医療的ケア児が増加する中、各市町村では「医療的ケア児の受け入れに関するガイドライン」の策定が進み、医療的ケア児の受け入れ態勢が強化されつつあります。
この医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインとは、どういったものであり、何が記載されているのでしょう。当記事では、ガイドラインの内容や扱い方について解説します。
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインについて
ここでは、各市町村が公開している「医療的ケア児の受け入れに関するガイドライン」の特徴について、以下4つの観点から解説します。
- ガイドラインとは?
- 医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインとは?
- 各市町村毎に策定している
- ガイドラインに記載されている具体的な内容
ガイドラインとは?
「ガイドライン」とは、守るべきルールや規定をまとめたものです。いわば「このように行動してほしい」という方針をまとめたものでもあります。
ガイドラインには法律ほどの強制力はありませんが、物事を円滑に進めていくためには、各組織や団体が定めるガイドラインを理解し、皆が意識を共有した上で行動することが求められます。
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインとは?
「医療的ケア児の受け入れに関するガイドライン」とは、喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要となる児童、いわゆる「医療的ケア児」を、保育園や学校で受け入れる場合においての方針をまとめたガイドラインです。
医療的ケア児も、保育園や学校などに通い、周りの子供たちと一緒に成長する権利があります。
しかし、医療的ケア児は自分の力だけで日常生活がおくれません。医療的ケア児の中には疾患や障害を抱えた児童、医療デバイスを装着した児童もいます。医療的ケア児は日頃から慎重に扱う必要があり、受け入れに関してもルールや方針を明確化する必要がありました。
そうして作られたガイドラインが「医療的ケア児の受け入れに関するガイドライン」であり、「どういった子供を医療的ケア児として受け入れるか」「どういった体制で医療的ケア児を見守るか」「緊急時にはどう対応すべきか」など、関係者に対してのルールや方針が記載されています。
各市町村毎に策定している
「医療的ケア児の受け入れに関するガイドライン」は、各市町村単位で策定されています。
「保育所等における医療的ケア児受入れ推進ガイドライン(横浜市)」「医療的ケア児の保育所等受入れガイドライン(八王子市)」のように、名称は各市町村で若干異なります。
書かれている内容についても、大枠は厚生労働省が提示した指針に則っているものの、細かな部分は市町村によって異なります。
たとえば受け入れ対象とする医療的ケア児についても、市町村によって、定義や条件がやや異なります。そのためガイドラインを利用する際には、ご自身がお住まいの市町村で公開されているガイドラインを利用するようにして下さい。
ガイドラインに記載されている具体的な内容
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインには、一般的に以下のような内容が記載されています。
・基本的事項(ガイドラインの目的、対象とする児童、医療的ケアの内容、医療的ケアの対応者など)
・入所までの流れ(施設見学、手続き、面談など)
・保育所等の生活(一日の流れ、慣らし保育の方針、行事や園外活動での対応など)
・医療的ケアの実施体制(各スタッフの役割、連携体制など)
・安全管理(容態急変時の対応、災害時の対応など) など
※市町村によって構成や記載内容は若干異なります。
こうした医療的ケアに関する事柄が、細かくルール化されていますので、ガイドラインを読むことで「こういった状況でどう対処すべきか」の方針や意識を共有することができます。
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインができた背景
医療的ケア児の受け入れに関するルールや方針は、これまで不明確なまま運用されていましたが、最近になって各市町村でガイドラインが作られるようになりました。
ここでは、ガイドラインができた背景や、ガイドラインがもたらす意味や効果について解説します。
医療的ケア児の増加が起因
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインができた背景には、医療的ケア児の増加が関係しています。
近年、新生児医療技術が向上したことにより、以前であれば助からなかった子供の命を救うことができるようになりました。そして成長後も医療デバイスなどを用いて医療機関の外でも生活できるようになったことから、医療的ケア児は年々増加しています。
2021年(令和3年)の段階で、国内の医療的ケア児人口は20180人を記録しています。
医療的ケア児が増加する中、医療的ケア児を社会全体で支援していくことがミッションとして掲げられ、2021年には「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」が施行されました。
この医療的ケア児支援法では、国、地方自治体、保育園や学校が一丸となり、医療的ケア児とその家族を支援していくことを「責務」として明文化されています。
このように医療的ケア児を取り巻く環境はここ数年で大きく変化しており、医療的ケア児のための社会作りが進んでいます。その一環で、医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインの策定も進み、ケア児がより保育園や学校に通いやすい環境が作られようとしています。
緩和される中、医療的ケアの「質」を向上させる意味もある
増加する医療的ケア児に対応できるように、医療的ケアに携われる人材の条件も緩和されました。
現在はもともと医療行為が許されている医師・看護師に加えて、専門の研修を受け「認定特定行為業務従事者」として認められた保育士や教師なども、「喀痰吸引」や「経管栄養」など計5つの医療的ケアが行えるようになりました。
そのように幅広い人材が医療的ケアに関わろうとしている中、連携体制や緊急時の対応等の方針を明確化し、医療的ケアの「質」や「安全性」を高める意味もガイドラインに込められています。
保護者にとってもガイドラインはプラスになる
医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインでは、「受け入れ対象となるのはどのような医療的ケア児か」「一日に何時間、保育園を利用できるか」「受け入れに必要な手続きや面談」などについても明確化されています。
ガイドラインを読むことで、その市町村における医療的ケア児の扱いや手続き方法を知ることができますので、保護者の方も一度ガイドラインに目を通すことをおすすめします。
医療的ケア児が生きやすい社会の足がかりとなるか
以上、医療的ケア児の受け入れに関するガイドラインについて解説しました。
「医療的ケア」や「医療的ケア児」というのは、1990年代に生まれた、まだ新しい概念です。そのため社会的にも未だ十分認知されておらず、ルールや扱い方に関しても曖昧になっている部分も多いです。
しかし近年はこうしてガイドラインが作られ、医療的ケア児を取り巻く環境が整備されつつあります。このような動きが進むことで、今後は医療的ケア児がより保育園や学校に通いやすく、生活しやすい世の中になっていくかもしれません。