―仕事や生活の中での価値観について聞かせていただけたらなと思います。人と関わる上で、もしくはケアをする上で、「ここを大事にしている」という点を聞かせてください。
体の抱え方ですね。介護する上ではあたり前ではあるんですが、慣れてくるとどうしても上から“持って”しまう人もいるので、片手しか空いてなかったとしても、なるべく下から抱えるようにしてます。
あとは、抱えた時になるべく指や手先の圧力をかけないように抱えることが、気を付けてるポイントかもしれないですね。
―それは、抱え方がちょっと違うだけで、クライアントの方が痛がったり、不快になったり――っていうところを見てこられたんでしょうか。
そうですね。私が関わるクライアントの方はA L S疾患をお持ちの方も多いので、発声が難しくすぐに言葉にして伝えられないからこそ、深く考えてしまう。
その深く考えた先にネガティブな感情が生まれてしまうことも多いように思います。
非言語でのケアややり取りは、“抱える”とか、“触れる”という行為そのものがコミュニケーションになるので、たとえばアテンダントが何も考えずにクライアントの体を上から抱えた――という時に、
「この人、今、上から抱えてきて、手先の圧力もいつもより強かった。なにか、イライラしてるのかな」なんてクライアントさんが思ってしまうこともあると思うんです。
「もしかして、自分がアテンダントに対して必要以上の要望や訴えをしちゃったかな」とか――。
ヘルパー側が何の気なしに行なった行為で、突然、クライアントとのやり取りが減ってしまったり、「最近コミュニケーションが少なくなったな」と思ったら、NGが出てしまったり――。
私たちがするケアのちょっとしたところでも、クライアントさんからすると、深く考えてしまうきっかけになったりすることもある。
なので、なるべく「いつもと変わらないよ」「何も思ってないよ」というアテンダント側の状態を、
ケアで表現できるように――言葉でのやり取りがしづらいからこそ、ケアという行為で表せるようにはしてますね。
―酒井さんが関わられているクライアントは、ALS等、声でのコミュニケーションがしづらい方が多いんですか?
そうですね。ALS疾患をお持ちの方が多いですかね。
コミュニケーション方法は色々ありますけれど、どれも時間もエネルギーもかかってしまうものなので、
クライアントさんとしては、「あんまりPCで文字を打ちたくない」、かと言って、文字盤のやり取りも「ケアが一旦、止まってしまうからやりたくない」と仰る方もいらっしゃいます。
思いを伝えるのに時間がかかることに、後ろめたさを感じているクライアントの方も中にはいらっしゃると思うので――。
なるべく後ろめたさを感じさせないようなケアを心がけてます。
―介護の仕事を続けていく中で、酒井さんが出会ったものや、「自分自身が変わったな」というところがあったら聞かせてください。
変わったことは――他人のことを考えるようになったことがいちばん大きいかなと思います。今まではそんなに私も深く考えてはいなかったんです。
でも、さっきの話と繋がりますが、この仕事に就いてからは、クライアントの方がなるべく深く考えすぎてしまわないように、
スタッフ側はなるべく普段通りでいるように、と思いつつ、顔色や部屋の状況をよく観察して、違いにすぐ気づけるようにしてます。
あとは――クライアントの方がマイナスな訴えをされてきた時は、「その背景に何があるのか」をできる限り、読み取りたいなって思うようにはしてますね。
自分のプライベートでも、そういうことがちゃんと活かされてるな、とは思います。
ちょっと下品ですが、たとえば、車を運転していて「後ろの車、車間距離が近いな」と感じる時は、
「後ろの人、もしかしたら、うんこが漏れそうなのかもしれない。だからこんな車間距離が近いんだ」なんて思うようにしてます。
だから、なるべく自分自身は平常心を保って、後ろの人には刺激を与えないように――。
急がなくちゃいけないその人の背景を想像するようにして、もしよけられるなら、早いうちに違う車線によけたり――そういうふうにはしてますね。