厚生労働省は医療的ケア児が地域の保育施設で過ごせるように、医療的ケア児支援法に基づいて保育支援事業を推進しています。
それに伴い全国の自治体や保育施設では、医療的ケア児が受け入れられるように体制を整えているところです。
保育に携わる方は、保育支援事業がどのようなものか詳しく知りたいのではないでしょうか。
そこで本記事では、医療ケア児の支援法と保育支援事業についてわかりやすく紹介します。
併せて、医療的ケア児の受け入れまでの流れと現場で行われている医療的ケア、課題についても紹介しているので、医療的ケア児の受け入れ体制で悩まれている方は参考にしてください。
医療的ケア児支援法の目的
人工呼吸器や胃ろうなど、日常生活を過ごすために何らかの医療処置を必要とする児童を医療ケア児といいます。
医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加し、医療的ケア児とその家族が適切な支援を受けられるようにすることが重要な課題となっています。
医療的ケア児支援法は、医療的ケア児を家族だけでなく地域で支援し、児の成長をはかるとともに、医療的ケア児を育児する家族の負担を軽減し、家族の離職防止も目的として2021年に制定されました。
この医療的ケア児支援法により、これまで「努力義務」だった医療的ケア児の支援に「責務」を負うことになりました。
責務は努力義務よりも強制力があり、国家予算の配分や具体的な指針が示されています。
厚生労働省による医療的ケア児の保育支援事業
医療的ケア児支援法により、医療的ケア児を保育所で受け入れる体制の整備が進められています。
医療的ケア児を保育所や認定こども園で預かるには、認定特定行為従事者である保育士や医療的ケアに対応できる看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)を配置し、医療的ケアをすることが必要です。
また事業所は、保育士が医療的ケアを行うために必要な研修を受講する支援をします。
看護職員の配置や保育士の研修の受講支援などにより、保育所は補助金を受け取れます。
認定特定行為従事者とは
認定特定行為従事者とは、一定の条件のもと医療行為ができる人であり「喀痰吸引研修」を修了した人をさします。
可能な医療行為は以下の5つです。
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内の喀痰吸引
- 胃ろうまたは腸ろうの経管栄養
- 経鼻経管栄養
喀痰吸引とは、口や鼻、人工呼吸器の気管カニューレにたまった痰を管で吸引する方法です。
吸引をすることで痰がつまることによる窒息や、痰が肺に入って炎症を起こす誤嚥性肺炎を予防できます。喀痰吸引をする頻度は一人ひとり異なり、児のその日の体調によっても違います。
胃ろうや腸ろうは、飲み込みなど何らかの影響により口から食事が摂れない児に対し、栄養がとれるように胃や腸に穴をあけ、チューブを留置する方法です。そのチューブから直接栄養を入れることで、栄養補給ができます。
経鼻経管栄養は、鼻腔から胃の中にまで届いているチューブが留置されており、鼻腔から栄養剤を直接入れます。
胃ろうや腸ろう、経鼻経管で注入する栄養剤の種類や回数は主治医から指示があり、指示通り栄養剤を注入します。
なお、喀痰吸引研修は介護資格専門のスクールで受講できます。
特定行為以外の医療的ケア
喀痰吸引や経管栄養以外にも医療的ケアがあり、特定行為以外の医療的ケアは、看護師が行います。
特定行為以外の医療的ケアを紹介します。
- 導尿
- インスリン
- 酸素療法 など
導尿は自力で排尿ができない場合に、尿道へ専用の管を入れて排尿する方法です。成長するにつれて児自身で導尿できるようなるケースもあります。
インスリンは血糖値のコントロールができない児に対して、血糖値を測定したり、血糖値を下げるインスリンを投与したりします。
酸素療法は体内に上手く酸素を取り込めない児に対して、酸素を流す機械を鼻や口に当てて吸入する方法です。
人工肛門(ストマ)といって、自然排泄が困難な場合に腸に排泄用のルートをつくっている児もいます。人工肛門の装具の交換と排泄物処理は、厚生労働省により医療行為でないと見解があり、保育士も行えます。
