医療的ケア児支援法に基づき、医療的ケア児が地域の保育施設でも過ごせるような整備が進められています。
その中で保育園で勤務されている方は「マニュアルはある?」「どのように対応したらよい?」と疑問を抱くことはないでしょうか。
そこで今回は、医療的ケア児の保育園の受け入れマニュアルはあるのか、ガイドラインについて紹介します。
医療的ケア児を保育園で受け入れるマニュアルはある?
医療的ケア児を保育園で受け入れるためのマニュアルはありませんが、ガイドラインはあります。
ガイドラインは医療的ケア児を保育施設で受け入れるための基本事項や、注意事項を示すことで、医療的ケア児が円滑に利用できることを目的としています。
厚生労働省が発表したガイドラインを基に、各自治体でもガイドラインが作成されているところです。
マニュアルはガイドラインをもとに、それぞれの保育施設が必要に応じて作成しています。
各自治体の医療的ケア児の保育施設ガイドラインには以下の内容が記載されています。(※ガイドラインの内容は各自治体によって異なります。)
- 受け入れの要件
- 対象児童
- 実施日と期間
- 対応できる医療的ケア
- 各職員(園長・副園長・保育士・看護師・調理師など)の役割
- 入所までの流れ
- 緊急時の対応
- 安全管理とリスクマネジメント
- 保護者へのお願い
次の項目でガイドラインの詳細を紹介します。
保育園で医療的ケア児を受け入れる要件と対象児童、実施日
ここではガイドラインで主に記載されている医療的ケア児を保育園で受け入れる要件と対象児童、実施日と期間を紹介します。
受け入れの要件
- 保育の必要性があり、集団保育ができる
- 病状や健康状態が安定している
- 日常的に保護者が自宅で行う医療的ケアが確立しており、保護者による安定した医療的ケアが行われている
- 病状や医療的ケアに関する情報を保護者と保育施設で共有できる
- 主治医と連携でき、面談で医療的ケアの手技等の指導を受けられる
- 保育施設での人員配置や施設環境が整えられている
対象児童
対象児童は、主治医が集団保育可能と認めた医療的ケア児です。
自治体によって3歳児クラス以上と定められていることがあります。
実施日と時間
- 入所時期(例:4月1日)
- 平日の利用時間
- 土曜保育や延長保育の受け入れ体制
保育園利用時間は各自治体によって異なります。
土曜保育や延長保育の受け入れはできません。
なお、行事等で土曜保育や延長保育の利用を必要とした場合は、保育を提供し平日に振り替えます。
保育園で対応できる医療的ケア
保育園で対応できる医療的ケアは以下の通りです。
- 痰の吸引
口、鼻、人工呼吸器の気切カニューレにチューブを入れ、たまった痰を機械で吸引します。
- 経管栄養(鼻腔・胃ろう・腸ろう)
鼻腔や胃ろう、腸ろうからのチューブを介して、直接栄養補給を行います。
- 導尿
たまった尿を排泄するため、尿道にカテーテルを入れて排尿します。
- 血糖測定、インスリン投与
血糖値を測定し、値に応じてインスリンを投与します。
- 酸素吸入
鼻、口からチューブを介して酸素を吸入します。
- ネブライザー吸入
痰を出しやすくしたり気道を広げたりするために、機械で薬液を霧状にして口から吸いこみ、肺や気道に行き渡るようにします。
これらの他にも、自治体が可能と認めた医療的ケアは保育施設で提供できます。
保育士は認定特定行為従事者を修了していれば、痰の吸引や経管栄養が可能です。その他の医療的ケアは看護師が行います。
各職員(園長・副園長・保育士・看護師・栄養士など)の役割
医療的ケア児を保育園で受け入れるにあたり、各職員の役割が明文化している自治体があります。各職員の役割を紹介します。
- 園長
医療的ケア児の保育、医療的ケアが安全に行える職員の配置・環境の調整、リスクマネジメント、多職種との連携をする。
- 副園長
園長の補佐と統括を行う。
- 保育士
