「医療的ケア児にはどのような看護が必要?」と看護師の方は疑問に思うことがあるのではないでしょうか。
医療技術の発展によって医療的ケア児は増えていますが、児童とその家族の支援体制がまだ整っておらず、支援するためにさまざまな場所で看護師が必要とされています。
医療的ケア児の看護を必要とする事業所や、教育機関への就職を検討している看護師の方は、ぜひ参考にしてください。
医療的ケア児の看護
医療的ケア児の看護は、医療的ケアの提供だけでなく多岐に渡ります。
医療的ケア児の主な看護は以下のとおりです。
- 医療的ケアの提供
- 医療的ケア児の成長発達段階に合わせた看護
- 家族看護
- 各関係機関との情報共有と連携
それぞれ詳しく紹介します。
医療的ケアの提供
医療的ケア児への看護は、全身状態の観察やバイタルサイン測定とともに、医療的ケアを提供します。
医療的ケアの内容は以下のとおりです。
- 人工呼吸器
- 気管切開の管理
- 鼻咽頭エアウェイの管理
- 酸素療法
- 吸引(口鼻腔内、気管内)
- ネブライザーの管理
- 経管栄養
- 中心静脈カテーテルの管理
- 皮下注射
- 血糖管理
- 継続的な透析
- 導尿
- 排便管理
- 痙攣時の対応
上記の中でも、特に多い医療的ケアは経管栄養と吸引です。
経管栄養は、経鼻胃管、胃ろう、経鼻腸管、経胃ろう腸管、腸ろう、食道ろう、持続経管注入も含まれます。
また人工呼吸器の種類も児童によってさまざまで、一人ひとりに対応した医療的ケアが必要とされます。
医療的ケア児の成長発達段階に合わせた看護
医療的ケア児には成長発達段階に合わせた看護が必要です。
人は生まれてからさまざまな段階を経て成長し、各年代ごとに健康問題や発達課題は異なります。
看護業界で一般的な人生の成長過程論は、エリクソンの心理社会的発達理論です。
エリクソンの心理社会的発達理論を、医療的ケア児の年代を抜粋して紹介します。
乳児期(出生から1年未満)
乳児期は児が信頼できる母・または母親的存在に出会い関わることで、自分と他者の間に信頼が生まれます。
しかし母親または母親的存在に出会えなかったり、育児放棄が起きたりすると、不信が生まれ精神機能が正常に発達しないことがあります。
幼児期初期(1歳から3歳)
幼児期初期はことばの発達に伴い、自ら率先して多くのことをやりたくなる時期です。
失敗すると葛藤し、恥ずかしい気持ちや疑惑が生じることがあります。
幼児期後期(3歳から6歳)
幼児期後期はさらに自律性が生まれ、積極的に行動する時期です。
「ごっこ遊び」によって、社会性を身に付ける時期でもあります。
積極的な行動によって周囲から注意を受けると、罪悪感が生まれます。
学童期(6歳から13歳頃)
学童期は保護者と生活して成長する段階から学校へと移り、他者と関わることが多くなります。
自分の得意・不得意を知り、勤勉性を身に付ける期間で、認められたり褒められたりすることで、自己効力感を得られます。
勝ち・負けが明確になることや、叱られることもあり、劣等感を覚える時期でもあります。
青年期(13歳から22歳頃)
青年期は学校だけでなく、社会とも関わることが多くなる時期です。
自分の存在や役割について悩み考える時期で、アイデンティティ(自我同一性)を確立する時期ともいいます。
医療的ケア児は医療的ケアのない児童と比較すると、エリクソンの発達課題を達成することが難しい傾向にあります。
そのため、まずは医療的ケア児の発達段階が現在どの位置なのかを把握した上で、看護を提供することが大切です。
家族看護
医療的ケア児の看護は、児童だけでなくご家族への看護も必要です。
医療的ケア児によって、24時間ご家族が介助していたり、教育機関へ通っていたりと介護状況はさまざまです。
介助をするご家族は、日々の生活に対する緊張、相談にのれる相手がいない、きょうだい児へのストレスなどの悩みを抱えています。
その悩みを解決できるのが、医療的ケア児を取り巻く環境の職員であり、看護師もその一人です。
ご家族と積極的にコミュニケーションをとり、悩まれていること聞いたり、体調や表情に変化はないか確認したりしましょう。
また困っていることでなく、日常の些細なコミュニケーションをとることや、児の成長の喜びを分かち合うことで信頼関係が築けます。
各関係機関との情報共有と連携
各関係機関との情報共有と連携も、看護師の役割のひとつです。
医療的ケア児はひとつのサービスだけでなく、複数のサービスを利用していることが多く、児を支援するためには関係機関との連携が重要です。
医療的ケア児を取り巻く環境は、主治医や児童がかかっている医療機関、医療的ケア児コーディネーター、保健師、教育機関、各種サービスなどがあります。
各関係機関と連携することで、医療的ケア児とそのご家族への適切な支援ができます。
教育機関での医療的ケア児の医療的ケア
医療的ケア児の中でも特に多い医療的ケアは、経管栄養と吸引であると上述しましたが、ここでは教育機関で多い医療的ケアについて紹介します。
令和3年度に行われた医療的ケアに関する実態調査調査では、特別支援学校と幼稚園、小・中・高等学校で実施されている医療的ケアの内容と件数が報告されています。
特別支援学校で多い医療的ケアは、特別支援学校で最も多い医療的ケアは口腔内の喀痰吸引、次いで鼻腔内の喀痰吸引、3番目は経管栄養(胃ろう)です。
幼稚園・小・中・高等学校で多い医療的ケアは、導尿、次いで血糖測定・インスリン注射、3番目は気管カニューレ内部の喀痰吸引です。
特別支援学校は、障害の程度が比較的重い児童を対象に専門性の高い教育を実施しています。
そのため幼稚園・小・中・高等学校で多く行われる医療的ケアとは異なる医療的ケアが多く提供されています。
医療的ケア児の看護は一人ひとりの児に合わせた看護を
医療的ケア児によって心身の状態や医療的ケア、取り巻く環境が全く異なるため、一人ひとりに合わせた看護をすることが大切です。
もちろん医療的ケア児だけでなく、ご家族への看護も欠かせません。
医療的ケア児を支援する看護師は、さまざま場面で必要とされています。
この記事で紹介した内容を参考に、医療的ケア児の看護の学びを深め、医療的ケア児を支援していきましょう。