SDGsな生き方 / 鈴木達雄

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10.人工海底山脈の建設

2011年の東日本大震災で発生した廃棄物は2,800万トンだったが、日本の総力を結集しても処理に3年と1.32兆円かかり、障害者の死亡率は住民全体の2倍に及んだ。障害者や高齢者には移動の障害となる廃棄物の迅速な撤去は命に直結する。

首都直下地震、南海トラフ地震などの現代都市型地震では、東日本大震災の各々、4倍、11倍の廃棄物が想定される。現行基準で廃棄物を処理すれば、12年、33年かかってもおかしくない。現在の基準では廃棄物の過半を占めるコンクリート殻を、全て破砕し再生砕石として利用することになる。各所で交通を寸断する被災コンクリート構造物の迅速な解体と撤去が早期復興には不可欠である。

そこで、被災したコンクリート構造物を都市の鉱山と考え、山から石材を採掘するように、新たな基準で環境安全性を確保し、3トンから1トン程度に切り出し、石材の代替材としてシティコン(City-concrete)と呼び、一部を迅速に人工海底山脈の建設に利用する。これで処理時間、労力、費用を半減し、迅速な処理が可能になる。

この斬新な利用方法が発想の転換を促し、新たな街づくりへの展開が始まる。障害者は勿論、高齢者や子供連れなどを含む、全ての人が暮らしやすい街づくりが実現し、そこは障害のない人にとってもバリアフリーの暮らしやすい街になる。

人工海底山脈は、湧昇流を発生させて海域を肥沃化するのが目的である。したがって、建設対象海域は大陸棚より浅く、有光層より深い水深200mから 50mで、岸から遠く離れた平坦な海底になる。気象・海象条件が厳しく変化の激しい沖合海域で、これまでにない大規模な構造物を建設する。生態系が活性化し好漁場になっている天然礁に倣い、岩礁生態系を形成するような構造物が望ましい。多様な魚介類に、様々な大きさと形状の隠れ場や棲み場を提供し、魚介類の餌となる多種多様な付着生物に複雑な流れと光の場を提供する付着基質が望まれる。

この条件を満たすものとして、一辺1.6mのブロックを海面から大量に自由落下して積み上げ、多様な空隙をつくり、全体形状で湧昇を誘起する人工海底山脈を考案した。この人工海底山脈の実証事業では、始めて漁場施設の建設材料として、必要な性能を評価され、生物に優しい石炭灰ブロックが採用された。これまでにない水産増殖効果、斬新な建設技術、環境重視等の見地から高く評価され、日本水産工学会技術賞、土木学会環境賞等、様々な賞を頂いた。

実証事業を開始した1995年には、大水深海域に天然礁のような大規模な山脈を建設した例はなかった。手探り状態で、水深80mを想定した水槽実験を行い、石炭灰ブロックの模型を海面から多数自由落下させ、設計形状の山脈を形成できるか。流れのある水槽で流速を変え、ブロックの流下距離、着床位置、山脈形状の変化を観測し解析した。

ブロックを落下させる作業船の形式や規模によってどう変化するか。また、落下の衝撃でブロックは破損しないか。様々な実験を繰り返し、流速に応じて形成される山脈形状の制御技術を確立した。実証事業の委員会で作業船の底が海面で開閉する全開バージからブロックを投下する方法が採用された。

石炭灰ブロックは、下図左の一辺1.6×1.6×1.6mの立方体で、側面に積み上がった時のすべり止めになる縦横の溝を設け、魚介類に隠れ場を提供し、製作時には放熱孔となる円柱状のトンネルを設けた。1個当たりの重量は6トン(内4トンが石炭灰)になり、50トンの吊り能力のあるクローラクレーンを使用して下図右のように全開バージに積みつけた。
建設海域でブロックを投入する際に、対角に位置する左右両舷のブロックを4組に分け、両舷のブロックが傾斜した船底で衝突することを避け、全開バージの船体バランスを崩さないように配慮した。時間差をつけ、2段階で交互に投入する方法を開発し、机上検討および模型実験により、全開バージから短時間にブロックを投下する方法と、投入装置を工夫した。1,300m3級全開バージを使用する場合、1回に90個のブロックを搭載し、沈設することが可能であった。

