SDGsな生き方 / 鈴木達雄

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6.人工海底山脈と生態系

これまで人類は陸の農業とは違い、海洋生物資源を増やす努力をしてこなかった。水産物を増やすには、大元の餌である一次生産すなわち海の生態系の底辺である植物プランクトンや藻類を増やすことが不可欠で、それには栄養環境の向上が必要である。

一方、2006年にBoris Wormら14人の研究者が、世界の海の生態系を64海域に分け、1950~2000年の50年にわたる調査・研究を行った。各海域の魚介類の生態系に係る種の数を実験や解析で詳細に調査し、2006年SCIENCE:VOL.314に発表した。

下図の縦軸は1950年の種の消滅をゼロとし、2000年に世界の全ての海域で、種の数の70%が消滅したと明かした。対策をせずこの傾向が続けば、2050年に世界の漁業が壊滅すると警告している。

下図は世界の主な海における有用水産魚と無脊椎動物の種が減少する様子で、赤◆は種の数が500以上の比較的安定した生態系を持つ海域の年間の種の消滅率、同じく青◆は種の数が500未満の生態系。

赤▲は種の数が500以上の積算消滅率、は全ての海域の種の積算消滅率で、2050年に全ての水産生物種が消滅すると推定している。日本の漁業者も同様な傾向を感じ、漁獲量は30年前と比較すると半減しているという。

SDGs14が2030年までに海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組みを行うとする、このような科学的根拠もある。しかし、2021年現在、海の生態系を改善し漁獲を増やす目的で実施する公共事業を、わが国の人工海底山脈事業以外には知らない。

下図の左のように海底の底質が砂泥で平坦な海域に人工海底山脈を建設すると、右のように湧昇流が発生し、海域を肥沃化し植物プランクトンを増殖し、表層魚に餌を提供する。

同時に底層に新たな岩礁生態系が形成され、中層魚・底層魚が海底山脈の上部や周辺に蝟集する。魚類が排泄するもの等の微細有機物粒子が沈降し、底生生物に捕食される。こうして魚介類の食物連鎖により豊かな生態系が形成される。人工海底山脈は、これらの餌料生物群を増殖し、海の生態系に大きな役割を果たす。

1977年、全国漁業協同組合連合会の調査で、日本沿岸の水深200mから50mの海域面積は342,802km2で、その92.8%の海底は、比較的平坦な砂泥域である。人工海底山脈1基の影響範囲を1km2とし、平坦で生産性の低い海域に1000基建設し、岩礁生態系を形成しても0.3%の海域の生態系の改善でしかない。

1995年の人工海底山脈の実証事業では、海底山脈内外にネンブツダイ、マハタ、イシダイ等が、周辺にはイワシ類、アジ類、ヒラマサ、イサキ、マダイ、イシダイ等の魚群が確認された。いずれも建設前には観察されなかった魚種である。これら大量の魚群は大量の排泄物を出す。この微細有機物粒子は沈降し、底生生物の餌になる。

下図左は、海底山脈を中心に概ね残差流方向、西南西、東北東に7kmの範囲で底生生物の個体数、種の数が増える分布を示した。海底山脈を構成するブロックの表面に付着する生物群を調査するため、下図右側のような石炭灰硬化体の試験体(25×25×25cm中空)を海底に設置し、11ヶ月後に回収した。この試験体には、平均342g/m2のカンザシゴカイ類、カキ類等の付着生物が、ほぼ全面を被覆していた。

実証事業の成果を基に魚礁とは全く違う、海洋生物の生態系の大元である植物プランクトンを増産する、県の公共事業や国の直轄事業が16件実施されている。しかし、残念ながら、世界はおろか日本でも知られていないのが現実である。「不毛な海を豊かにする人工海底山脈のひみつ」の動画を再掲する。

 
◆プロフィール
鈴木 達雄(すずき たつお)
1949年山口県下関生まれ。
1980年に人工海底山脈を構想し開発を進めた。この理論の確立過程で1995年に東京大学工学部で「生物生産に係る礁による湧昇の研究」で論文博士を授かる。

同年、国の補助金を受け、海で人工の湧昇流を発生させ食糧増産をする世界初の人工海底山脈の実証事業を主導。これが人工海底山脈の公共事業化、さらに国直轄事業化に繋がった。

現在は、予想される首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震からの早期復興を支援するため、震災で発生する材料を人工海底山脈に利用する理論と技術開発に取り組んでいる。

SDGs、循環経済を重視し、都市で古くなったコンクリート構造物を工夫して解体し、天然石材の代わりに人工海底山脈に利用することで、予め海の生態系を活性化し食糧増産体制の強化を図り、同時に早期復興を支援する仕組みを、行政と協力して構築するための活動をしている。

趣味:水泳、ヨット、ダイビング、ウィンドサーフィン、スキー、ゴルフ、音楽、絵画

 

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