オンライン・オフラインとStand Alone Complex / 古本聡(CCO 最高文化責任者)

  • sns

「仕事が全部オンラインになってずいぶん楽になったでしょう。」と知り合いからよく言われます。

確かに、以前のように週4日、5日を新幹線で遠方まで出かけることがなくなったので肉体的な疲労は軽減されたものの、これだけ家籠りの期間が長くなってくると、さすがに息苦しさも感じ始めています。

以前より精神的ストレスは多めです。

この息苦しさの要因は仕事の種類や量の多さなどではなく、オンライン/オフラインでとられるコミュニケーションの質的な違いにあると、私は感じています。

インターネットが普及し始めた90年代末頃は「インターネットは世界中の人をつなぎ多様な価値観を持つ人たちが相互理解を深められる世の中になる!」と、明るい未来を描いていた人が多くいました。

しかし実際は、趣味や価値観、政治的主張、信仰、所属、性別などはオンラインによって個別の塊のような、広大なネット空間に浮かぶ小島といったイメージの集団になっています。

これって絶対にダイバーシティではありませんよね。そして、一つの小島の住民が他の島に触れた途端、大炎上。

リモート会議で時折思うのは、「この人の言ってること、理屈はわかるんだけど、なんだか心に響いてこない…」です。

人が放つオーラというものは、よっぽどのレベルでない限り光ファイバーや電子通信網では伝わらないようです。

人はリアルで対話するとき、声での言語だけではなく、身振り手振り、姿勢、顔の表情、息遣い、空気の流動などのノンバーバルなコミュニケーション方法にも頼っているのです。

PC画面に表示されている人は像(アバター)であり、声も電子的に処理されたデータを、再度電子的に再生したものなので、ちゃんとした意思疎通はある程度諦めるしかないのかもしれません。

新型コロナウイルスにより私たちのライフスタイルは激変しましたが、これからも変異株が出現し続ける限り、その変化は繰り返されると考えた方がいいでしょう。

「新型コロナウイルスは人類に与えられた試練」なのだから、ここは皆で耐えて、耐えて、耐え抜こう!という掛け声も聞かれますが、どうもこの先「afterコロナ」ではなく「withコロナ」の時代が長く続くのでは、という気が個人的にはしています。

withコロナ時代においては、リアルでのコミュニケーションが減りネット通信による接触時間が増えるにつれ、人の個性(オーラ)はより認識されにくくなり、その結果として、情報の並列化が進む、といったようなことをどこかで聞いたか読んだかした覚えがありますが、私達はそんな変化にも慣れて、適応していくしかありません。

一方で、afterコロナの時代が今考えているよりも早く到来するとしたら、私達の、仕事を含む生活がbeforeコロナに戻るでしょうか、いや、容易に戻すことができるでしょうか。

コロナがもたらした不便さもさながら、それを上回る便利さを経験しているのですから、全く元通りにするというのは無理があるでしょうね。

コロナ禍収束後には、コミュニケーションのオンライン:オフライン比率を2:8にしたいとか、逆に9:1位にしておいてもいいとか、様々な声を聞きます。

でも私は、何となくその中間で、オンライン:オフライン=6:4位がちょうどよく、その比率に落ち着くのではないかと思っています。

コロナによる家籠りが始まって1年余り、オンライン・コミュニケーションはつまらないと思うようになってきました。Zoom飲み会も最初は新鮮でしたが、まあテンションが上がることはほぼありません。

逆にリアルコミュニケーションの大きな価値に気づかされた期間でした。

家籠りしながらのオンラインワークの中で私は、20年位前に興味を持って観ていたSFアニメに登場したある言葉を思い出しました。

「STAND ALONE COMPLEX」です。

これは、「攻殻機動隊(英語名:GHOST IN THE SHELL)」というアニメのシリーズ第一期で登場した社会現象を表す言葉です。

このアニメの主人公たちは、近未来の日本における公安調査機関の特殊部隊員で、互いの脳がオンラインでつながっていて、しかも身体は義体。

そして、STAND ALONE COMPLEXという言葉の意味は、概ね次のようなことだったと記憶しています。

 

  • 人々の意思(GHOST)は、本来別の個性を持っているはずなのに、人は無意識に組織立って同じ行動をとろうとする現象。
  • 別々の思想を持った人々が何らかのきっかけで期せずして同じ行動をとり、一個の生命体のように動く現象。

 

20数年前に既に今のネット社会、オンライン社会の在り様を、このアニメは予言していたかのように思えてなりません。

事象の良し悪しは別にして、withコロナ時代ではそういうSTAND ALONE COMPLEXがこれまで以上に増えるのではないのでしょうか。

この現象に飲み込まれずにオリジナリティを保ち続けたいならば、その心構えをしっかりとしておかないといけないという気がします。

そのような時代になると、個人が自律してパフォーマンスを発揮することがより重要になるからです。

今、あのアニメの中で、主人公たち特殊部隊を束ねる公安9課荒巻課長の言葉が思い出されます。うろ覚えですが書いてみます。

『我々の間にチームプレイなどという都合のよいものは存在せん。あるとすれば個々のスタンドプレーから成るチームワークだけだ』

 

◆プロフィール
古本 聡(こもと さとし)
1957年生まれ

脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。

早稲田大学商学部卒。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。

2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。

 

  • sns