地域格差が奪ったもの② / 平田真利恵

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私は、養護学校の高等部に進学してから一時期、クラスメイト全員と考え方が合わず孤立状態になった。しかも、学校の敷地内に隣接された寮で生活していた為、気の合わない子とも学校から帰っても一緒になる。お互い気まずいが逃げることもできない。毎日が息苦しく、大人に相談するもイマイチ理解してもらえず、モヤモヤしていたある日、学校の掲示板を何気なく眺めていたら突然目に飛び込んできたポスターがあった。

それは「全国の身体障害を持つ高校生が集まって2泊3日で行われる意見交換会の参加者募集」という夏休み企画のポスターだった。開催地は兵庫県。主催者側が参加者の旅費も参加費も出してくれるという。そして、この企画にはボランティア兼「違う立場の高校生」として周辺の高校に通う生徒たちも参加するらしい。

今まで、どんなに多くても10人ほどの同世代としか接する機会がなかった自分にとって様々な人の考えが聞ける絶好の機会。このポスターを見つけた3日後が参加応募の締め切り日で慌ててレポートを書き、必要書類を揃えて締め切りギリギリでポストに投函した。その数日後、主催者側から大会参加の通知が届いた。参加が決まり、兵庫に行くことになるまでの間にもいくつかのハプニングがあったのだが、今回は省くことにする。

開催当日、無事に兵庫に着いた私を大会スタッフの方が迎えに来てくれていて会場まで車で送ってくれた。車から見る景色は今まで見た事がない異様なものだった。この年の冬、阪神・淡路大震災が起きた。今回の大会は、震災が起きてからまだ数ヶ月しか経っていなかったのだった。

「だいぶ片付けられた」とスタッフの方は言われていたが、空き地になっている場所に瓦礫が積まれている。会場に向かう道のりで何回かその景色を見て胸が締め付けられた。車を運転しているスタッフが「今年はやめようという話もあったんだけど、せっかく計画して募金活動もして開催を願ってる人たちがいる。ここでやめたら逆にダメな気がしてみんなで今日を迎えたんだよ」と話してくれた。

想像もつかない恐怖や悲しみを経験された人もスタッフやボランティアの中には沢山いるはずなのに、全国規模の大会を開こうとする情熱に思わずグッときてしまう。そして、今から開催される事への感謝でいっぱいになった。

会場に到着すると、今まで見たことのない数の車イスに乗った若者たちがいて、みんななぜか都会的な雰囲気がする。あとでわかったのだが、この時の参加者の多くは関西中心だったようで、私のような地方の子は少なかったらしい。主催の障害者団体の方が開会の挨拶をし、大会は始まった。

全体会では最初に「障害者高校生VS地元の高校生」といった構図で互いの疑問に感じている点などについて討論をする。次に、各テーマに分かれて主催者側の障害者スタッフの方と様々な問題について深く考える勉強会などがあった。

討論会や勉強会が終わって夕食を食べたら、後は自由時間。そこにいるのは身体に障害があるか・ないかの違いだけで、基本みんな10代の若者たちだけ。そうなればオシャレや恋バナの話で盛り上がるのはお約束だ。関西出身の子が多いから話は面白くないはずがない。今まで、こんなに楽しく同世代の子たちと話すことがなかった私はハイテンションだった。

そんな中、ボランティアで来ていた女の子が「これに参加すれば学校の単位もらえるの。だから来たんだよー。やばいの!単位が!」と軽いノリで話す。その話に少し驚いた。私が今まで接してきた地元のボランティアの人たちとは随分とイメージが違うからだ。

いつも優しく接してくれる地元のボランティアさんと違い、車イスの押し方も雑だし、私が気にしている障害の事もスパスパ聞いてくる。しかし、なんだかこっちの方が心地が良く、自分も自然に振る舞える。一方的に「善意」を押し付けられてる感がないからだ。

はっきり言えば、この女の子は障害者になんて興味がない、学校の単位が欲しかっただけ。それで、参加したら車イスに乗った私の介助の担当になってしまったという感じだろう。だが、私に対して「善意を向ける対象」という意識を持たずに接してくれることが、こんなに気持ちを軽くするなんてその時まで自分は知らなかった。

翌日、あるテーマについて障害者の参加者だけで話す時間が設けられた。そこで、私の人生を変える一言を聞く事になる。「高校を卒業したらどうするか?」という話題になったとき、ある1人の男子が「大学に行くつもりだよ。受験に向けて養護学校の先生たちも協力してくれてるし…」とごく自然に話している。他の参加者たちも「自分も行くつもり」などと当たり前に話し出す。

その状態に全く付いていけない私は恐る恐る「何か特別に勉強したい分野があるの?」と、その子たちに聞いてみた。すると「えっ?みんなが行くから行くだけだよ〜。逆になんで行かないの?」と、あっけらかんと言うではないか。他にも「大学は行かないけどね、こういう仕事につきたいから勉強してるんだ」と目をキラキラしながら話してくる参加者もいた。

「大学にみんなが行くから自分も行く」
「自分のなりたいものがある」

自分が今まで生きてきて、一度たりとも将来に夢や希望なんて持ったことがない。
「例えあったとしても、そんなの無理にきまっている」
そう思って今まで生きてきた自分にとってはカルチャーショックでしかなかった。

◆プロフィール
平田真利恵(ひらた まりえ)
1978年8月生まれ

九州宮崎で生まれる。養護学校卒業後、印刷関係の作業所に通う傍ら、様々なボランティア活動に参加。2002年、知人の紹介で東京の障がい者団体を知り上京。自立プログラムを経て一人暮らしを始める。
2007年、女の子を出産。介護者と共に子育てをしている。現在、依頼を受けてイラストを描きながらボランティアで地域の小中学校での講演活動を行う。

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