『VEGETABLE WARS episode 2』 / わたしの

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「不幸だわ」

エシャレットのお姫さまは「自分は不幸だ」といつも言っていました。

あらゆることが気に食わず、一日中文句ばかり言ってました。

「不幸だわ、私は不幸だわ」

例えばどんなことが不幸なのでしょうか。

エシャレットのお姫さまは自分の住んでいるお城が大嫌い。
なぜならお城は大きすぎて家の中なのに移動はたいへんだし、暖まりづらく寒いし、石作りでちょっとした音が反響してうるさいからだそうです。
壁の色もセンスが悪い。

「もうやだ、こんなお城大嫌い。住みたくない」

ごはんが美味しくない。

まともなものが一切ない。

太陽がまぶしすぎる。曇りの日がずっと続けばいい。

しかし、曇りの日になると暗くて寂しくていやだ
とエシャレットのお姫さまは言いました。

「本当にここは薄暗くて気分が滅入るわ」

風も強くて埃っぽくてザラザラしていて、不愉快。
周囲は畑だらけ。
平気で何か分からないものを燃やしているから国中煙と砂埃だらけ。

それから家来も嫌い。
お付きのブロッコリーは暗くて無口で何考えてるか分からない。コミュニケーションが下手くそ。この仕事に向いてない。いやいやながらやってる感が出ていて不愉快で仕方ない。
さつまいもはうるさい。とにかく自分の思ってることを押し付けてくる。こちらの意見を聞かない。
ニラは臭い。
じゃがいもは不細工。
ピーマンはセンスが悪い。勘も悪い。すぐにピンとこない。間も悪い!いつも今じゃないって時に現れて邪魔をする。

家来たちは言うことを聞かない。だからと言って自分たちで何か考えて動くかというとそんなことはない。だらだら休憩して過ごしているだけ。群れて、おしゃべりして、ランチはどこに行く?とか、たいして美味しくない店選びかネイルアートかタピオカかヨガの話しかしてなくて、それも自分の意見なんて何にもなくて上司が白と言えば白、黒と言えば黒、長いものに巻かれろっていう徳の低い家来ばかり。気持ち悪い。前世が虫で、やっと野菜になれたような奴らばかり。

「不幸だわ、不幸。」

それからこの国も大嫌い。
物価が高い。治安も悪い。
文化の程度が低い。スタバもない。カルディーもない。本屋もない。唯一の娯楽がレンタルビデオってどうなの?

住んでる野菜の住人は馬鹿で気性が荒く、自分の利益を優先して分け与えることなくいつでもぶんどり合戦を繰り返している。獣。浅ましい。本当は別の国に住みたいけど別の国だと家は買えないから、いやいやながらこの国で安い家を買って、仕方なく満員電車に揺られて遠くの町へ出稼ぎに行ってる。

休日は妥協して購入したかぼちゃの馬車で郊外の大型ショッピングモールに馬鹿みたいにオラついて乗り付けてそこで無駄な、消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!消費!それでなんとなく満足して憂さ晴らししているような愚民ばかり。
愚民、愚民、青空には小鳥が歌い~♪って歌っていてほしい。あー、いやだ。
阿呆。

「こんな国、大嫌い。住みたくない。出て行きたい」

エシャレットのお姫さまは怒り、時に泣きました。

アントニオ・カルロス・ジョビンもブライアン・イーノもフィッシュマンズもヴィム・ベンダースもトリュフォーもレオス・カラックスもラース・フォン・トリアーも寺山修司も中上健次もフォークナーも友川カズキも麿赤児も立川談志さえも、この国の住人ときたら知ってやしない(涙)。低能。文化がない。

エシャレットのお姫さまは泣いたかと思うと顔を真っ赤にして急に怒り、口汚く罵りはじめます。
あることないこと、怒らなくてもいいようなことにも目くじら立てています。

前髪と襟足だけ伸ばしてるガキの野菜が目立つ。ブリーチしてメッシュ入れてるガキの野菜も多い。馬鹿そう。親の野菜がそれをいい、格好いいと思ってる。価値観がそれ。浅はか。

学校の先生の野菜もそれに対して何も言えない。「個人の自由だ」と新自由主義に魂売るしかないけど、賢くないし信念がないから中途半端。どこかで保守的。糞みたいな価値観の言いなり。ことなかれ。程度が低いから本質を教えることができないし、自分も教わってきていない。
教えてもらえたのは表面的なこと。マニュアルとか。やり方。こなし方。いなし方。その場のしのぎ方。だから同じことを親の野菜も教師の野菜も子どもの野菜に教えている。

もう一回繰り返して言う。教えるのは表面的なこと。マニュアルとか。やり方。こなし方。いなし方。その場のしのぎ方。
だから心がない。やる気がない。意欲がない。根腐れしてる。
こんな国に生まれて不幸だ。

「本当にこの国いやだ!」

エシャレットのお姫さまは不満ばかり言っていました。

家族も嫌い。

確かに、父上であるエシャレットの王様は塩で揉まれてアルコール漬けになっていましたし、母上の女王様は萎びて「千切りになって早く死にたい」というのがいつもの口癖でした。

「誰も私のことを理解してくれない」とエシャレットのお姫さまは思っていました。

誰も私を理解してくれない。
誰も私を助けてくれない。
誰も私の話を聞いてくれない。
誰も私を労ってくれない。
誰からも私は感謝されない。

頑張っているのは自分だけ。
ひとりで全部背負っている。
悲しみも苦しみも不幸も全て背負っている。
みんなに苦しめられている。

私だけがかわいそう。

「不幸だわ、不幸!」

親から与えられた大きなフカフカのベッドの上に突っ伏して、エシャレットのお姫さまは自分は不幸だといつも嘆いていたそうです。

◇ ◇ ◇

エシャレットのお姫さまはらっきょうの一族が特に大嫌いでした。
この国かららっきょうたちを追い出そうと徹底的に弾圧しました。

「らっきょうなんて一粒残らず踏み潰してやる」そう言ってヒャヒャヒャとひとりで高笑いしているのでした。

〜つづく

※おままごとの野菜たちを使った人形劇『VEGETABLE WARS 』より。

 

◆プロフィール
わたしの╱watashino
1979年、山梨県生まれ

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