ある講演会で話したこと / 安積遊歩

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「健常者って何?」というちょっと変わったタイトルで、話を頼まれた。そこで、色々考えた。まず私にとっての健常者とは、壮絶な記憶喪失の人々である。私たちはみんな、最重度障害者に生まれるにも関わらず、その時の様々を完全に忘れ果て、争う身体が昔からの身体のように思い込んでゆく。

生まれて1、2年は素晴らしい好奇心と愛情をもって生き抜くが、無知と無関心の中を生き抜いてきた大人たちの間で、本来の、その好奇心を少しずつ失わさせられていく。その上、争えない身体で生まれてきたことの、深い価値と洞察を冒涜し尽くすような教育を受ける。

「人類は万物の霊長」などと言って傲慢の限りを尽くしている。その実態は、肉食獣でも同類同士では争わないが、人間だけは争い、殺し合うことをやめられずにきた。そして、その度ごとに凄まじい暴力で、他の命たち、つまり人類以外の動植物を絶滅に追い込み続けてきた。

「健常者とは何?」というタイトルの中には、タイトル自体が、人類の驕り、昂りとさらにそこに競争原理を巻き込んで、他の命たちがどのように助け合い、支え合っているかという視点が全く見えてこない。つまり、同類同士の差別の過酷な状況を、その言葉自体内包している。だから、「種差別」への想像力は全く見えてこない問いである。

というわけで、その講演会で、私が2つ目に思いついた答えは、「著しく想像力が欠如した人々」というものだった。そして3つ目は、「生まれたばかりの自分自身を全く肯定できずに、愚劣な競争に追い込まれ、そこに乗り続ける人々」というものだった。それを打ち合わせの時に、主催者に言ったものだから、最初は軽いジャブで一つだけにしてほしいと言われてしまった。

健常者と言われる人が、健常者と言われることで、それなりに罪悪感を感じていたところに、さらに強烈に次々と否定的なことを言われるのはたまらないだろうな、と理解して、2つ目、3つ目はとりあえず黙ることにした。

障害をもって生まれたり、幼い時から障害を持っていると、凄まじい優生思想によって、この社会に迷惑、負担をかけ、生きてはならない存在と言われる。そして、ついにはその存在まで否定する法律があったわけだ。しかし、偉大な自然界の中では、DNAが他と違うというのは、必ずありうる確率の問題である。また、幼い時の病気で脳性麻痺等になることは、よくあることであった。

万物の霊長と豪語している人間が、その命の本質である助け合う力を機能させずに、人類の歴史が終わってしまうのはあまりにももったいないと、私は常々思っている。つまり、目を覆うばかりの環境破壊、食品汚染、そして人間同士の、あるいは他の生物に対するさまざまな暴力が、地球の自然を破壊し尽くそうとしている現状がある。

だから私は、介助をシステムにし、健常者を介助者として、障害を持つ人と関われる場をつくった。介助者として、障害を持つ人に関わるということは、自分の忘却し尽くした記憶を丹念に掘り起こし、生まれた時からどのように人に接してほしかったかを思い出す試みでもある。

私たちは、優生思想社会から見れば、あまりにも無力で生まれる。生産性とは真逆の争えない身体で、全ての人が生まれる。そして、いわゆる「一人前」と言われるまでに、尊厳を持った人間として、対等に扱われるわけではなく、常に評価され続ける。行き着くところは、お金さえ持っていれば、幸せになれるのだという、資本主義のマインドコントロールの中、命よりも大事なことがあると思わされていく。

コロナ禍で行われたオリンピックのメダル取り競争は、私にとってその象徴でもあった。そこに、介助という仕事は、命以上に大事なことはないということを知らせるシステムなのだ。この講演会の中で、私は、「サッカーやラグビーを見るたび、そんな玉転がしを一生懸命しているより、介助をしてほしいと思っている。その体力を、車椅子押しや、トイレ入浴の介助に使って欲しいと思うのだ。」と言った。そしたら、「僕はサッカーを見るのが好きなので」と、正直に言ってくれた人がいた。

だから私は、「サッカーを見ることが悪いと言っているわけではないけれど、そうした時間を少しは分かち合って、想像力をもって他の命を支える、ということを考えて欲しいのだ。」と伝えた。

そしてさらに、障害を持つ私たちは、支えてもらうことで、その忘却した記憶を引き出し、また想像力の鍛錬に手を貸していると思っている。つまり、私たちの存在は、助け合う社会、平和な社会をつくるために、真実に重要な位置にあるのだということを伝えたのだった。小さな子たちが満々と持って生まれてくる好奇心、想像力そして助け合う力こそが、未来を平和なものにするための鍵なのだ。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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