乗車拒否という差別とは何か②∼∼公共交通機関を使いこなす∼∼ / 安積遊歩

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障害を持つ仲間に「差別されたことがありますか?」と聞いてみたい。私はそれなりに街にアクセスが整い、介助料の制度も作り、生き易くはなってきたと感じてはいる。しかしありと凡ゆる所に優生思想は機能しているから、街で生きることは差別に向き合い続け、それを変えていくことだと思っている。多くの仲間がまだまだ施設や病院暮らしを強いられる中、街で暮らせるということは人の繋がりの幸運と、そして本人の努力があってこそのことなのだ。

しかし、2016年7月のやまゆり園事件以降、障害を持つ仲間に内在する恐怖が少しずつ大きくなってきているなとは感じている。もっと言えば、不審者という言葉が日常に飛び交うようになった2000年代前後から、私たちに対する眼差しは少しずつ厳しくなっていると感じてきた。

今回、伊是名夏子さん(私は友人なので、なっちゃんと呼んでいる。以後なっちゃんと書いていく)が直面した小田原駅での乗車拒否。私にとっては差別そのものである事件についてTwitterで炎上している様子を聞いて驚きと無念の思いがこの文章の冒頭の質問に集約された。

差別は力関係を背景にして、生きる自由、幸福であろうとする自由を剥奪する。例えば人種差別は体の色や生まれた国によるもので、そこでの力関係は全く対等な筈なのに、暴力を使っての支配(植民地主義)で力を一方に集中させ、加害被害の関係を正当化してきた。今でも植民地化されている国は世界にたった一つしかないとされている。ウェストサハラという国だ。しかし今回書きたいのはそのことではない。

このブログを読んでくれている人々は、何らかの障害を持つ人に関わったり、当事者である人だろう。そこでお互いの中にある差別意識に直面し、どのように社会を変革していくかの手がかりにしてほしいのだ。

私たちは差別することも差別されることも怖い。怖いからそのどちらの立場にも就きたくないと願い、日々を生きている。しかし力を持っている立場にあると自分の立場が当然となって、力が無いと見える人たちを容易に排除する。乗車拒否は立場性を背景にした力関係の中で起きる。

私は車椅子で階段を登り下りして駅にエレベーターを付けるために戦ってきた。自分の目の黒い内に殆どの駅にエレベーターができるのは夢だろうとさえ思っていた。しかし自分の行きたいところへ行きたいという自由への希求は差別をされることへの恐れを圧倒して、多い時には1日3、4回以上は長い階段を登ったり降りたり、通行人の手を借りたものだった。その体験から私は、人は差別者に留まりたくはないのだという希望を得たし、実際このようにも多くのエレベーターができてきた。

今回の事件で驚いたのは、なっちゃんの側にある程度立とうとはしていても「なっちゃんは可哀想だけれど…」という人や、「ちゃんと駅員の体のことも考えているのか?」という意見が、障害当事者や障害を持つ人に随分関わっているであろう人からも言われていたことだ。

“私たちの障害は身体の機能的なものではなく社会的な要因によって障害が作り出されている”という考えは、障害者の権利条約以前の1981年の国際障害者年から明らかにされている。日本では青い芝の会の運動によって、人は生きているというその一点で尊重され、大事にされ、対等に社会を構成するのだということが言われてきた。もちろんそこから見て今の社会はあまりにも不十分で、そうした思考、行動に向かうためには一つ一つの差別にきちんと直面する必要がある。

今回の事件で私にとって明らかになったことは、社会が少しずつ保守化しているために、差別を差別として認識することをこんなにも怖がっているのかということだ。差別はある。根深くある。その一つが乗車拒否でもある。しかし有るならば、それに向き合って差別なき社会を思考してゆけば良いだけだ。

差別をめぐる体験に基づいて被害者も加害者もそこから自由になるために、なっちゃんからの問題提起を真剣に受け止めてゆこう。

 

◆プロフィール
安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

 
 

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