医療的ケア児を受け入れる「医療的ケア児保育園」では、保育士だけでなく「看護師」も配置されており、スタッフの一人として働いています。
医療的ケア児保育園で働く看護師は、普段どのような仕事をしているのでしょう。病院で働く看護師とは業務内容が異なるのでしょうか。
当記事では、医療的ケア児保育園で働く看護師の仕事内容や役割、そして不足している看護師の現状について解説します。
医療的ケア児保育園で働く看護師について
医療的ケア児保育園で働く看護師は、園の中でどういった存在なのでしょう。なぜ保育園に看護師が必要なのでしょうか。
ここでは、医療的ケア児保育園で働く看護師について、以下3つの観点から解説します。
- 医療的ケア児保育園とは?
- 医療的ケア児保育園における看護師の仕事内容や役割
- 病院の看護師との違い
医療的ケア児保育園とは?
「医療的ケア児保育園」とは、日常的に喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な子供、いわゆる「医療的ケア児」の受け入れている保育園を指します。
医療的ケア児保育園では、医療的ケアを行うことができる看護師が配置されており、「保育」と「医療的ケア」の両方を受けることができるため、医療的ケア児でも安心して預けることができます。
なお、医療的ケア児や障害を持つ児童のみを主な対象とした園もありますが、健常者向けの一般的な保育園が、医療的ケア児を一定数受け入れているケースもあります。
医療的ケア児保育園における看護師の仕事内容や役割
医療的ケア児保育園で働く看護師の仕事内容として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 医療的ケア児の見守り
- 医療的ケア(喀痰吸引、経管栄養、導尿、排泄補助、人口呼吸器などデバイスの管理など)
- 児童の健康管理
- 保育士や保護者への保健指導
- 身体測定等の保健行事の実施
- 日誌や健康カード等の記録書類の整理 など
この中でも特に代表的な業務となるのが、「医療的ケア児の見守り」と「医療的ケア」です。
医療的ケア児の中には、呼吸、歩行、飲み込み、排尿などが上手くできないお子さんもおり、トラブルが起きていないかを常日頃から見守る必要があります。担当するケア児によっては、朝の登園から看護師が一緒に付き添うこともあります。
そしてケア児を見守りつつ、症状に合わせた「医療的ケア」を、保育園内で定期的に行っていくことになります。ケア児によっては、喀痰吸引などを1日に何十回も必要とする児童もいます。
一方で、子供と一緒に遊んであげたり、食事を食べさせてあげるなどの世話は、看護師ではなく保育士が担当することが多いです。ただし園によっては看護師が保育士の補助をすることもあります。
病院の看護師との違い
病院で働く看護師の場合、医師の指示の下、診察の補助や入院患者の看護を行うのが一般的です。また、病院であれば看護師も複数名在籍しており、いざという時に頼れる先輩の看護師も近くいるでしょう。
一方、医療的ケア児保育園では、通常医師は在籍しておらず、看護師でさえ1人しかいないという保育園も珍しくありません。そのため、園内で唯一の「医療者」として、責任ある行動が求められます。
勤務形態としては、病院で働く看護師の場合、夜勤を交えた不規則な勤務形態となることが多いです。
一方、医療的ケア児保育園で働く看護師の場合、日勤が主体であり、決まった勤務時間で働けることが多いです。休日に関しても土日祝日は休みとなる園が多いため、カレンダー通り休みやすいのが特徴的です。
医療的ケアが行える看護師不足の現状
医療的ケアが行える看護師というのは数が圧倒的に不足しており、今後の大きな課題となっています。
ここでは、看護師不足の現状について、以下3つの観点から解説します。
- 不足する看護師
- 看護師全員が医療的ケアを行えるわけではない
- 人手不足解消に向けた取り組み
不足する看護師
いま日本では看護師不足が深刻化しており、大きな病院などでも、十分な数の看護師が確保できないケースもあります。その上で「医療的ケアが行える看護師」はさらに数が限られます。
一方で、医療的ケア児人口自体は増加傾向にあります。新生児医療技術の発達により、疾患や障害をもつ幼い命を救いやすくなったことなどが増加に影響しています。
供給より需要のほうが多い状態であり、看護師一人で多くの医療的ケア児を担当しなければならない保育園や学校もあります。
その上で看護師の欠員などがでれば、施設側で対応できる許容範囲を越え、すでに入園している一部の医療的ケア児が通園できなくなるケースもあります。
看護師全員が医療的ケアを行えるわけではない
看護師は医療者となりますので、法的には医療行為や医療的ケアを行うことを「許可」されています。しかし許可されているからといって、看護師全員が医療的ケアを行えるとは限りません。
医療的ケアは専門的な分野となるため、「医療的ケアについて学生時代に学んでいない」「小児科やNICU(新生児集中治療管理室)で働いた経験がない」「医療的ケア児や障害児にどう対応すればよいかわからない」などの理由で、医療的ケアを行いたくても、スキル不足で行えない看護師が沢山います。
そして看護師が在籍する保育園であっても、医療的ケアが行えない看護師しかいない場合は、医療的ケア児の受け入れ不能となることもあります。
人手不足解消に向けた取り組み
医療的ケア現場における人手不足解消のため、以下のような取り組みも行われています。
- 看護師向けの医療的ケア研修の充実
- 保育士や教師など医療者以外の人間でも、特定の研修を受けることで喀痰吸引などの一部の医療的ケアを行うことを許可(2012年の法改正により)
- 「医療的ケア児支援法」の施行(2021年施行)
特に注目されているのが3つ目の「医療的ケア児支援法」の施行です。医療的ケア児支援法は社会全体で医療的ケア児を支援していくことを基本理念とし、そのための取り決めをまとめた法律です。
ポイントとして、医療的ケア児支援法では「保育園や学校などに看護師または喀痰吸引等が可能な保育士を配置すること」が「責務」として明文化されました。
今後は努力義務などではなく「責務」となるため、国や自治体、保育園や学校などが一丸となって、人材確保や人材育成を進めていくことになります。
一人でも多くの看護師が必要
医療的ケア児保育園で働く看護師について解説しました。
医療的ケア児は今後さらに増加する可能性が高く、それに伴い医療的ケア児保育園、そしてそこで働く看護師の需要もさらに高まることが予想されます。
一人でも多くの看護師の力が求められているため、医療的ケア児を助けたいという想いのある方は、「医療的ケア児保育園の看護師」を将来の職業として考えてみてはいかがでしょうか。