続・私の身長 / 安積遊歩

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低身長の体であることは幼い時にダブルスタンダードの価値観を押し付けられるということだった。小さくて可愛いというのと、小さいくせに生意気で可愛くないという、全く反対の言われ方。物心ついてからは可愛いと言われて褒められても、あまり得にはならないと気付いていった。例えば小遣いをもらう時でも、可愛いと言われてもらった小遣いが兄より少ない時には、生意気と言われても同じ額をくれるように抗議した方が黙っているより良いということを学んだ。

妹は3歳で既に5歳の私より大きかった。しかし私は年が小さい方が身長が小さいより損をすることに気付くのが早く、大人に対しては小さいからと言って妹と同じ扱いをされないよう声を上げ続けた。

私の場合、身長が低いのは遺伝子の構造によるもので、成長ホルモンには関係ないということだったから、小人症の子供たちの生態実験に召集されずに済んだ。小人症の人たちは、数十年前に20人ほど、牛成長ホルモンの生態実験の治験者としてある大学に集められた。身体各所の様々な痛みや頭髪の脱毛、人によっては目が飛び出したり首が腫れまくったりなどの阿鼻叫喚の地獄があったという。それでも伸びた身長は10センチ前後だった。集められた子のほとんどは10代前半だった。だから1年後、学校に戻ってみたらクラスメイトもまた同じくらいの身長の伸びがあったので、結果何も変わらなかったという。

その治験の過酷なところはそれ以降ずっとホルモン剤を飲み続けなければならず、私に会いに来てくれた被験者の1人は、だいぶ肝臓がやられてしまったと嘆いていた。

世の中には優生思想を良しとする価値観が溢れているが、その中でもこの低身長を差別する言葉は結構あって心が痛くなる。ちょっと前に「三高」という言葉があった。これも高身長・高学歴・高収入の男性がモテるということで、そこで競争させられる男性たちの痛みはどんなに深いものであっただろう。人によってはあまりに深くて、感じないようにしたり、思考停止状態にしたりして生き延びていっただろうが、それが屈折して表現されると女性や子供への暴力にもなっていっただろう。

ところで私のされた手術も小人症の人たちと同じように、あまりに無駄で悲惨なものであった。曲がった骨を少しでも真っ直ぐにして足の長さを伸ばすことと、真っ直ぐな方が可愛いだろうからという理由で、失敗を重ねながらその手術を8回もされたのである。その手術をやろうと思うためには、自分の曲がった骨を嫌わせ、拒絶させるというところからのマインドコントロールがまず為される。

今考えれば優しい母だったから、痛みへの壮絶な苦しみを見るよりは、私に「そんな手術しない方がいい」と言いたかったと思うのだ。だが少しでも足が伸びた方がいいと思っていた医者とそれを聞かされていた私は、母の不安をよそに手術を繰り返した。しかし結局伸びた身長は3、4センチ。柔らかな私の脊髄は私の頭の重さに耐えかねて10代の初めの頃からS字に変形し始め、足の手術で伸びた骨をS字に変形した脊髄が相殺してしまった訳だ。

10代前後頃には、背が小さいというわけで受ける差別の先にある小人プロレスという仕事を、体を張ってしなければならない人たちのポスターに出会い、見て見ぬふりをし続けた。とにかく低身長であることに向き合うことは過酷すぎて、彼らの苦境には全く想像力が働かなかった。

数年前、森達也さんと出会い、森さんと小人プロレスの人たちの関わりを聞いて彼らのサバイブし続けようとする力に敬服した。ただ私の障害を持つ男性たちは骨が脆すぎるのでプロレスは無理だ。その代わりに何人かは障害を持つ人の運動の中でリーダーシップを取ったり、商才のある仲間は自分で会社をやっていたりもする。

女性で私と同じ障害を持つ人たちも中々パワフルだ。自分の体とは合わない街構造や家の中でもそれぞれ必死に動き回って家事をしたり、活動したり。小さいということは他の人と比べるから小さいのであって、比べなければこれはこれで私の身長なのだ。何も卑下する必要も無いし、嫌ったり否定する必要も無いことだ。

私は私と思えるようになった今、世界中の自分の身体のありようを否定している人々に伝えたい。あなたはあなたのままで最高なのだよ、と。

 

プロフィール
安積遊歩(あさかゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ。

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

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