土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉒ / 高浜敏之

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22 CSV経営に向けて

様々な個人的な失敗を経て、私はケアと社会運動と社会的起業の世界に飛び込んだ。そして、様々な経営上の失敗を経て、私たちは株式会社土屋を立ち上げた。いま私たちがここにいるのは、様々な失敗のおかげであり、その失敗経験を糧にして、新しい事業に取り組もうとしている。

CSVという概念がある。経営戦略論の大家であるマイケル・ポーターが創造した概念である。それはCreating Shared Valueの略語であり、「共通価値の創造」と訳される。CSR(Corporate Social Responsibility)すなわち「企業の社会的責任」と対比的に語られることがある。

CSRが、営利追求をする企業が贖いとして社会貢献的取り組みをすることを指すならば、CSVは社会貢献や社会問題の解決そのものを目的とする営利追求を指し示す。CSVはソーシャルビジネスと同義といっても過言ではない。

私たちは出帆にあたって、このCSV経営をやっていこうと、創業メンバーと約束した。私たちにとって、CSVこそが目的であり、企業活動の本質である売り上げと利益の最大化は目的ではない。売り上げと利益の最大化は、社会貢献のボリュームや事業の持続可能性、ならびに全体的な賃上げとキャリアパス制度の構築の余力や、将来にさらなる社会貢献をするための投資の指標であり、目的では決してない。

ビジネスバリューすなわち売り上げと利益の最大化を、指標と捉えるか、目的と捉えるか、それは解釈の差に過ぎないともいえる。たしかにそうである。しかし、たかが解釈、されど解釈。どう読むかは、その経験や体感の質を全く異なるものにする。

失敗経験を味わえば、そこからは深い反省とそれに伴う英知がもたらされる。失敗経験の上を通りすぎれば、その先は止むことない自己正当化とそれに伴う硬直化とマインドの老化現象しかやってこない。心からそう思う。

ビジネスバリューを目的とすれば、そこには醜い貪欲しか感じられない。一方ビジネスバリューを指標と捉えるならば、社会性は事業性と融合し、理想が現実化する。

本物の理想主義者、本気の理想主義者は、どこまでも現実的であり、リアリストである。常々そう思ってきた。

理想を本気で実現しようとしたら、経済を無視することは決してできないだろう。経済を無視するということは、すなわち理想を本気で実現する気がないとすら思える。理想の追求に対してどこか悲観的だとすら思える。かつての自分自身がそうであったように。

「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」

二宮尊徳の名言である。このワンフレーズに、CSVの思想の本質が全て詰まっていると思う。

社会運動家だったかつての私が発する言葉は寝言ばかりだった。目覚めたいと思った。ソーシャルビジネスに身を投じた。しかし、この先に危うさが待っていた。私たちが「犯罪者」になるリスクである。もちろんこれは比喩であり、法を侵犯するということではない。そうではなく、私たちがモラルを踏み外すリスクである。理想よりも現実が、規範よりも欲望が、利他よりも利己が、道徳よりも経済が、勝利を収める可能性は、ずっと付きまとう。

私たちは弱い。私は特に弱い。そんな弱い私たちが、弱さに任せて向かってはいけないほうに向かってしまうことは、可能性として十分ありうる。個人しかり、組織しかり。

だから、私の、そして私たちの、弱さに完敗し、大切なものを、私たちの約束を手放してしまうことがないようにするためには、個人的にも、チームとしても、「克己」が求められると考える。「克己」するためには、自分自身を「定期点検」する必要がある。「定期点検」するためには、自分自身を映す「鏡」が必要だ。

私たちがかつての失敗を乗り越えて本当のCSV経営を推進し、同じ過ちを繰り返さないためには、「鏡」と「定期点検」と「克己」が求められる、そう確信する。

だから、自分たちを見る「鏡」として、土屋のミッションビジョンバリューをみんなで作った。土屋のミッションビジョンバリューは、私たちが私たち自身の過去と現在と未来を見るために必要不可欠なものであり、CSV経営を推進するための財産である。

その一文一文には、私たちの弱さの記憶と、失敗に対する反省と、二度と繰り返さないという覚悟と、未来への希望が込められている。

失敗を認め続けたい。束の間の成功に酔いしれる自分の弱さを、儚い成功に舞い上がり勘違いする自分たちの弱さを、見つめ続けたい。

自分自身に対してマインドフルであり続けたい。

そのために、土屋のミッションビジョンバリューをフル活用したい。

そうやって、真のCSV経営を、道徳と経済の絶妙なバランスを、犯罪でも寝言でもない本当の事業を推進していきたい。

出帆の日にみんなで誓った「約束」を、守り続けたい。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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