皆さんは、人工呼吸器などの医療機器や、たんの吸引などの医療的処置を欠かすことができない、医療的ケア児についてご存じでしょうか。
2022年の調査によると日本には約2万人の医療的ケア児が暮らしています。
医療的ケア児は近現代の医療技術の発達に起因すると考えられており、平成後期から令和初期にかけて急激に人数が増加しました。
今後もその人数が増加すると考えられている医療的ケア児ですが、保育園や幼稚園、そして学校での受け入れ体制はどうなっているのでしょうか。
今回は医療的ケア児と集団生活の現状についてご紹介していきます。
医療的ケア児が増加する背景
医療的ケア児はその名の通り、医療的なサポートを必要としている18歳未満の児童です。
必要な医療的支援の内容は様々ですが、医療的ケア児は人工呼吸器や経管栄養、たんの吸引など、医療デバイスや医療処置を常時欠かすことのできない状態にあります。
2005年時点では約1万人とされていた医療的ケア児の人数が、なぜ17年間で倍増したかというと、医療技術の発展が大きいと考えられています。
近年の医療技術の発展は目覚ましく、主に周産期や新生児期などにおいて、従来では難しかった先天性の心疾患をはじめとする病気に対しての処置が確立され、多くの小さな命を助けることができるようになりました。
以前であれば失われていた可能性のある命を助けるための技術が普及したものの、その大切な命を社会全体で支えるための仕組み作りをしている段階にあるのが、日本の現状といえます。
医療的ケア児と集団生活
医療的ケア児の多くは常に医療的なサポートを必要としているものの、知的な遅れや身体能力の面では大幅な遅れがないクライアントも多いです。
そのため健やかな発達のためには、非医療的ケア児と同様に年齢相応の集団生活を送ることが望ましいといえます。
しかしながら現状では医療的ケア児の受け入れに対応している集団生活の場は少なく、希望する保育園や幼稚園、学校への入学は難しいケースも多々あるのが現状です。
医療的ケア児と保育園
保育園は両親が共働きの家庭や、家族に高齢の要介護クライアントがいる家庭など、忙しい保護者と共に子どもを育てるために必要な場所です。
しかしながら医療的ケア児を受け入れるためには、医療ケアを行うことができる看護師の確保や喀痰吸引ができる保育士の確保、また医療的ケア児の受け入れに伴う安全や資金の確保など、多くのハードルが存在しています。
そのため厚生労働省が発表した情報によると、2020年の時点で医療的ケア児の受け入れに対応している保育所等は526ヶ所、受け入れ状況は645人となっています。
2015年からは保育所の数・受け入れ状況ともに2倍程度の増加が確認されていますが、愛媛県や宮崎県のように受け入れている施設がない県も存在しており、地域格差も含めて、まだまだ希望する医療的ケア児の全員が保育園に入園可能な状況とは言いづらい現状です。
医療的ケア児と学校
文部科学省の調査によると、2019年時点は特別支援学校に8,485人、通常の小・中・高等学校に1,783人の医療的ケア児が在籍しています。
在籍しているクライアントが必要としている医療的ケアの詳細を確認してみると、例えば喀痰吸引においては口腔内・鼻腔内のケアを必要としていると特別支援学校への在籍が多い傾向にあります。
一方で同じ喀痰吸引でも気管カニューレを使用している場合は、通常の学校に在籍しているケースも多いです。
他には胃ろうや導尿、インスリン注射であれば通常の学校に在籍している医療的ケア児の数が比較的多いといえます。
保護者による付き添い
医療的ケア児が学校に通う上で大きな問題となっているのが、保護者の付き添いです。
先ほどご紹介した文部科学省の調査によると、特別支援学校に実際に通学している6,482人の医療的ケア児のうち、保護者が医療的ケアを行うために付添いを行っているのは、全体の51.9%にあたる 3,366人となっています。
通常の学校に通学する1,783人の医療的ケア児のうち、保護者が医療的ケアを行うために付添いを行っているのは、全体の66%にあたる 1,177人となっています。
医療的ケア児が集団生活を送る上ではまだまだ保護者の負担が大きく、今後も医療的ケア児が増え続けると予想されるなかで、どのように法整備やガイドラインの整備を進めていくのかが大きな課題となっています。
保育園や学校に通う医療的ケア児と家族の環境の充実を目指して
医療的ケア児の人数が増加傾向にあることを受けて、2021年より医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が交付されています。
医療的ケア児の健やかな健康・医療的ケア児家族の離職防止・安心して子どもを生み、育てられる社会の実現を目指した法律となっており、保育園や学校の設置者には看護師などの人員を配置する責務が課せられました。
また国や地方自治体に対しても、医療的ケア児が在籍する保育園や学校に対する支援を行うことが定められており、医療的ケア児の日常生活と社会生活をより時代に則した形で包括的に支援していくための社会整備が進められています。
学校における新たな支援スタッフ
特に学校においては、医療的ケア児が安全に集団生活を送るために新たな支援スタッフを学校教育法施行規則に位置付け、配置の促進が進められています。
具体的に医療的ケア児に関わる部分では、医療的ケア児が学校における日常生活及び社会生活を営むために必要な人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引、その他の医療行為を世話し、診療の補助に従事する「医療的ケア看護職員」と、食事や排せつ、教室移動など学校における日常生活の介助や学習支援等のサポートに従事する「特別支援教育支援員」が教育現場に配置されることになりました。
今後も医療的ケア児が保育園や学校生活など集団生活を送る場において、より一層の支援が拡充されるよう、土屋グループとしても知見を活かした提言をしてまいります。