認知症の人の小さな声② / 高浜将之

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私が認知症グループホームのホーム長をしていた頃の話です。

入居者Aさんは、甘い物が好きで、他の人の食べ物でも「これ食べていい?」と欲しがる様子も度々見られていました。Aさんは自分の意思は通すけれども、あまり周囲に配慮する様子は見られない生活を送っていました。

私がBさんの受診に付き添い、13時過ぎにホームに戻った日の事です。その日の食事は菓子パンで、近所のパン屋さんで買ってきた色とりどりのパンを、皆で分け合って食べていました。パン好きのAさんにとって大好きなメニューです。半分ほどの人が食べ終わり、Aさんももうすぐ完食しそうなタイミングでBさんと私は帰ってきました。

Bさんに昼食のパンが提供され、遅めの昼食を食べ始めた時、AさんがBさんのパンを指しながら何かを不満げに訴えていますが、口の中にパンが入った状態で話している為、良く聞き取れません。何度も手を伸ばしながら怒る様子のAさんに、私は「これはBさんのですよ」と説明しますが、Aさんは「そうじゃない」というような素振りを見せます。

「Bさんが遅れて食べている」ことを説明しましたが、全く聞き入れる様子のないAさん。私は、Aさんが自分の好物のパンを食べたいからBさんのパンに手を伸ばそうとしているのだと思いました。

しかし、あるスタッフが「Cさんのお皿が空だから分けるように言ってるのよ」と言い、Cさんの皿にパンを一つ置くと、Aさんは納得されました。Aさんは(すでに食べ終えていた)Cさんが、「まだ食べてない」と思い、分けるようにスタッフに主張していたのです。

私は、Aさんの行動を尊重し、(大げさではなく)何百回と一緒に外出し、Aさんからも一程の信頼を示してもらっており、Aさんのことを理解した気になっていました。その時の私は「きっと今日もAさんは自分の好きな食べ物を食べようとして他の人のお皿に手を伸ばしている」と思い込んでいたのです。

このように「思い込み」によって、利用者の気持ちを理解せず、適切な対応がとられていない現状は、認知症介護の現場で多々見られています。支援する側の「思い込み」は、支援される側の生活に多大なる迷惑をかける訳です。尊厳を冒すことにも繋がります。

「思い込み」は、「知っている・理解している」という傲慢さによって気付かないうちに育つことが多く、だからこそ一緒に働く仲間の意見・声が大切になるのです。

経験や資格も大切ですが、小さな声を素直に聴こうとする姿勢が認知症介護では最も重要です。

土屋のミッション「探し求める小さな声」は、認知症介護にも繋がっていくのです。

 

◆プロフィール
高浜 将之(たかはま まさゆき)

大学卒業後、営業の仕事をしていたが、2001年9月11日の同時多発テロを期に退職。1年間のフリーター生活の後、社会的マイノリティーの方々の支援をしたいと考え、2002年より介護業界へ足を踏み入れる。大型施設で2年間勤めた後、認知症グループホームに転職。以後、認知症ケアの世界にどっぷり浸かっている。グループホームでは一般職員からホーム長、複数の事業所の統括責任者等を経験。また、認知症介護指導者として東京都の認知症研修等の講師や地域での認知症への啓発活動等も積極的に取り組んでいる。現職は有限会社のがわ代表取締役兼医療法人社団つくし会統括責任者。

 

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