新生児医療技術が向上したことにより「医療的ケア児」が近年増加しています。ケア児増加に伴う課題を解消させるため、2021年には「医療的ケア児支援法」も施行され、医療的ケア児支援法を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。
今回は、医療や介護に携わる方であれば特に知っておきたい「医療的ケア児」と「医療的ケア児支援法」について詳しく解説します。医療的ケア児について理解を深めたい方はぜひご参照ください。
医療的ケア児とは?
「医療的ケア児」とは、日常的、恒常的に「医療的ケア」が必要になる児童のことを指します。
「医療的ケア」というのは、自宅や学校といった医療機関以外の場所で、家族もしくは研修を受けた教員や介護者等が日常的に行う医療的生活援助行為のことです。
医療的ケアの具体例をあげると、代表的なものでは「喀痰吸引」や「経管栄養」などが挙げられます。他にも「血液中の酸素飽和度と脈拍数の測定」「導尿」「在宅酸素療法」「インスリン注射」など、医療的ケアは多岐にわたります。
医療的ケア児が生きていくためには、こうした医療的ケアを、自宅、保育所、学校などで日々受けなければならず、周囲のサポートが必要となります。
医療的ケア児の症状はさまざま
一言に「医療的ケア児」といっても、その症状や必要となるケアはさまざまです。
以下に医療的ケア児の例をいくつか列挙します。
- 飲み込む力が弱く唾や痰を詰まらせてしまうことがあるため、一日に何度も喀痰吸引が必要な児童
- 人工呼吸器など、医療デバイスによる補助や管理が必要な児童
- 嚥下機能に問題があり、口から食事ができず、チューブや胃ろうカテーテルなどを使い栄養の注入が必要な児童
- 神経系の障害などで排尿がうまく行えず、尿道からカテーテルを入れ、尿の排出補助が必要な児童 など
このように医療的ケア児によって、抱えている症状は異なり、症状の重さも異なります。重症なケア児ですと、家族が睡眠不足になるほどのケアが必要となることもあります。
医療的ケアのルーツ
本来、人体に危害を及ぼす可能性のある「医療行為」というのは、法的に医療者(医師や看護師など)や家族にしか許されていません。
しかし疾患や障害を持つ児童の中には、医療行為に近いケアが必要となる児童もいます。そうした児童を一般的な保育所や学校に通わせると、周りの先生達はケアが迫られても法的な縛りの中で手が出しにくい状況でした。
だからといって、医療者や保護者がいなければ教育を受けられないというのは、子どもの教育を受ける権利の侵害にもなります。
そうした板挟みの中で、医療行為とは分けようという考えから、当初教育の場で生まれたのが「医療的ケア」という概念であり、1990年代より普及し始めました。そして現在は、法改正によって簡単な研修を受けた教員や介護者も、喀痰吸引や経管栄養などの一部の医療的ケアが許されるようになりました。
医療的ケア児支援法について
「医療的ケア児」とセットで知っておきたいのが、新しく施行された「医療的ケア児支援法」です。
ここでは、以下4つの観点から医療的ケア児支援法について解説します。
- 医療的ケア児支援法とは?
- 背景にあるケア児人口の増加
- ケア児や家族を社会全体で支援する法律
- 医療的ケア児支援法のポイント
医療的ケア児支援法とは?
医療的ケアに関する法律として「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」が2021年6月に成立、同年9月18日に施行されました。
「医療的ケア児とその家族の日常生活や社会生活を社会全体で支援すること」を基本理念としており、そのための法的なルールを定めているのがこの医療的ケア児支援法となります。
※医療的ケア児支援法の条文は、e-Gov(電子政府の総合窓口)内で確認できます。
背景にあるケア児人口の増加
医療的ケア児支援法が作られた背景には、医療的ケア児の増加が関係しています。
少し前の時代には、疾患や障害を持つ子供の場合、出生時や出生後しばらくして亡くなってしまうことが少なくありませんでした。それが近年、新生児医療技術が向上したため、以前は助けられなかった命を救うことができるようになりました。
しかし疾患や障害を持つ子供たちは、生き延びられても「医療的ケア児」としてその後もサポートが必要となるケースが多いです。結果、医療的ケア児人口の増加に繋がったと考えられています。
厚生労働省がまとめた「医療的ケア児について」の資料によれば、国内の医療的ケア児人口は2005年(平成17年)時点では9987人でしたが、2021年(令和3年)には20180人まで増加しています。
ケア児や家族を社会全体で支援する法律
子供たちの命が助かることは喜ばしいことではありますが、医療的ケア児が増加したことで新たな課題も浮き彫りになりました。医療的ケア児は、文字通り医療的ケアが日常的に必要になりますが、医療的ケアが行える保育所や学校などの施設は限られてきます。
そのため身近な家族が医療的ケアを行なっているケースが多いですが、毎日のように医療的ケア児をケアするというのは、体力的にも精神的にも大きな負担として圧し掛かります。それが原因で仕事を辞めなければならなかったり、離婚してしまうケースもあります。
また、医療的ケア児は「障害児」として認められないケースもあり、利用できる支援制度などが限られてしまうこともあります。
そうした課題を踏まえ、医療的ケア児とその家族を社会全体で支援し、安心して生きていけるようにするために、この医療的ケア児支援法が作られました。
医療的ケア児支援法のポイント
医療的ケア児支援法ではさまざまな条文が書かれていますが、ポイントとなるのは、以下のように「責務」が明確化されたことです。
- 国や地方自治体の医療的ケア児支援が「責務」となり、措置が明文化された(医療的ケア児が在籍する保育所や学校へ支援する など)
- 保育所、学校等の「責務」が明文化された(看護師または喀痰吸引等が可能な保育士を配置する など)
- 各都道府県に医療的ケア児支援センターを設置
今後、国、地方自治体、保育所、学校等は、「責務」として医療的ケア児を支援していく必要があるため、医療的ケア児への支援体制がより強化されていくと期待されています。
社会全体で支える意識が求められる
以上、医療的ケア児と医療的ケア児支援法について解説しました。
新生児医療技術の発達により、医療的ケア児は今後もさらに増加していく可能性が高いです。安心して子どもを生み、育てることができる社会を目指す上では、社会全体で医療的ケア児やその家族を支えていく必要があります。
介護従事者においても、今後は医療的ケア児と関わる機会も増えていくことが予想されますので、日頃から医療的ケア児に対しての理解を深めておくことが大切です。