医療的ケア児が保育施設に通うまでの流れ
医療的ケア児が保育施設に通うまでの流れを紹介します。
4月入園と仮定します。
時期 | 流れ | 詳細 |
---|---|---|
9月~10月頃 | 保護者からの相談を受ける | |
受け入れの検討をする | 保護者からの文書や面談による聞き取り 体験保育をする 主治医意見の聞き取り (受診付き添い) 各機関と連携する 多職種による検討の場を設ける | |
結果を通知する | ||
10月~11月頃 | 受け入れ可能でれあれば入所手続き 受け入れ不可であれば他のサービスを検討 | |
2月 | 利用調整、支援計画の作成 | 各機関と連携する |
4月 | 保育所の利用開始 | 各機関と連携する |
表にある各機関とは、医療的ケア児が関わっている機関すべてです。
母子保健所、障がい福祉所、相談支援事業所、医師、医療的ケア児コーディネーターなどと連携し、情報の共有、どのように支援をするか話し合います。
また医療ケア児の受け入れに当たり、医療ケアができる職員の確保(必要時は職員追加)、医療的ケアができるような環境調整、緊急時のフローチャートの作成が必要です。
保育施設によっては、入所数ヶ月は慣らし保育から始め、まずは短時間の利用や保護者の同伴からしているところもあります。
実際に保育施設で行われている医療的ケアの内容と対応者
実際に保育施設で行われている医療的ケアの内容と対応者の割合を紹介します。
医療的ケアの内容
- 導尿 25.8%
- 喀痰吸引(気切カニューレ内部)22.4%
- 経管栄養(経鼻)13.6%
- 経管栄養(胃ろう・腸ろう)13.2%
- 喀痰吸引(口腔・鼻腔内)11.9%
- 酸素療法の管理(酸素吸入)10.2%
- インスリン注射 6.8%
医療的ケアの対応者
- 施設の看護師等 74.9%
- 保育士等 7.8%
- 訪問看護事業所の看護師等 6.1%
- 併設事業所の看護師等 2.0%
- 自治体の巡回看護師等 1.0%
医療的ケアの内容は導尿が多く、医療的ケアの対応は看護師が最も多いことがわかります。
また看護師は施設に配置するだけでなく、訪問看護事業所や自治体の巡回看護師といった、一定の時間だけ保育施設に訪問し医療的ケアをするケースもあります。
医療的ケア児の保育支援事業の課題
医療的ケア児を受け入れられる保育施設は年々増加しており、調査によると令和2年は526か所の施設が受け入れ可能です。
また保育施設に通う医療的ケア児も増加しており、令和2年は645人もの児が保育施設に通っています。
しかし医療的ケア児の保育環境の整備が行き届いてない地域や施設は多く、課題もあります。
厚生労働省によって全国市区町村の保育所等で実施された「医療的ケア児の受け入れにあたっての課題」のアンケート調査結果を一部抜粋して紹介します。
看護師を確保できない
看護師を確保できないため、医療的ケア児を受け入れられないという課題が最も多い結果でした。
医療的ケア児の保育支援事業の整備が始まりまだ数年しかたっておらず、看護師の就職先としての認知度が低いことが考えられます。
看護師の就職候補先としての認知度を高める動きが期待されます。
利用を希望する子どもの医療的ケアの提供にあたり施設設備が対応していない
歩行が難しい医療的ケア児は車いすを利用しており、保育施設がバリアフリーでないと対応できないことがあります。
施設設備に大規模な工事を要することになるため、保育施設によっては受け入れが難しい現状があります。
喀痰吸引等研修を受けた保育士を確保できない
喀痰吸引等研修は主に介護士が職場で役立つ資格として広まっており、保育士が喀痰吸引等研修を受講するイメージはまだ定着していません。
現在働いている保育士が喀痰吸引等研修が受講できるような環境づくりが求められます。
医療的ケア児支援法と保育支援事業を知り支援しよう
医療的ケア児も医療的ケア児でない児と同じように、成長をはかり学ぶ機会を得られるような体制が整備されています。
その中で保育施設は、医療的ケア児の受け入れが期待されている場所です。
この記事で紹介した医療的ケア児支援法と保育支援事業を参考に、医療的ケア児の支援を知り前向きに取り組んでいただけると幸いです。