土屋の挑戦〜インクルーシブな社会を求めて⑦ / 高浜敏之

『⑦ ソーシャルビジネスの発見』

このように私は障害者運動の余韻の中で重度訪問介護の事業所を立ち上げ、その広がりの一端を担ってきた。そして、私たちはこの事業の展開において、ビジネスモデルを採用した。非営利組織ではなく営利企業として、社会福祉法人やNPO法人としてではなく、株式会社として、このサービスの推進を図ってきた。

そもそも私自身は、若かりし日に関わった営利企業の在り方に対する強い嫌悪感から、大学卒業後には非営利組織で仕事をしようと心に決めた。そして最初に出会ったのが木村英子さんの運営する自立ステーションつばさであり、新田勲さんが牽引する全国公的介護保障要求者組合だった。

まさにそこに私の求めていた生き方と働き方を発見することができた。

営利組織の本質は、いうまでもない、利益の最大化である。では利益とは何か?それは売り上げからコストを引いた時の差から生まれる。売り上げが大きくなればなるほど利益が大きくなる可能性が生まれる。だから営利企業は、その売る商品が、顧客に益するか否かを時に度外視してでも、まず売る、ということを自己目的化する。

売るためには万策を尽くす。時にモラルハザードを起こしたとしても。他者を害したとしても。商売においては、正しいか間違っているかより、売れたか売れないか、利益が出たか否かのほうが、重視される。

また、どんなに売り上げが大きくなったとしても、それ以上にコストが膨らんだら、利益は出ない。だが、営利企業は利益を大きくするためにできるだけコストを抑えようとする。多くの企業の最大コストは人件費だ。人件費を削ると利益が大きくなる。人件費が小さくなると働く人たちの生活は苦しくなる。結果、企業はもうかる。

つまり、多くの人たちの生活が苦しくなるという犠牲のもと、企業の利益は増大する。多数の苦しみと喪失に基づいて少数の富が日増しに増していく。

必要のないものを甘い言葉を使って売りつけ、汗水流して働く人たちの生活費すなわち労働賃金をコストと名づけ、できるだけ削るようにあくせくする。それが営利企業の本質だとしたら、心から嫌悪を感じる。

実際そうだと決めつけ、反営利企業、反資本主義、という御旗のもとに仲間たちと集まり、一時は労働運動にも熱中し、コミュニティーユニオンの立ち上げにも参画させてもらったことがある。

一方、大学卒業後にスタートした非営利組織での介助のお仕事は、そのような営利企業的な側面は全く感じられなかった。日々介助のお仕事をさせていただくなかで、その役割が疑いようのないニーズに即した営みであることを実感させてもらえた。

人の命と生活を支える、疑問をさしはさむ余地がまるでない。また私が参加したコミュニティーでは、人の働きをコストと呼ぶような下品な文化は全くなかった。人の働きが利益を増大するための手段として利用されるという感覚を抱くことが全くなかった。素晴らしい仕事と出会えた、これぞ私が求めていたものだ、心からそう思った。心理的満足が高いあまり、自分自身の低賃金など全く問題にならなかった。

そんな私が40を超えて8年あまり、The営利組織ともいえるベンチャー企業の事業運営とその展開を担い、いまや株式会社の代表取締役になってしまった。

とてつもない変節だ。転向するにも程がある。ほんとにそう思う。自分自身の変わり果てた姿と思考パターンにあきれることすらある。周囲からもたびたび揶揄される。

中には真っ向から糾弾され、タブーを侵犯したものとして遠ざけられ、縁遠くなってしまった活動家仲間も複数いる。

まず恥を忍んでエクスキューズをさせていただきたい。

支える必要のある人がたくさんいた。お金が必要だった。対人支援そのものを目的とする非営利組織は得てして賃金が非常に低かった。シングル単位で生きることをモットーとしていた私にとっては十分すぎる賃金が、他者を経済面でも支える必要が生じた私にとっては不十分すぎた。

困窮した私に必要な賃金を提示してくれたのは、NPO法人ではなく、株式会社だった。

40を前にして、遅ればせながら、ビジネスマンとしてデビューした。それは、30を過ぎてプロボクサーとしてデビューするような感覚だった。

案の定、デビューしてまもなく嫌悪感がやってきた。利用者さんたちの生活が売り上げとういう数字に還元され、スタッフの懸命な労働がコストという数字に還元され、売り上げという数字を伸ばしたり、コストという数字を引き算したりといった、私自身は通ったことのない公文学習塾で訓練されるような足し算引き算がはじまった。その算数の時間には、他者の生活に想像をはせる余裕はなかった。

しかし、現場に戻ると、そこにはデイサービスに通うことで何とか生活が成り立っている利用者さんたちの息遣いと、決して高いとは言えない賃金にも関わらず必死で業務を担おうとしてくれる現場スタッフの鼓動が感じられた。求めていたリアリティーは確かにそこにあった。

この現場のリアリティーと足し算引き算の経営の間で心理的にも身体的にも激しい葛藤を感じた。ときには深い後悔も感じたし、元に戻りたいという強い欲求も感じた。しかし、逃げ癖のある私だが、今回は退却するわけにはいかなかった。

しかも私には、家族を支えていかなければならない、というもう一つの抜き差しならないリアリティーがあった。葛藤の中で、留まる、いう選択をし続けた。葛藤は日増しに増した。

逃走することなく、この葛藤を乗り越える隘路を探した。

そして、見つけた。ソーシャルビジネスという方法と思想を。

ソーシャルビジネスによって、非営利組織と営利企業のいいところ取りができるかもしれない、社会支援と利潤追求の矛盾と葛藤をアウフヘーベンできるかもしれない、そう思った。

希望が蘇った。

 

◆プロフィール
高浜敏之(たかはまとしゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼 CEO 最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。