「隔離」と涙 / 安積遊歩

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友人に「競争を煽るスポーツは辞めて、自分の体で楽しみたいならみんなオナニーに対するタブーを取り払って、平和に楽しんでほしいよね」と言ったら、「そうだよね、ボノボとナマケモノみたいに生きれるといいよね」と言うことになり色々と盛り上がった。

自然界は弱肉強食であって弱いものは生き延びられない、と言うフェイクの情報が人間社会にまるで真実かのように蔓延している。しかし、自然界は弱肉強食というより、適者生存だ(これはヤフー知恵袋に詳しい)。弱肉強食というのは、ダーウィンの進化論で言われたことであって、それがあたかも真実かのように言われ続けた近現代社会がある。そのなかで弱者を救済するかに見せかけて隔離・分離が行われるようになった。隔離に追い込まれた人達は、それに対してNOと言いつづけているにも関わらず、その声は聞かれない。弱肉強食なのだから生きているだけでもありがたく思え、ということで人間が元々持っている自由への渇望は完全に無視されてきた。

隔離施設は様々あるが、生まれた時から見てみると保育園や学校、病院や老人ホームなど、その年齢の段階ごとに隔離されて、人間社会の弱肉強食のルールに従うよう、教えられる。しかし、そこからはみ出してしまうと更に矯正のための隔離施設が待っている。少女・少年院や刑務所だ。刑務所においては、罪の深さによって死刑という最悪のところに追いやられる。しかし、死刑制度は隔離状況から永久に戻ってこれない訳だから、そこでの冤罪や人を裁くことの傲慢さに気づくことによって、各国でその制度はなくなりつつある。そんな中、日本は死刑執行爆進中の国だ。

2016年7月、神奈川県相模原市のやまゆり園、障がい者施設で起きた殺傷事件。その犯人、植松被告は彼の思想を十分に喧伝されて、その上で死刑判決を受けた。

私にとっては、彼のやったことはもちろん許し難いことだが、その彼の言い分を喧伝し続けたマスコミ、そして、政府や司法の対応はまるで悪夢のようだった。障がいをもつ私たちを隔離収容する施設、それは私たちにとって最悪の地獄なのだ。身体が他の人と違っていても、生存と自由を求め続ける人間であることに変わりはない。

この文章の冒頭に戻れば、私たちの体はナマケモノのような争えない体を持っている。ナマケモノは天敵に対抗する強力な武器というものがほとんどなく、一度ナマケモノを捕食することで生きている天敵に見つかったら、そこには死しかない。だから、彼らが自分の身を守る最善の方法は、死を受け入れる、つまり諦めるということだ。

私は子どものときに隔離収容施設に2年半いた。手術と骨折を繰り返したからほとんど寝たきりの日々、部屋の天井にはガスパイプが通っていて、戦争になったら、私たちはそこから発射されるガスを吸わされ死ぬのだと想像し、思い込んでいた。

その施設から出て、学校と言う隔離を望んだが、優生思想によって将来企業や戦争で使えない人間は地域の学校という隔離ではなく、養護学校付きの施設に戻れと言われた。隔離のなかに住むことは、まず無力感を強いてくる。

保育園の子どもたちは自分の自由と人々のそれをよくよく観察しながらお互いを大事にするバランスを学ぶことは難しい。なぜなら保育園は命令と規制によって無力感を育て従順さを学ばせられる第一関門だから。それらはもちろん少人数で働かなければならない保育士たちの責任では全くない。経済至上主義・優生思想が最優先である社会の構造が、保育園という隔離状況にいる両者を追い込むのだ。それ以降学校・企業社会に適応することによって、無力感は自己否定感にまでなっていく。

そこにあるのは管理しやすいように涙を徹底的に否定する常識と多様性の拒否だ。私が提唱してきたピアカウンセリングは、その2つを使いまくって生きる環境を整えようというものであった。ナマケモノが争えない体をもつことによって、諦めることで死を受け入れるが、私たちは争えない体のなかでも十分泣くことによって愛情を目覚めさせ、ときには死を免れてきた。

幼いときの私の天敵は医者で彼らから命を守る手段は泣き叫ぶことであった。彼らに向かって何日も何時間も泣き続け、それを母は聞いて母も一緒に泣き私を庇い、守った。結果いのちまでは奪われることなく生きてこれた。人間社会の最も有効ないのち継承の手段は、涙を聞くことと無条件の愛情だ。

いのちを追い詰められて泣くしかない人々の声に耳を傾けて、泣くことを止めずに社会をつくり変えること。それが未曾有の環境破壊(科学者たちによれば、現在は、生物の「第6の大絶滅期」とも言われている)を乗り切る最も有効な手段だと、私は確信している。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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