土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉜ / 高浜敏之

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32 土屋の12のバリュー⑧

深く聴こう、丁寧に語ろう、できるを認め合い、できないを語り合おう

株式会社土屋がスタートして、まず初めに取締役のメンバーで、自分が何ができないか、を開示しあった。私たちはパーフェクトな個人の集まりではない。私自身を筆頭に、色んな欠点や弱点や欠落を抱えたメンバーの集まりであり、そのほうがいいと思っている。完成された完全に自立した個人の集合体より、「できない」を抱えた人が集まってお互いに助け合いながら歩んでいったほうがよりよいコミュニティーが醸成され、その助け合いや補い合いによって生み出される心理的安全性は個々のモチベーションの基盤となり、やがては組織の生産性を高めさえすると信じている。

自分の「できない」を否認し、隠蔽すること、それは本人自身にとってもとてもつらいことだ。暴かれてはならないという警戒心や緊張感は、他者の欠点や弱点探しの出発点になり、新たなる他罰的言動はここから始まるとすら思える。コミュニティーの安全性は失われ、個々人のパフォーマンスがいかに高くてもチーム全体が生み出す価値は個々のアウトプットの総和を超えることはない。

私は障害者運動から、「できない」は否定すべきことではなく、むしろ新しい助け合いの機会を生み出すという意味で歓迎すべき価値だ、ということを学んだ。障害者雇用に積極的に取り組んだことによりチーム全体のムードが上がり業績を向上させた企業が多々存在するという。「助け合い」はチーム力を向上させる絶好の機会だ。だから、私たちはまず「できないを語り合う」ことから始めた。それは不毛な競争を生産的な協働に転換するチャンスだと信じている。

しかし、他者に「できない」を開示することは、とても勇気のいることだ。自分の存在価値を不安にさらす博打とも思える。多くの人たちが二の足を踏む。ある程度の安心感がないと、「実は」と切り出すことはできない。この場所が安全である、という保証が求められる。この場所が安全であるということを証明するためには、まず初めに「飛ぶ」人が必要だ。自分の「できない」について正直に語る、あるいは語らざるを得ない、パイオニアが必要だ。私にとって障害者運動のリーダーはこの「できない」を全身で表現し、その「できない」に新しい意味を付与し、再評価した先駆的存在と思っている。彼女たち/彼らと出会い、そのエンパワーメントを受け、どれほどの人たちが新しい人生を、新しい価値観を生きるようになったことか。私もその一人であり、彼女たち/彼らから学んだことを株式会社土屋の経営方針として掲げさせていただいた。

そんな風にしてコミュニティーに安全性が育ち、競争ではなく助け合いの文化が生まれたときに初めて、私たちは他者の「できる」を心から認め合い、賞賛しあうことができるのではないだろうか。熾烈な競争の中で敵の「できる」を認めてしまうことは、敗北を受け入れることと同義である。競争して勝利することを求めたものにとって、敗北とは死と同義である。どれほど多くの人たちが、受験戦争で敗れ、出世競争で敗れ、金メダルを巡った闘いに敗北し、心を病み、あるいは自ら死を選択していったことか。ゲームの観客や傍観者にとっては全く理解不可能とさえ思える、絶望の中での自死は、時にナンセンスで滑稽にすら映りかねない。しかし、登場人物にとってはそんなシニカルな視線が冒涜とすら思えてしまう。ゲームの主人公にとって、競争とは決して相対化されてはならないなにものか、なのだろう。

しかし、このゲームのルールを妄信したとき、ゲームに無我夢中になったとき、「ほかの道」が存在することを、「他の方法」が存在することを、私たちは忘れてしまう。視野狭窄になって、選択の幅が限定されてしまう。この「他の道」や「他の方法」を発見することを、私たちはイノベーションと呼ぶ。「できない」を開き合うことによって生まれる安全な場所が、イノベーションが生成する土壌だと信じている。

私たちはさらに助け合いのネットワークを拡大し、この企業を成長させていきたいと思っている。そのことがより良いもう一つの社会を生み出すことに貢献しうると信じている。だから、私たちはこの企業の運動に大小様々なイノベーションを生み出していきたいと思っている。だから、私たちはまず初めに「できない」を語り合った。そこでお互いに助け合いながらやっていこうと約束した。

コミュニケーションを面倒くさいといって簡単に省略せず、相手の語りの最深部に届くよう深く聴き入り、自分自身の思いや考えも「できるだけ」他者に理解してもらえるよう、「できるだけ」丁寧に語り続けることを約束した。たとえその語りが結果に結びつかなかったとしても、努力義務だけは放棄しない、そう約束した。

そんな約束を、この8番目のバリューに書き込ませていただいた。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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