医療的ケア児の人数は増加傾向にありますが「人数が増えている理由は?」と疑問に思うのではないでしょうか。
この記事では、医療的ケア児の人数が増えている理由と、増えている理由となっているNICU(新生児集中治療室)についても紹介します。
あわせて、政策による医療的ケア児の在宅移行促進体制についても解説しています。
医療的ケア児の疑問が解決する内容となっていますので、ぜひ読み進めてください。
医療的ケア児の人数が増えている理由
医療的ケア児の人数が増えている理由は、医学の進歩が背景にあります。
これまでであれば十分な医療を受けられず命を落としていた赤ちゃんが、NICU(新生児集中治療室)の医学の進歩によって、医療的ケアを受けながら生きられるようになりました。
医療的ケア児は、人工呼吸器管理や気管切開、経管栄養などの医療的ケアが必要な状態で在宅へと移行しています。
なお医療的ケア児とは、日常生活や社会生活において医療的ケアが必要不可欠な児のことをさします。
医療的ケア児の数の推移
医療的ケア児の数の推移を以下の表にまとめています。
なお医療的ケア児の人数は推計値です。
年度 | 人数(推計値) |
---|---|
平成17年 | 9,987人 |
平成20年 | 10,413人 |
平成22年 | 10,702人 |
平成25年 | 15,892人 |
平成27年 | 17,209人 |
平成30年 | 19,712人 |
令和3年 | 20,180人 |
表からわかるように、平成17年と令和3年の医療的ケア児の人数を比較すると、おおよそ2倍以上も増えています。
この期間の間に、医療が充実してきたことがわかります。
医療的ケア児に必要な医療的ケア
上でも少し触れましたが、医療的ケア児に必要な医療的ケアについて紹介します。
医療的ケア児によって内容は異なりますが、主な医療的ケアは以下のとおりです。
- 人工呼吸器
- 気管切開の管理
- 鼻咽頭エアウェイの管理
- 酸素療法
- 吸引(口鼻腔内、気管内)
- ネブライザーの管理
- 経管栄養
- 中心静脈カテーテルの管理
- 皮下注射
- 血糖管理
- 継続的な透析
- 導尿
- 排便管理
- けいれん時の対応
医療的ケア児のご家族は、入院中から医療的ケア児に必要なケアの知識と技術を身に付けます。
NICU(新生児集中治療室)とは
NICUとは治療が必要な赤ちゃんが、医師や看護師による24時間体制のケアを受けて、育つための部屋です。
他の新生児の部屋とは別の部屋で、赤ちゃんの心臓の動きや呼吸のリズムなどを管理する医療機器が備わっています。
どんな赤ちゃんがNICUに入る?
NICUに入る赤ちゃんは、主に以下のケースが当てはまります。
- 早く産まれた(早産)
- 小さく産まれた(低出生体重児)
- 呼吸や栄養のサポートが必要
- 心臓などに病気がある
特に早産の場合は低出生体重児であることがほとんどで、体の機能が未発達なためさまざまな病気やトラブルを引き起こすことがあります。
保育器の役割
NICUの赤ちゃんを想像すると、透明のケースの中で治療を受けているイメージはないでしょうか?
透明のケースは保育器(クベース)といい、母親の子宮の代役を担っています。
早産の赤ちゃんは自分で体温を調節することができないため、保育器では赤ちゃんの体温が一定に保たれるようになっています。
また免疫機能のない赤ちゃんを、細菌から守るのも保育器の役割です。
NICUで体調が安定してきたらGCUへ
NICUで体調が安定した赤ちゃんは、GCU(回復治療室)へ移動します。
なお赤ちゃんの状態によっては、NICUではなく最初からGCUへ入室することもあります。
GCUの入院期間は、ご家族が赤ちゃんの退院後にする授乳やおむつ交換、沐浴などの指導を受ける退院に備える期間です。
そして赤ちゃんが家でも医療的ケアが受けられるように、連携機関と協力しながら、ご家族へアドバイスや指導をします。
医療的ケア児の在宅移行促進体制
令和3年に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」により、医療的ケア児とその家族への支援が責務となっています。
医療的ケア児の政策は多岐に渡りますが、ここではNICUまたはGCU等から在宅への移行がスムーズに進むための体制を紹介します。
【在宅へ帰る前に】地域療育支援施設
医療的ケア児が在宅へ退院する前に、地域療育支援施設を経てから在宅へ移行できるような支援を行っています。
地域療育支援施設とは、心身に障害のある児童の地域での生活を支えるために、児童やその家族の相談を受けたり、技術支援を提供したりする場です。
医療的ケア児はNICUからGCUを経て退院しますが、ご家族が十分なトレーニングを受けられないケースがあります。
また医療機関が満床になると、新たな医療的ケア児を受け入れられない課題がありました。
ご家族が十分なトレーニングを受けられる環境を整えることで、在宅での療養がスムーズになり、加えてNICUやGCUの満床も解消できます。
なお地域療育支援施設が上記の役割を担うには、小児科医や理学療法士等で構成する医療チームを設置し、専用病床を2床以上有することなどが条件となっています。
【退院後に利用】日中一時支援施設
日中一時支援施設とは、NICUなどに長期に渡る入院後、在宅で過ごしている医療的ケア児を一時的に預けられる施設です。
ご家族の休息や定期的な医学管理、医療的ケア児の活動の場として利用できます。
利用できる時間は日中のみで午前中から夕方、また施設によっては18時以降も利用できるところもあります。
なお、日中一時支援施設にて医療的ケア児を受け入れるためには、小児科医等で構成する医療チームを設け、呼吸管理に必要な機器を備える必要があります。
医療的ケア児の人数が増えているため適切な支援が必要
医療的ケア児の人数は、早産や低出生体重児などの医学の進歩によって増加し、推定2万人を超えるといわれています。
しかし社会制度が整っておらず、増加する医療的ケア児に適切な支援ができていない現状がありました。
そのためNICUからGCU、そして在宅へとスムーズに移行するために、国によって医療的ケア児とその家族に必要な事業が推進されています。
今後も医療的ケア児とその家族の支援が拡充し、社会全体で支援できる環境がさらに整えられることが期待されます。