知的障害のある人の結婚・子育て② / 田中恵美子

  • sns

前回、北海道で起きた知的障害のある女性がトイレで出産した事件について取り上げた。私は求められたコメントの最後にこう記した。

「最後に『赤ちゃん好きですか』という検察の問いに女性は『はい』と答えています。もし彼女が彼女を本当に愛してくれる男性と出会い、その男性との交際を誰もが祝福し応援していたら、彼女はその愛する人と結ばれ、おそらく普通に病院で2020年3月3日に可愛い女の子を産んで、たくさんの支援を得ながら子どもを育てて温かい家庭を築いていたのではないかと思います。

しかし結果としてそうならなかった。それはしかし、彼女だけが罪を償うべきなのでしょうか。彼女が一人、不自由な生活をこれから送ることになるのかと考えると、絶望的な気持ちになります。もう二度とこのような事件が起こらないでほしいと思います。本来守られるべき彼女を刑に処するというのは間違っています。彼女が育ってきた環境、今暮らしている環境、そこにこそ問題があると思います。」

皮肉にも3月3日、ひな祭りの日に便器の中で死んでしまった小さな女の子のことを思うと心が締め付けられてしまう。そしてその小さな女の子を自分の手に抱くこともできなかった、母親となることのできなかった彼女のことを考えると、そこまでの経緯に何があったのか、きちんと検証すべきだと思う。ただ、私に与えられた情報はこれから公表されていくものであるから、今の私にはこの出来事とは別の角度から、知的障害のある人たちの人生について書いていきたいと思う。

私が知的障害のある人の結婚や子育てに関心を抱くようになったのは、ある研究者の言葉からだった。彼女が言うには、知的障害のある人たちはまず交際に反対される、結婚にも反対される、そして結婚はいいとしても、子どもを産むことを反対される。結婚して子どもを産み育てることができるのはごく一部の人たちなのだと。

私がその話を聞いたのは、10年ちょっと前のことだ。私は愕然とした。耳を疑った。確かに私の知っている重度の身体障害の人たちも恋愛や結婚はそれなりに周囲の反対にはあっていたが、しかし、大抵はそれらをはねのけて、むしろバネにして一緒に暮らし始めたりしていた。

知的障害のある人たちは、支援を跳ねのけてまで自分の意思を通すことができるのだろうか。そもそも恋愛が禁止なんて、21世紀にあり得るのか?そんなことが許されるのか?

当時の思いは今も変わらない。そして当時と現在の状況もおそらく、そう変わっていないと思う。だから今でも交際を隠し、結果として自分の体の機能さえも知らずに、自分も他の人も傷つける結果になってしまう人たちがいる。この状況をどうしたら変えられるのだろうか。私の小さな挑戦は、知的障害のある人たちが地域で子どもを育てている、その営みを示していくことだ。

 

◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ

学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。

現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。

研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。

 

  • sns