水のように生きる/古本 聡

 

株式会社 土屋のバリュー12項の3つ目は、「水の流れのように柔軟に、弛むことなく」、と謳われています。これは、水のように動きを止めることなく、必要に応じて柔軟に思考パターンと行動パターンを変化させよう、ということを示しています。
私が初めてこのバリュー項目を読んだとき、どこかで聞いたか見たかしたような気がしていたのですが、少し後になって思い出したのです。それが今日、この記事の題材にさせてもらう「水五則」または「水五訓」と呼ばれる格言なのです。
そもそも、人の生き方について述べた格言は、純和製のものだけでも実にその数は多く、この水五則以外にも、水六訓、水七訓、水十訓なども存在します。また、老子や孔子の中国から伝えられた「上善若水」、「上善如水」といった教えもあります。
さて、今日のテーマである「水五則」(または「水五訓」)ですが、実はもともと誰が説いたのかは、様々な説があって未だ確定していないそうです。ただ、私自身は、昔習った通り、戦国時代、豊臣秀吉の知恵袋・名軍師といわれた黒田官兵衛(黒田如水)だと信じて話を進めていきたいと思います。
そう、5、6年前、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」の主人公に取り上げられた、あの人物です。
それでは先ず、「水五則」を列挙してみましょう。
  1.  自ら活動して他を動かしむるは水なり
  1.  常に己の進路を求めて止まざるは水なり
 
  1. 障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり
  1. 自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なリ
  1. 洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり
    雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れいろう)
    たる鏡となりたえるも其(その)性を失はざるは水なり
水というものを通して、人としての生き方を教えてくれる中々良い格言だと思いませんか。
次に、一項目づつ意味を解いていきましょう。
一が教えてくれているのは、自分が率先して他の模範になれ、ということです。
水は自らが動くことで周りのものを動かし、運んでいきます。人も、自らが動かずに、ただ、ああしろ、こうしろと指図だけしていては、誰も動くはずがありません。自らが動いて模範を示すことによって周囲を牽引する人になってください、ということだと思います。短く言えば、自分が動けば、相手も動き出す、ということです。
二が伝えたいことは、自分で考えて道を切り拓くように心がけよ、ということです。
水はどんな環境の中でもその流れを止めることなく弛まなく動いていきます。つまり、人は、例え失敗をしたとしても、それを周囲のせいにせず、自ら知恵を絞り努力することで道を切り拓いていくべきだ、ということ。
三が伝えているのは、諦めは何も生みださない、ということです。
水の流れは、流路が狭まるとその速度と勢いを増し、また、堰によって遮られた時には、その力を満々と内に蓄えます。蓄積された力があるからこそ、解放された時に巨大なエネルギーを発揮できるのです。
困難にぶち当たった時、自分の可能性を諦めてしまってはいけません。苦しい時もじっと耐えて努力を続けていけば、大きな力となって返ってきます。自分を肯定し、自分を信じることが大切だ、ということです。
四が伝えたいことは、人を排除したり、追い詰めたりせずに共に頑張ろう、ということ。
社会、企業、学校など、コミュニティと呼ばれる場所には様々な価値観、世界観を持つ人が集まっています。感覚、リズム、方法、価値観の合わない人を自分の傍から遠ざけたり排除したりするのではなく、長所を見つけてそれを活かすことを先ず考えましょう。川は、流れていく途中で様々な水質の別の川と合流して、やがて大河になっていきます。濁った水が合流してきても、「入ってくるな」とか「出ていけ」とは言いません。さまざまな水を一つにまとめ、大きな目的に向かって集約してゆくような、そんな度量を持つ人になるべきだ、ということです。
五が伝えているのは、常に自然の理(ことわり)にそって物事を考えよ、ということ。
水は温度の変化、器の形によって次々と自らの形を変えます。しかし、その本質は一切変化することがありません。我々人もまた、変化に対応するのに常に柔軟でなければ、生きていけません。与えられた環境の中でいかにして最大の努力を行えるかが大切だ、ということです。
水のように、自由で柔軟なマインドで強く清らかに生きていけたら素敵ですよね。
これから先、人はみな、人生で何があるかはわかりません。色んな困難にぶつかり、迷うことや立ち止まってしまうこともあるでしょう。そんなときには、この「水五則」を思い出してみてはどうでしょう。
きっと、あなたの道標になってくれることでしょう。
古本聡 プロフィール
1957年生まれ。脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。 早稲田大学商学部卒。 18~24歳の間、障害者運動に加わり、 障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。 2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。