地域で生きる/21年目の地域生活奮闘記53~日常の移動が危険にさらされる時代に想うこと~ / 渡邉由美子 

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11月も終盤となり、少し古い話題にはなりますが、忘れることのできない事件であり、避けることもなかなか困難な事柄なので、私の考えをまとめてみたいと思います。それは10月31日に京王線で起こった無差別テロ事件のことです。

私は社会参加活動のためにほとんど毎日公共交通機関を利用します。私が自立生活を始めた21年前は重たい電動車いすを8人から10人の通行人と介護者を含め駅員さんに協力をしていただいて車いすの溶接部分をゴムホースで巻き、それを肩にかついで毎日お神輿状態で電車に乗っていた時代もありました。

そしてその頃は改札口も当然通れないので、改札の上を車いすごと担がれて通っていたのです。そんな時代は今回の事件とはまったく違いますが、大げさではなく命がけで電車に乗っていたことを記憶しています。

電車に乗っている人は好意的な人が多く、協力をしていただいて毎日をバリアだらけの中で過ごしていた時代もありました。そういう意味では電車は機械的なトラブルとか、運転ミスとかいう事態さえ起こらなければ、この上なく安価で移動の自由を得る事のできる手段のはずでした。

その安全安心の乗り物とされている電車がこの頃乗客の狂気によって乗り合わせた乗客を恐怖に陥れ、走っている電車という健常者でも逃げ場のない密室空間で事件が多発しているのです。

京王線の事件を起こした犯人は人を殺して死刑になりたかったと証言しているとの報道がなされています。刺されてしまった高齢の男性は「何をしているのか」と声をかけただけで第一の標的にされ、重傷を負ってしまいました。

私はこの男性の立場をもし自分だったらと考えてしまいました。私はいつも乗り込む駅で駅員さんに乗っている場所を指定され、そこから動くことはできません。なぜかというと降りる時に、その車両のその場所のドアにスロープを出してもらうからです。

もう一つの理由として電車の連結器の部分は床板の下が蛇腹状になっていて、不安定なので車両の移動はしたことがありません。移動するとしたら停車駅でいったんスロープを用意してもらって別の車両に乗り換えることにならざるを得ないのです。

健常者が犯人から遠い車両に乗り換える中で、介護者と私だけがポツンと犯人のいる車両に取り残されたとしたら、間違いなく標的になり、私たちの命はひとたまりもないことになると思うと、おちおち電車にも乗れないと恐怖を感じてしまいます。だからといって利用しないわけにもいきません。本当に難しい課題だと思いました。

そして事件が起きて電車のドアが開かなかったために、健常者は半分しか開けることのできない窓から脱出をはかりました。なぜドアを開けることができなかったかというと、ホームドアと電車のドアの位置がずれていたので、安全性が確保できないと乗務員がぎりぎりの状態の中で判断したためであると報道されていました。

視覚障害の人や私のように手の麻痺のためにどうしても車いすが真っすぐ運転できず蛇行してしまう人々を安全にホームから電車に乗せるためのホームドアが、人的事件が電車内で起きた時には、裏目に出て脱出ができなくなる。こんな不条理な矛盾をどう解決したらよいのでしょうか。とても解決しがたい悩ましい現実と思い、私にもこうすればよいという考えが浮かばない現状にあります。

そして、もう一つ忘れてはならないこととして、事件を起こした犯人はどうしてこのようなことを実際に実行してしまうほどの閉そく感や孤独感などを感じてしまい、犯罪という形でしか自分の置かれている境遇を終了できなかったのか、そんな側面も私たちは障がい者差別という観点に類似する問題として考え続けていかなくてはいけないと思います。

もはやここまでの事件を起こしてしまった後なので、犯人を擁護することはできません。しかし、京王線の事件は小田急線の事件を参考にしたと言っていますし、その後にも九州新幹線の車内で火災が起こる事件も起こっています。

人が駅で無差別に刺される事件も多発していて、とても日本は平和な国と言っていられない状況となっています。そこまでの事件が起こる前に誰かが彼らを止めたり、まっとうな道に導いたりすることができるようにしたいと思います。

私たち重度障がい者も様々な意味で生きづらさを常に感じていると感情が抑えられなくなり、人に怒りをぶつけてしまうことがあります。それでも我に返れば怒ってしまったことは良くなかったと反省したり後悔したりします。

しかし、これらの事件を起こす犯人はそんな歯止めを飛び越えて凶行に及んでしまうのです。どうしてそうなってしまうのか、考え続けていきたいと思います。居眠りをしていても、穏やかに乗っていられる交通機関を取り戻すために、事件の裏側にひそむ社会的背景や今の社会の歪みが生み出すえたいの知れないものをさぐり出し、セーフティーネットを作り上げられる世の中にしたいと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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