状態に応じた保育を提供、職員や保護者との情報共有、必要に応じて医療的ケアの実施と看護師が行う医療的ケアのサポートをする。
- 看護師
計画書作成、医療的ケア実施、職員や保護者との情報共有、理解を深められるような園内での研修を開催する。
- 栄養士
状態を把握し食事を提供、栄養や食事に関する保護者の対応をする。
保育園入所までの流れ
保育園入所までの流れを紹介します。
時期 | 流れ | 詳細 |
---|---|---|
9月~10月頃 | 保護者からの相談を受ける | |
受け入れの検討をする | 保護者からの文書や面談による聞き取り 体験保育をする 主治医意見の聞き取り (受診付き添い) 各機関と連携する 多職種による検討の場を設ける | |
結果を通知する | ||
10月~11月頃 | 受け入れ可能でれあれば入所手続き 受け入れ不可であれば他のサービスを検討 | |
2月 | 利用調整、支援計画の作成 | 各機関と連携する 主治医から医療的ケアの手技指導の機会をつくる 必要時は看護師・保育士を追加で配置 |
4月 | 保育所の利用開始 | 各機関と連携する |
表にある各機関とは、児が現在関わっている機関すべて、また今後必要と考えられる機関も含まれます。
母子保健所、障がい福祉所、相談支援事業所、医師、医療的ケア児コーディネーター、消防機関などと連携し、どのように支援をするか話し合います。
各自治体によって保育園入所までの流れが異なるケースがあるので、保育園のある自治体のホームページを確認しましょう。
また医療的ケア児受け入れにあたって書類の作成や自治体への提出が必要です。様式は各自治体によって異なるため、必要書類も確認しましょう。
緊急時の対応
緊急時の対応は、入所前に保護者や主治医とよく話し合いをします。
そして緊急時のマニュアルを作成し、何か起きた場合はマニュアルを見てすぐに対応できるように体制を整えます。
緊急時マニュアルは、最低限以下の内容が含まれています。
- 緊急時の連絡先(保護者、医療機関)
- 症状による対応方法(救急車を要するケース、保護者のお迎えを待つケース)
- 連携機関への報告
主治医が近隣の医療機関に在住していない場合、近隣で児を受け入れ可能な医療機関があるのか、事前に主治医や保護者に確認します。
身体の状態や必要なケアは一人ひとり異なるため、起きうるリスクと対応方法を主治医や保護者に確認し、職員に周知します。
なお緊急時だけでなく、児が体調不良の際は他の児童と同じように保護者へ連絡しお迎えが必要です。
安全管理とリスクマネジメント
ガイドラインでは、医療的ケアの提供にあたって保育施設の安全管理に関する内容が明文化されています。
児の受け入れにあたって各機関と情報共有をすること、保育施設職員の体制を構築すること、医療的ケアの機器を適切に管理します。
なお、医療的ケアの機器や物品は保護者で準備し、使用後は保護者が家に持ち帰ります。
医療事故を防ぐために、起こりうるリスクの確認や分析、対応、評価を継続的に行います。
また医療事故が起きた際は速やかに報告、検証し再発防止に努めます。自治体によって、安全管理に関する書類の提出が必要です。
医療的ケア児の保護者へのお願い
医療的ケア児の保護者へのお願いには、以下の内容が記載されています。
- 情報の共有
- 必要書類の提出
- 保育施設の医療的ケア提供体制への理解
- 医療的ケアに必要な機器や物品の準備・点検・破棄
- 入園手続き、ならし保育
- 保育園での活動
- 食事の対応
- 緊急時や災害時の対応
- 退園
ガイドラインに沿って医療的ケア児を保育園に受け入れよう
医療的ケア児を保育園で受け入れるにあたって、マニュアルはありませんがガイドラインは各自治体で作成されています。
この記事では厚生労働省の資料や各自治体のガイドラインを参考に紹介しましたが、各自治体によって内容が異なります。
必ず保育施設がある地域の自治体のガイドラインを確認し、医療的ケア児を受け入れられる体制を整えましょう。