医療的ケア児を支援するための代表的な施設として「医療的ケア児保育園」と「医療的ケア児支援センター」があります。
一見似ているこの2つの施設ですが、業務内容は異なり、医療的ケア児保育園は「医療的ケア児を預かり保育する」、医療的ケア児支援センターは「医療的ケアに関する相談を受け付け、情報を提供する」という違いがあります。
当記事内では、より詳しくこの2つの施設の違いについて解説します。それぞれの施設がどのような役割を担っているか理解していきましょう。
医療的ケア児保育園について
ここでは「医療的ケア児保育園」について、一般的な保育園についても触れつつ、以下4つの観点から解説します。
- 保育園とは
- 医療的ケア児保育園とは
- 看護師がいれば医療的ケア児保育園となるわけではない
- 医療的ケア児保育園はまだ少ない
保育園とは
「保育園」は、仕事や病気などの事情で子供の保育が十分に行えない家庭を対象に、家族にかわって保育を行う施設です。児童福祉法に位置付けられた「児童福祉施設」という扱いとなり、0~5歳の乳児および幼児を対象としています。
保育園に入園した子供は、保育士に見守られながら、他の子供たちと一緒に遊んだり、食事をしたり、お昼寝をしたりして一日を過ごします。
なお保育園と似た施設に「幼稚園」がありますが、幼稚園は「学校」に分類される教育機関であり、1日4時間程度と保育園よりも預かる時間が短いのが特徴的です(保育園は1日11時間以上開所している施設が多い)。
医療的ケア児保育園とは
「医療的ケア児保育園」とは、日常的に医療的ケアが必要になる「医療的ケア児」を受け入れている保育園のことです。
医療的ケア児保育園では、「喀痰吸引」や「経管栄養」などの医療的ケアが行える看護師、もしくは専門の研修を受けたスタッフが在籍しています。保育と医療的ケア、両方の支援サービスを受けられますので、医療的ケア児であっても安心して預けることができます。
たとえば神奈川県横浜市では、医療的ケア児の受け入れが可能な園を「医療的ケア児サポート保育園」として認定し、安全な受け入れを推進しています。
なお、医療的ケア児保育園の中には、医療的ケア児や障害を持つ児童のみを主な対象とした園もありますが、健常者向けの一般的な保育園が医療的ケア児保育園として認定され、一定数の医療的ケア児を受け入れているケースもあります。
看護師がいれば医療的ケア児保育園となるわけではない
注意点として、看護師が在籍している保育園であっても、そのすべてが医療的ケア児保育園に該当するわけではありません。
看護師全員が小児科の分野や医療的ケアに精通しているわけではなく、「小児科やNICU(新生児集中治療管理室)で働いた経験がない」「医療的ケアについて学生時代に学んでいない」という看護師も少なくありません。
そうした医療的ケアの経験がない看護師しかいない保育園では、医療的ケア児を受け入れを拒否されることがあります。
医療的ケア児保育園はまだ少ない
医療的ケアの経験のある看護師というのは限られてくるため、医療的ケア児保育園の数もまだまだ少ないのが現状です。定員オーバーで入園できない医療ケア児も沢山います。
ただし2021年に「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」が施行され、保育所、学校等に喀痰吸引等が可能な看護師や保育士を設置することが「責務」となったため、今後は医療的ケア児保育園の数も増加していくことが期待されています。
医療的ケア児支援センター
次に「医療的ケア児支援センター」について、以下3つの観点から解説します。前述した医療的ケア児保育園との差を知りましょう。
- 医療的ケア児支援センターとは
- 医療的ケア児支援センターのその他の業務
- 医療的ケア児保育園との違いについて
医療的ケア児支援センターとは
「医療的ケア児支援センター」は、医療的ケアの「情報の集約点」となるような施設です。
医療的ケア児にはさまざまな社会的な支援が必要となりますが、その専門性の高さから、必要な情報を上手く探せない保護者の方も多く、また自治体などの相談窓口も必要な情報を上手く提供できないことが多いです。
「利用できる制度が知りたい」「医療的ケア児を保育園や学校に通わせたい」「けれど情報があまりなく、どこに相談してよいかもわからない」といった悩みを抱え、行き詰まっている保護者の方も少なくありません。
医療的ケア児支援センターはそうした医療的ケア児を抱える家族の「相談」に乗り、医療的ケア児を育てる上で利用できる制度、サービス、施設などの「情報」を提供し、支援するための施設となります。
具体的に、医療的ケア児支援センターでは、以下のような疑問や悩みごとの相談が可能です。
・どこに相談していいかわからない
・利用できる制度やサービスが知りたい
・保育園や学校の情報が知りたい
・ケアをどのようにすればよいか知りたい、医療的ケアの理解を深めたい
・子育てが不安、先の見通しが立たない
・ケア児を抱え、仕事が続けられず困っている など
これ以外にも、医療的ケア児に関することであれば、その分野に精通したスタッフがさまざまな内容の相談に乗ってくれます。相談料はかからず無料ですので、気軽に利用することができます。
医療的ケア児支援センターのその他の業務
医療的ケア児支援センターでは、相談や情報提供以外にも、以下のような業務を行っています。
・役所、保育園、学校など関係機関と連携し、医療的ケア児に関する情報提供や研修の実施
・地域に対し、医療的ケア児の情報提供や啓発活動
・勉強会や交流会の開催
・専門人材の育成による地域支援 など
医療的ケア児を抱える家族だけでなく、保育園や学校など関係機関、そして地域に対して、医療的ケア児の情報を提供し、医療的ケア児の理解を深めてもらうことも医療的ケア児支援センターのミッションです。
医療的ケア児保育園との違いについて
前述した医療的ケア児保育園との違いをまとめると、以下のようになります。
医療的ケア児保育園 | 医療的ケア児を預け、家族の代わりに「保育」と「医療的ケア」を行う施設。 |
医療的ケア児支援センター | 医療的ケア児に関する「相談」に乗り、「情報」を提供する施設。 |
医療的ケア児を預かったり、医療的ケアを行うなど、直接的に医療的ケア児を支援するのは「医療的ケア児保育園」です。
一方、「医療的ケア児支援センター」は、あくまで相談や情報提供を行う施設であるため、医療的ケア児を預かったり、医療的ケアを行うサービスは通常提供していません。
医療的ケア児保育園と支援センターの違いを理解した上で利用する
以上、医療的ケア児保育園と医療的ケア児支援センターの違いについて解説しました。
この2つの施設はそれぞれで業務内容や提供しているサービスが異なりますので、医療的ケア児保育園は「保育」をする場所、医療的ケア児支援センターは「相談」をする場所と分けて考えることが大切です。
なおこうした医療的ケア児向けの施設やサービスに関する疑問点などについても、医療的ケア児支援センターでは相談に応じてくれますので、気になる点がある場合は気軽に相談してみることをおすすめします。