―仕事の中で喜びを感じる瞬間や「嬉しいな」と思うのはどんなところですか。
これはもう、昔からずっとそうなんですが――多分皆さんもそうだと思いますが、「ありがとう」っていう感謝の気持ちないし、意思表示をしてもらえた時にすごく喜びを感じますね。
私が思う“コミュニケーション”という枠の中では、障害がある方も健常者もやっぱり変わらないんですよね。
ただ唯一、何かを行なって、「ありがとう」という言葉をいただく場合には、アプローチの仕方や手段、方法がそれぞれに違ってくる――そこは今、すごく感じています。
コミュニケーションって相手によって変えていくものだと思うんです。
たとえばお子さんと話をしたり、やり取りをする時には、片ひざをついて目線を合わせて、優しくゆっくりな口調で話してあげれば警戒せずにお子さんも話をしてくれるって思ってて。
でもそれが友達だったら――逆にかしこまるんじゃなくて、ある程度、くだけた感じで関わる方が相手にとっても自分にとってもいいですよね。
おじいちゃんとかおばあちゃんの世代と話をする時だったら、敬意や感謝の気持ちを持って言葉遣いとか身だしなみ、立ち振る舞いに注意しながらやっていくのが大事かな、と。
―クライアントの方から「ありがとう」っていう意思表示をいただいた時の、印象に残っているエピソードがあったら聞かせてください。
いろんな「ありがとう」がある中で――以前、関わっていたクライアントの方なんですが、広島には「鵜飼い」という、鵜を使って魚を捕まえる伝統漁法を船に乗って見る有名な観光行事があるんです。
20人乗りぐらいの大きな屋形船に乗って、お酒を飲みながら、ちょっといいお弁当が出て、鵜を操る人が乗っている船がその屋形船と並行して動いて、鵜が魚を取る様子を見て楽しむ――。
そのクライアントの方は、A L Sを罹患されているんですが、罹患される前は仕事もバリバリされていて、地元のイベントにも積極的に参加される方でした。
ある時、そのクライアントの方の「また、鵜舟に乗りたいな」というひとことから、
その人が関わる医療チームや介護チーム、行政の方たちも一緒になって、「よし、じゃあ鵜飼いを観に行くサポートをしよう」ってなったんです。
主治医の先生が音頭を取ってくださって、総勢30〜40名ぐらいの人が集結して――そのクライアントの方が鵜舟に乗ったんですよ。
―それはすごいですね。
すごいですよね。ニュースにもなりました。
鵜船にも、通常は岸壁から歩いて船に乗るんですが、車椅子ごと乗るので桟橋からだとうまく乗れなくて。
桟橋から外れたところに乗り降り口をつくって、アーチ状の足場を船にかけて――船が揺れると車椅子が安定しなかったので、20人ぐらいがズボンの裾を捲って川の中に入って船を抑えました。
その方は文字盤や、“口文字”で喋られる方なんです。
その日、当時のホームケア土屋中国・四国ブロックマネージャーの長瀬賢亮(ながせけんすけ/現・法務部部長)さんが応援に来てくれていたんです。
元々、そのクライアントの方の現場を立ち上げたのが長瀬さんだったそうです。
帰り際に、その方に「長瀬さんが来ましたよ」とお伝えしたら、「わざわざ遠くから、ありがとう」って――口文字で声をかけられていました。
「お疲れ様でした」「お久しぶりですね」といったお話をされた後、私はクライアントの方と一緒にタクシーに乗って、ご自宅まで帰る付き添いをしました。
車中で、「お疲れではないかな」とご様子を伺っていたら、感動して涙を流されて「お前もありがとうの」って――。
その時の「ありがとう」は、今までとすごく質が違う「ありがとう」だったなと思いましたね。