳で10万人に1人程度の割合で発病する慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症。29歳でシャルコー・マリー・トゥース病の診断を受ける。

常に治療リハビリが必要で一般就労が難しい状態から社会参加への強い想いを持ち、2016年難病障害当事者が運営する旅行会社櫻スタートラベルを起業。当事者目線で障害や疾患に配慮する旅行や働き方の取り組みが、産経新聞 ・The Japan Times・朝日新聞で紹介される。ジャパン・ツーリズムアワードビジネス部門(ユニバーサルツーリズム)連続入賞。

重複障害による筋力低下・感覚低下・激しい痛みがあり、現在も年間約120日程度入院やリハビリを継続。難病や障害の相互理解を促す活動として講演活動・失語症者向け意思疎通支援を行う。目に見えない障害や複数の難病と向き合う当事者の立場から、誰もが希望を持てる優しい社会づくりを目指す。

 

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