土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉓ / 高浜敏之

  • sns

23 土屋のミッション

探し求める 小さな声を ありったけの誇らしさと共に

土屋のミッションである。出帆の日に刻んだこのミッション、すなわち社会的使命を、私たちは遂行していこうと、約束した。

「小さな声」というフレーズとの出会いは、今から20年以上前だった。新聞専売所で配達員として働いていた時遭遇した、元旦の夕刊に掲載された韓国の映画監督が語った言葉だった。

その言葉に触発されて、大学卒業後には社会的マイナリティーの方に寄り添う仕事がしたいとぼんやり思った。大音量のスピーカーから発されるマジョリティーの「大きな声」にかき消されて聞き届けられることのない「小さな声」に応えていきたいと思った。

社会的マイナリティーと言われる方々、障害者、移住外国人、セクシャルマイナリティー、ホームレス、シングルマザーの方々の声は、確かに小さかった。その声が存在することすら社会全体から忘れ去られているのではないかと思う程、彼女たち/彼らの声は、半ば黙殺されていた。

だからみんな、必死で声を発していた。「私たちはここにいます」ということを、必死で訴えていた。

恥ずかしながら、私自身も、社会運動の世界に飛び込むまで、それらの声が存在することすら知らなかったし、関心すらなかった。黙殺する側にいた。しかし、たまたまの出会いが、自分自身の無知から解放される契機となった。

たくさんの「小さな声」と出会い、その声に応えるように努めた。その結果、自分自身の価値観が変わり、視界が開けた。たまたま出会えた自分は、本当にラッキーだったと、心から思う。

そして、まだまだ誰にも聞き届けられることのない「小さな声」が、この社会に無数に存在するという確信がある。その「小さな声」が私たちの鼓膜を震わすことを待つことなく、積極的に「探し求めて」いきたいと思う。「小さな声」が聞こえる場所まで、私たち自身が赴いていきたいと思う。

私たちのリソースは有限だ。全ての声に応えることはもちろんできない。ただ、できるだけ応えるよう努めることは、限られたリソースの範囲のなかでひとつでも多くの声に応えようとすることは、できる。余力があれば、受け身で応えるのではなく、積極的に「探し求めて」いきたいと思う。

「小さな声」が黙殺されたとき、置き去りにされたとき、無視されたとき、あとに残るのは悲しみであり、怒りであり、無力感であり、絶望であろう。そんなネガティブな感情に支配された人は、時に自ら命を絶ち、時に怨恨感情と共に暴力に、他者を傷つけることに、身を委ねる。貧困と絶望のなかでテロ組織に身を投じたアフガニスタンの若者たちのように。

被害者が加害者となっていく。このありきたりな物語を想像するのはさほど難しいことではない。

だから、支援するとは、「小さな声」を探し求め、それに応えることは、非暴力活動でもあり、反戦運動にすら昇華しうると思っている。悲しみを喜びに、絶望を希望に、諍いを平和に、上書きしうる可能性があると思っている。

平和は、待っていては育たない。希望は、ぼさっと待っていても生まれない。それらは積極的に創造していかなければならないと思う。

一人一人ができることは限られていても、一人でも多くの人がこの「小さな声を探し求めるプロジェクト」に参加してくれれば、有限は無限へと一歩一歩近づいていく。だから、そのために私たちはビジネスのスケールメリットを最大限活用していきたいと思っている。

自分自身を小さな枠の中にはめて諦めのパターンに安住するのではなく、またリソース不足を原因としてそのプロジェクトを一過性のものに終わらせることなく、「探し求める」ことに対してどこまでも貪欲であり、その活動のサスティナビリティを追求していきたいと思う。

そして、そんな「小さな声を探し求めるプロジェクト」を仲間たちと共に担えることに、最大限の「誇らしさ」を感じる。

傷ついた人に、病める人に、絶望する人に、困っている人に、余ったリソースをシェアすること程、自分自身の存在価値を実感できることは、他に見当たらない。まさに疑いようのない価値を実感する。

利他的行為は、対人支援は、自尊感情を高める。しかし、それとは正反対のベクトルのメッセージが、外の社会から発されることを聞くこともたびたびある。

アテンダントが自ら「これしかできない」「生活のために致し方なくやっている」という言葉を発することを聞くこともいままで少なからずあった。

日曜討論会などで「介護という仕事は生産性が相対的に低い」という発言を、この国のリーダーシップを担う方々がする場面も何回も目撃してきた。

またアテンダントがいま得ている賃金や未来に描かれるキャリアパスの軌道は、「ありったけの誇らしさ」を抱くには十分とは言い難い。

賃金を据え置いたまま意義だけ説くのは、結局「やりがい搾取」にしか帰結しない。また成長するための機会、知識を深め、技術を磨く機会が確保されず現状維持が求められ続ける環境からは、矜持は生まれ難い。

私たちと共に、「小さな声を探し求める」旅路を歩むことを決断してくれた同伴者の方々に、「ありったけの誇らしさ」を感じていただくために、恒常的な賃上げと、未来に希望を抱くことのできるキャリアパス制度の構築と、成長を実感できる学習機会の創出に努めたい。

私たちのミッションを、株式会社土屋という狭いコミュニティーの中に閉じ込めることなく、そのミッションの本質を様々なステークホルダーと共有し、その実現のために共同戦線を結んでいきたい。

探し求める 小さな声を ありったけの誇らしさと共に

私たちはこの土屋のミッションを、安易に妥協することなく、追求していく。

私たちが、なぜ生まれたか、どこからやってきたのか、忘れることなく、追い求めていく。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

  • sns