【ハラスメント・虐待防止委員会】『サービスの提供中止、どう考える?』

社内研修会『サービスの提供中止、どう考える?』

株)土屋顧問の大胡田誠弁護士が解説『やむを得ずサービスを中止する事態になった時にどう考えれば良いのか?』

1月30日に開かれた社内研修会では役職者など70名近くが出席し、当社顧問の大胡田誠弁護士から、やむを得ずサービスを中止する事態になった時にどう考えれば良いのか、反対にどういったケースでは中止してはならないのか、お話をうかがいました。

大胡田弁護士は過去の判例をもとに、いくつかポイントを提示しています。

<判例の概要>

両上肢機能障害や移動機能障害がある方が重度訪問介護のサービス契約を打ち切られ、他の事業所も紹介されなかったとして、事業者側を提訴した裁判。

争点は①被告がサービスを提供していないという債務不履行について、被告に帰責性があったか/②被告がサービスを提供できなくなる際に代替業者などを紹介する等必要な措置を取るべき義務を怠ったといえるか―の2点。裁判所は原告側の主張を認め、事業者側に30万円の賠償を命じた。

 

<判決から考えられるポイント>

  1. サービス提供を中止できるのは、契約書に定められているケースに当てはまる場合、または正当な理由がある場合に限られる。…事業者は簡単にサービスを中止することはできない。重度訪問介護が、その利用者の日常生活を支える重要なサービスであることから、中止の必要性や可否については慎重に検討しなければならない。契約書の文言に限らず、厚生労働省の省令や通知も確認する必要がある。
  2. 万が一サービス中に利用者からの暴言などがあった場合は、録音、録画、直後にメモを取るなど、できる限り証拠を残しておく必要がある。
  3. サービス提供を中止する場合には、事前に他の事業所などを紹介する等の措置を行う必要がある。

<ディスカッション>

参加者A

慎重な対応が求められるのだと改めて感じました。必ず管理者などがヒアリングして、段階を踏み、他事業所へのサービス移行をしなければなりませんね。

大胡田

おそらく、中止に至るまでいくつか段階を経ている場合が多いと思います。もちろん、本来は中止に達しない方が良い。どうすれば中止という結論に至らずに済むか、何かアドバイスはありませんか。

参加者A

やはり丁寧なヒアリングが必要だと思います。中には実際にパワハラを受けた職員もいます。双方の意見を聞きつつ、互いに歩み寄ろうと努めることが大切です。

参加者B

賠償金は30万円とのことですが、「こんなに少ないんだ」というのが正直な感想です。何か背景や理由があるのでしょうか。

 

大胡田

日本の慰謝料の相場は、皆さんが考えているより低いんです。ですが今回の場合、慰謝料が認められたこと自体、インパクトが大きいと思います。

参加者B

「数十万円で済むなら中止しても大丈夫」と思ってしまう事業者もありそうです。

大胡田

裁判の被告になることは、会社として大きなプレッシャーになります。もし万が一サービスの中止を検討する場合は、早い段階から弁護士を交えて話し合ったほうが良いと思います。

参加者C

私も、30万円程度だったら簡単にサービスを打ち切られてしまうんじゃないか、と感じました。特にサービスへの要望が多い人、周りからは少しわがままと見られてしまうような人は「この人は嫌だから、数十万円払って関係性を解消しよう」と思われる恐れがあるのではないでしょうか。利用者と事業者との関係性がすごく大事なのかなと思いました。

大胡田

おっしゃる通りかもしれません。ただ裁判を通じて、「この事業者はこんなことをするのか」と社会に広まるのは大きなダメージです。金額だけでははかれない影響があると思います。またこの判決が出た後は、事業所側が「安易にサービス提供を中止すると裁判を起こされてしまう」との意識を持つようになり、慎重な対応につながる可能性もあります。

参加者D

この判決が出たのが昨年とのことですが、その後同様の訴訟はあったのでしょうか。また、過去に同様の訴訟はありましたか。

大胡田

私が調べた限り、少なくとも重度訪問介護のサービスではこの裁判だけです。

参加者E

こういう判例から、過去にさかのぼって訴えを提起することはできるのでしょうか。「そういえば自分も正当な理由なくサービスを打ち切られたことがある」という人は、どうなるのでしょう。

大胡田

おそらく「時効期間」次第だと思います。2020年の法改正前であれば、サービスを打ち切られて10年間は裁判を起こすことができます。2020年以降の場合、裁判を起こせるのは打ち切られてから5年間です。「当時は泣き寝入りしてしまったけど、これから訴訟を起こす」ということは、理論上可能です。

参加者F

暴言などを録音して証拠を残すのが重要とのことですが、秘密録音は違法にならないのでしょうか。

大胡田

一般的に、了解を得ずに録音したからと言って違法行為にはあたりません。刑事事件では、許可を得ていない録音は証拠に使えない場合があります。一方、民事事件では証拠能力が比較的幅広く認められるので、有効に使うことができます。自分の身を守るために録音するのは、問題ないと思います。

主催者

できる限りサービスは継続して、やむを得ない場合は他の事業所を紹介することが大切だと思いました。一人で対応するのは荷が重いので、早い段階で上長に相談して、それでも対処しきれない場合は、大胡田先生にもご対応いただけます。こういった事態にならないよう、誠心誠意対応する事業所でありたいです。

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