全開バージからのブロック投入の動画: https://youtu.be/tJ6Mpw1fcjc

実証事業では、石炭灰ブロックを、港から片道35kmの海域に約5,000個沈設することを想定した。ブロックの海上運搬距離は往復約70kmで、運搬に要した時間は、全開バージの出航から帰航まで含めて約5~6時間であった。1日1船で1.6m角ブロック90個の運搬・沈設を基本とした。

ここでは常時2隻の全開バージを傭船し、1隻が運搬・沈設のために出航している間に、他の1隻にブロックを積込み、1日交代で運搬・沈設と、積込みを交代するローテーションを組んだ。

人工海底山脈は、設計通りの形状が求められるので、精度の良い位置決めシステムとして、天候や視界に左右されず、人工衛星で位置を決定するGPS(Global Positioning System)による方法を採用した。大水深海域でこのような構造物が建設された例はなく、施工方法の検討でも、机上検討、現場試験を重ね、精度を確認し以下の手法を開発した。

流れと波のある沖合海域で正確に沈設するには、気象・海象条件から投下位置を予測し、全開バージを投下位置に正確に誘導し、迅速にブロックを投下する必要がある。位置決めは下図のようにGPSを用いた施工支援システムを開発したが、現在ではさらに高精度なシステムを容易に構成できる。

大水深域の海面におけるブロック投下位置は、直前に調査船が沈設位置の流向・流速を測定し、データを基にブロックが目標位置に流下し着床するよう、計算し指示した。全開バージの投下位置への誘導は、調査船で得られた風向・風速データを基に指示し、全開バージの位置もGPSで求め、投下位置の座標と一致するように、押船で風向を考慮して制御した。

大水深海域ではアンカー等で全開バージを固定できないが、ほとんどの事例で、目標位置の半径5m内の範囲に、数分間定位することができた。

下図は長崎県対馬工区の人工海底山脈建設途中の出来形で、石炭灰ブロックを山脈の頂点付近に着床するように海面から自由落下させることで、陸上で石材を山積みするのと同様に円錐形状に積み上げた。これまでに石炭灰ブロック、石材、普通コンクリートブロックが使用され、建設中を含み16基の人工海底山脈が建設された。

高度成長期に60年前頃から建設され、老朽化した都市の数億トンのコンクリート構造物の一部を、環境安全性を確認して解体時に極力破砕せず、シティコンとして大割で切り出し、費用対効果の高い人工海底山脈事業に利用する。

建設では、不定形の石材、素材としてはコンクリートが使われた実績がある。また、材料を石材からシティコンに替えても、技術的に同様の円錐体を形成することは十分可能である。老朽化あるいは、巨大地震で被災したコンクリート構造物を迅速に解体し、破砕する前に直接利用できれば、早期復興、食糧増産、廃棄物利用、CO2削減等でSDGsに叶う。

大割のコンクリート殻を石材の代替として海域で利用した実績は少なく、研究課題もあるが、多くの有識者、研究者の賛同を得ており、実現は可能である。子孫に夢のある未来を贈るため、巨大地震発生前に、行政による事前の周到な実施計画の策定が必要である。

最新地震動予測:全国地震動予測地図2020年版が公表されました | J-SHIS (bosai.go.jp)

 

◆プロフィール
鈴木 達雄(すずき たつお)
1949年山口県下関生まれ。

1980年に人工海底山脈を構想し開発を進めた。この理論の確立過程で1995年に東京大学工学部で「生物生産に係る礁による湧昇の研究」で論文博士を授かる。

同年、国の補助金を受け、海で人工の湧昇流を発生させ食糧増産をする世界初の人工海底山脈の実証事業を主導。これが人工海底山脈の公共事業化、さらに国直轄事業化に繋がった。

現在は、予想される首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震からの早期復興を支援するため、震災で発生する材料を人工海底山脈に利用する理論と技術開発に取り組んでいる。

SDGs、循環経済を重視し、都市で古くなったコンクリート構造物を工夫して解体し、天然石材の代わりに人工海底山脈に利用することで、予め海の生態系を活性化し食糧増産体制の強化を図り、同時に早期復興を支援する仕組みを、行政と協力して構築するための活動をしている。

趣味:水泳、ヨット、ダイビング、ウィンドサーフィン、スキー、ゴルフ、音楽、絵画

 

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