近年増加傾向にある「医療的ケア児」。医療的ケア児とは具体的にどのような児童を指すのでしょう。病気を患った児童や障害を持った児童とは違うのでしょうか。
当記事では「医療的ケア児」についての定義や特徴、また近年の人口推移や増加している理由について解説します。医療的ケア児の今について知りたい方は、ぜひご参照ください。
医療的ケア児について
医療的ケア児とは、端的にいうと「日常的に医療的ケアが必要となる児童」を指します。
以降では、医療的ケア児の定義や扱いについて、以下3つの観点から解説します。
- 医療的ケアとは
- 医療的ケア児とは
- 医療的ケア児の法律上の定義
医療的ケアとは
「医療的ケア」とは、自宅や学校などの医療機関以外の場所で、家族もしくは研修を受けた教員や介護士などが日常的に行う医療的生活援助行為のことです。医療者(医師や看護師など)が行う「医療行為」とは区別されています。
医療的ケアとして、代表的なものを以下に列挙します。
- 喀痰吸引
- 経管栄養
- 気管切開部の衛⽣管理
- 導尿
- 血液中の酸素飽和度と脈拍数の測定
- 在宅酸素療法
- インスリン注射 など
※あくまで一例であり、医療的ケアに該当する行為はこれ以外にもまだまだあります
この中でも特に代表的な行為は、「喀痰吸引」と「経管栄養」です。
医療的ケア児とは
「医療的ケア児」とは、前述した医療的ケアが日常的に必要となる児童を指します。
医療的ケア児には、以下のようにさまざまなタイプのお子さんがいます。
- 定期的に口腔内や鼻腔内の喀痰吸引が必要な児童
- 嚥下機能の障害により口で食事ができず、鼻から入れたカテーテルなどを介して食事が必要な児童
- 口や鼻がふさがってしまう症状があり、喉に穴を開け、専門の器具を装着している児童 など
共通するのは、医療デバイスなどを使い身体の機能を補っていること、そして生きるために周囲からの日常的なサポートやケアが必要となる点です。
医療的ケア児の法律上の定義
より細かい話となりますが、法律上において、「医療的ケア児」は以下のように定義されてます。
法律区分 | 定義内容 |
---|---|
児童福祉法 | 人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児 |
医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律) | 日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童(18歳以上の高校生等を含む。) |
児童福祉法と医療的ケア児支援法、どちらの法律においても、一時的ではなく「日常的に、恒常的に」という点がポイントとなっています。
医療的ケア児の人口推移について
医療的ケア児は昔から一定数おりましたが、最近になって人口が急増しています。
厚生労働省がまとめた「医療的ケア児について」の資料によると、国内の医療的ケア児人口は2005年(平成17年)時点では9987人でしたが、2021年(令和3年)には20180人まで増加しています。このわずか約15年の間に2倍以上に膨れ上がり、約1万人増加しています。
比例して子供の人口が増えているのであれば問題視することではありませんが、日本の出生数は年々下がっており、子供の人口は減っています。
子供の出生数に関して、厚生労働省「出生数、合計特殊出生率の推移」によると、1970年前半の第2次ベビーブーム時にピークとなり、その後は右肩下がりで年々減少している状況です。直近2019年では年間出生数は87万人となり、過去最少の数値を記録しています。
したがって、子供の母数は減っているのに関わらず、医療的ケア児は増えているという反比例の状況であるため、医療的ケア児は割合としても急増しているといえます。
医療的ケア児が増える理由
なぜ最近になって医療的ケア児が増えたのでしょう。ここでは医療的ケア児が増える理由や背景について解説します。
新生児医療技術の向上が関係
医療的ケア児が増えた背景には、「新生児医療技術」の向上が関係していると考えられています。
出生時や出生後しばらくの間は、赤ちゃんが亡くなりやすい環境であり、特に疾患や障害をもつ赤ちゃんの場合、命を落としてしまうケースが過去には少なくありませんでした。
しかし近年は新生児医療技術が向上し、以前は助からなかった幼い命を救い出せるようになり、成長後も医療デバイスなどを用いて医療機関の外でも生活できるようになりました。こうした技術の進歩が、医療的ケア児の増加に関係しているといわれています。
NICUの普及も影響
NICUとは「新生児集中治療管理室」のことであり、保育器、人工呼吸器、輸液ポンプなど新生児用の高度な医療設備が整い、24時間体制で新生児の治療や管理が行える施設のことです。
2000年代以降、NICUは全国的に普及していき、NICUが整備されたことで、以前では出生後に命を落としていた赤ちゃんを助け出せるケースが増えました。こうしたNICUの普及も医療的ケア児の増加に関係していると考えられています。
新生児死亡率も右肩下がりで低下しており、直近2021年度の新生児死亡率(出生1000人あたりの新生児死亡数)は0.8‰と過去最少の値となっています(厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計より)
新生児死亡率0.8‰というのは、世界的にみても最高水準の成績であり、日本は生まれたばかりの赤ちゃんにとって、恵まれた医療環境が用意されているといえます。
サポートが追いついていない部分も
医療的ケア児が増加する一方で、医療的ケア児をサポートする環境や体制が、まだ十分に配備されていないことが社会的な課題となっています。
NICUに入院している間は、医療スタッフが赤ちゃんの対応をしてくれますが、いずれ成長すれば、自宅、保育園、学校など医療機関外の場所で、周囲の人間がサポートしていく必要があります。
しかし、喀痰吸引などの医療的ケアが行えるスタッフを配置した保育園や学校はまだ少なく、頭悩まされている親御さんも多いのが現状です。
明るいニュースもあり、2021年に「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」が施行されました。医療的ケア児支援法の下、医療的ケア児をとりまく環境が今後改善されることが期待されています。
社会全体で医療的ケア児を理解する必要がある
以上、医療的ケア児の定義や増える理由について解説しました。
医療的ケア児は今後さらに増加していく可能性があり、身近にいる子供の中にも、何人か医療的ケア児が存在する時代がくるかもしれません。
医療的ケア児が生きるためには周囲の人間の継続的なケアやサポートが必要になります。多くの方が医療的ケア児のことを理解し、社会全体で医療的ケア児やその家族を支えていくことが、新生児医療技術が発展したこれからの時代大切になってくるでしょう。