土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて⑥-2 / 高浜 敏之

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6 重度訪問介護事業スタート②

今振り返ると、提案した当時の心理には空白地帯の埋め合わせ、すなわち追悼の感覚がいくばくか発見されなくもない。新田さんの周囲にいた人たちにとっては、重度訪問介護、というサービスは、どこか新田さんの遺産めいたもののように受け取られ、重度訪問介護を使う、あるいは担う自分たちを、新田さんの遺産相続人のような気にさせる。

スタートした当初は、時折かつて運動を共にした仲間からのサービス依頼に応答するくらいのささやかな運営をしていた。いく先々で、重度訪問介護やっているの?珍しいね。ところで医療的ケアできるスタッフいる?というケアマネージャーや相談員のコメントは気になってはいたが、先々日本全域にわたる大々的な運営をすることになるなどとは、まったく想像しなかった。

2014年6月に東京都中野区で芽吹いた、デイサービス土屋の後継ともいえる土屋訪問介護事業所は、2015年から医療的ケアを必要とする重度障害者、中でもALSなど難病の方々へのサービス提供を本格的にスタートした。その草創期には、他の事業所で頚椎損傷、知的障害、脳性麻痺、などの障害をお持ちの方々のケアに関わっていた妻も参加して、ALSや進行性筋ジストロフィーなど難病の方の支援に入ってくれた。

そして気が付いたら、北海道から沖縄まで、日本全国にわたって、主に医療的ケアを必要とする重度障害者に、重度訪問介護サービスを提供してきた。全ての必要な人に必要なケアを、という共通価値を合言葉に、サービスニーズが十分に満たされてない介護難民といわれる方々にサービス提供するために日夜奔走してきた。

この延長線上に株式会社土屋ならびにホームヘルプ土屋が誕生した。

2020年8月に株式会社土屋が立ち上がり、11月にホームヘルプ土屋が出帆した。

様々な方々がこの一大プロジェクトに参加されてきた。そして私もその一員として、現在事業運営の一端を担わせてきた。一時は、生まれたばかりの子供や妻と離れ離れに暮らしながら、この事業の立ち上げのために日本全国を奔走していた。

この全国展開に合わせて、長年東京に暮らしていた私たち家族は妻の故郷である岡山県に移住し、妻の両親のサポートをえながら仕事とプライベートのバランスを図っていった。そんな私を駆り立てているものは何だったのか?

記憶の中にその残像が見え隠れする、足文字の痕跡、それは確かに私の方向性を決定づけている。いのちの保障を一貫して語り続けた足文字のインパクトは、もしかしたら私の残りの人生からその反響が失われることはないかもしれない。たとえ表層意識から発見できなくなったとしても、意識の最深部で通奏低音が鳴りやむことがないようにも思えてしまう。

もしかしたら土屋訪問の運営と重度訪問介護の創始者である新田さんのビジョンとは、不一致があったかもしれない。土屋訪問介護事業所の全国展開を牽引ながら、パーソナルアシスタンスすなわち専従介護人制度の重要性を強調し、時には事業所不要論を強調した新田さんから怒られそうな不安が時折よぎる。

しかし、いのちの保障、という新田イズムからは微塵も逸脱していないという自負は、その不安をかき消し、次なるステップへと駆り立てていった。

新田さんの直系の後継者ともいえる木村英子さんはいま、参議院議員として国政に参加し、障害者の人権の回復を訴え続けている。

約20年前に私は木村英子さんが立ち上げ運営する自立ステーションつばさという団体で自立生活をされる重度障害者をサポートするお仕事と出会い、今日に至る。彼女との出会いが、腰掛のつもりで入った障害福祉の世界に私が深く沈潜することになった契機であったことは疑いようがない。

収容施設でなく、地域でふつうに共に生きたいという情熱に、射抜かれた。その衝撃はいまだ忘れられない。そして私たちは支援者の立場から、24時間365日、日本全国どこに住んでいても、重度の障害をお持ちの方々が重度訪問介護サービスを受けられるような社会環境を作っていきたい。

サービスを受けられないことにより、自分自身への存在価値に疑念を抱き、周囲への迷惑を慮って死を選択せざるをえないとしたら、それは尊厳死ではなく、社会全体からのネグレクトによる黙殺とも受け取れる。いのちの保障に反することはいうまでもない。

先日京都でおきたALSの方の医師による嘱託殺人事件より、尊厳死・安楽死を合法化するようなオピニオンに追い風が吹いているように思われる。しかし、私たちは、死ぬを選べる社会ではなく、前向きに、生きる、を選択ができる社会を作りたい。

その最大のツールの一つが重度訪問介護であると信じている。重度訪問介護を広めるとは、あらゆる個性の生をあるがままに肯定する、明るい前向きな社会を作ることだと信じている。

それが、足文字の痕跡に対する私なりの応答であり、新田勲という人物へのリスペクトの表現でもある。

 

◆プロフィール
高浜敏之(たかはまとしゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼 CEO 最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

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