「福祉の贈与」~気持ちを贈っていく~ / 古本由美子

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私の人生52年の中で一番心を開いて安心して甘えられるのは、夫です。
そして、世の中で一番心を開いていない人は自分の母でした。母との関係は「親子」という一括りではなく、「親」と「子」別々だったように思います。

小さな頃から母とほとんど話さず、関わりをなるべく持たないようにしていた私が、こんなにおしゃべりで人間好きになったのは、友人に恵まれたからだと思っています。

小学生の時、母に家から放り出された私を何日も泊めてくれた友達のお家もありました。

中学生の時には、お弁当がない私をみて、クラスの子が自分のお弁当箱の蓋(当時の主流がアルマイトの四角い大きなお弁当箱で、蓋も同じぐらいの容量が入る大きさでした)を回してくれて、沢山のおかずとおにぎりが入って返って来た光景を忘れられません。
中でもオレンジマーマレードで煮たという手羽先がとても美味しく、後でお礼を言ったら数日後、その子のお母さんが私の分も持たせてくれたこともありました。

母は、普段は私を放置状態だったのに、自分の都合の良い時には気持ちが悪いくらいにべたべたと可愛がってきました。習い事も、ピアノ、歌、バレエ、ペン習字、そろばんと行かせてくれましたし、本も与えてくれました。が、とにかくその行動も考えもいまだに理解が出来ません。

小学1年生で初めてのピアノの発表会があったときのこと。
その日の朝デパートに行き、赤い別珍(ビロード)のワンピースを買ってもらいました。とても嬉しかったし、それを着て、広いホールで初めて触るグランドピアノで弾いた高揚感もちゃんと覚えています。

そして発表会が終わった後、その足で朝行ったデパートに行き、私が着た赤いワンピースを返品しました。その母の行動にびっくりし、もの凄くがっかりしたこともちゃんと覚えています。

こんなこともありました。
近所の友達のお母さんとうちの母が買い物に出かけている間、子供たちは外で遊びながらお留守番。夕方になって母親達が帰って来た時、その友達は「おかあさ~~ん!おかえりなさぁい!」と走ってお母さんに抱きついていきました。

でもその横で、無言で暗い顔つきでその場に突っ立っていた私のことが気に入らなくて「ホンマかわいげがないっ!」と叩かれた夜のことです。私に突然「ママとパパどっちが好きぃ?」と聞いてきました。私は「パパ」と即答。

その時母がどうしたと思いますか?何と怒り喚きながら荷物をもって家を出ていったんですよ。たまたま、そのすぐ後に帰宅した父に話すと「何でママの方が好きって言わへんねんな~」って困った顔で言いながら、急いで私を連れて探しに走りました。

バス停で母を見つけて、感情高ぶる母にしぶしぶ謝り、父が説得し、まぁ・・・おさまったわけですが、それ自体「なんだかねぇ。しょうもない」と思います。

その後も、私が就職、成人しても相変わらず自分の勝手で私に干渉し、私の友人や知人からの年賀状を元に電話を掛け、迷惑をかけるようになりました。そのことを咎めると「迷惑なことはしていない」と全く改めようとしないので、私は仕事を変わり引っ越しをし、友人たちに口止めして、母と、母の親族との関わりを絶ちました。

そんな訳で母とも親族とも20年以上会っておらず、今どうしているのか知りません。冷たいと思われるでしょうが、もし今、関わって来たらきっと大変なことになりますので拒否していきます。きっと今もどこかで誰か(高齢者介護事業所含み)にご迷惑をかけているのではと懸念しています。

今の気持ちとしては、母がご迷惑をかけていることへのお詫びとか、子供の頃に沢山の方に受けた恩を、ご本人には返せないので、代わりにご高齢者や障害をお持ちの方や、道で出会ったお困りの方(これ不思議ですが、結構出会うのですよ)の役に立つことで少しでも返せたらと思っています。

数年前、ある高齢者の訪問介護サービス中、「今私に良くしてくれているこのことは、私にはもうあなたに何もできないけれど、きっと他の人が返してくれます。あなたにではなくても、あなたに関係する人に返ってきますよ。今スグじゃなくても、きっとそうなります。」と私におっしゃって下さいました。

そういう思いを口に出して下さったことで、もうそれだけで嬉しかったです。人の世は、そういうことになっているそうです。自分の今の行いが、後になって自分や家族に返ってくるのだそうです。

先日のこもちゃんTVでも「福祉の贈与」という言葉が出てきましたが、あのご利用者のお言葉はまさにそのことを言っていたのではないかと自分なりに考えました。

まぁ実際には、自分や家族に返ってくるのではなくても、今自分の行いが元になって、それを誰かに、「人としての優しい気持ち」を贈っていって頂けたら、嬉しいことだなぁと思っています。

 

古本 由美子(こもと ゆみこ)
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