介護事業部

介護事業部 ホームケア土屋

林田一美

大阪 常勤アテンダント

持ち前の明るさで、現場をやさしく照らす

 《interview 2021.11.05》

ホームケア土屋 大阪のアテンダント(介助者)として、A L Sの方の暮らしを支える林田 一美。全くの未経験から重度訪問介護の仕事をスタートさせた林田の経歴は、多くの出会いとやわらかな感性によって、他者と共に紡がれてきました。その心の対話を追って、林田が緩やかに歩む日々に並走します。

 

CHAPTER1

未経験から介護の仕事をスタート。わずか3ヶ月で正社員へ

林田が現在の仕事と出会ったのは2018年のこと。

歯科助手として働きながら、掛け持ちできる夜勤の仕事を探していたとき、ふと目に留まったのが介護の仕事でした。

林田 「夜勤の空いている時間で、なるべく近い職場を探していました。それ以外の条件はそんなに深く考えていませんでした。実際、その時間に当てはまる介護の仕事はたくさんあったのですが、(土屋の)他はご老人の方の施設が多かったです。大人数の施設よりは『じっくりやれる方がいいな』という思いもあり、重度訪問介護の仕事を選びました」

とはいえ、林田にとって、介護の仕事は全くの未経験。

林田 「重度の方と対面すること自体が初めてでした。最初に担当したのがALS(筋萎縮性側索硬化症)の方だったのですが、そのときに、ものすごく正直に言えば、『私みたいな初心者が来て助けになるんだろうか』と感じてしまったんです」

3日間の研修を受けた林田は、その研修経験のみで、さっそくクライアント(利用者)のもとへ向かうことになります。

林田 「実際は、研修で習ったことと現場の状況は個々で全く違っていて、当てはまらないことだらけでした。例え覚えていたとしても、その通りに行えばOKというわけではないんです。(クライアントの体調やご家族の状況は)日々変わっていきますし、人間なので気分やその日の体調での変化もあります。今日まではこのルールだったかもしれないけれど、5分後には変わるかもしれない。それが普通なのだということが段々わかってきました」

介護未経験の林田がまず取り組んだのは、言われたことをとにかく全て覚えること。そして「どういうふうにしたら、その方のそのときの体の状態を安定させることができるだろう」とクライアントの身体に向き合う時間を持つことでした。

林田 「ご家族の方は、私が初心者であることを理解してくださいました。介助も、不安なところは一緒にやってくださいましたし、ご本人もそのときは少し発声もできたのでいろいろ教えていただいてましたね。『心配しなくても、2、3ヶ月したら筋肉モリモリになるよー』って言っていただけたこともありました」

あたたかな出会いに支えられ、林田は現場での介助ややり取りの方法を徐々に身につけていきます。

当時、夜勤の非常勤アテンダントとして土屋で働く傍ら、日中は歯科助手の仕事を掛け持ちし、父の介護も行っていたという林田。「かなりしんどかったです」と笑いながらその頃を振りかえりますが、そんな中でも休むことなく、謙虚にクライアントと向き合う林田に、あるチャンスがやってきました。

林田 「コーディネーターの方から『正社員になったらいいのに』って声をかけていただいたんです。当時は『いいんですか?言ってもらえるんですか?』ってなって、驚きましたね。私としても子どもがいるので、土屋一本の方が体力的にも助かったんです」

仕事を始めて3ヶ月。林田は、正社員として再スタートをきることになります。

CHAPTER2

クライアントと家族の<橋渡し役>として

林田が日々かかわるALSの方とのコミュニケーションは、文字盤やパソコンを使ったやり取りがメインです。その対話には、言語だけに頼らない、感性や心をひらいて小さな声に耳を傾ける、ひとりの人間としての技術が求められます。

そんな林田がクライアントとの日々を並走していくために大切にしている「役目」があります。

林田 「ご本人に『ご家族にわかってもらいたい』という気持ちがあるんだけれども、いろんな事情があって口に出しにくい部分を私が聞きます。それを聞き出して、うまく伝えることが私の役目だと思うんです。例えば、それが『本人の意思であると知られたくない』とおっしゃられることもあるんです。そんなときはバレないように間で立ち回ります。誰か(の側)につかないように、その間に入らせてもらって代弁する。そんな役目ができたらいいなと思っています」

クライアント自身の、日々変わっていく体調。そして、家族への気持ち。

複雑な気持ちが行き交う支援の場で、林田は「橋渡し」としての役目を進んで行ってきました。

林田 「会話すること自体がしんどくなってきておられるので、文字盤を使って、長く時間がかからないようにパパっと内容を読み取るようにしています。そこに時間がかかると、ご本人が『違う』と思っても、その説明を文字盤でするのもしんどいとなってしまうことがあるからです。『こういうことで合っていますか?』と確認を取って、『伝えた方がいい』ということはご本人の確認を取ってから伝えるか伝えないかを判断する。そういった橋渡しをやっています」

そのときの体調や状況によっては、感情的な想いが吐露されることも。そんな声を受けとめるのも林田の役目です。

林田 「ご本人は、本当にしんどいからそう言っているのがわかるんです。息もしんどいし、座っていても寝ていても体がしんどいという状態なので……。どうにかしてあげたいと思うけれど、痛み止めを入れても効かない。どういうふうに解決していったらいいのか、これという正解があるわけじゃないので、みなさん模索してる状態です」

正解のない介護の現場で、林田はクライアントと家族と共に、その問いを今日も追いかけています。

CHAPTER3

仕事を、生活を、つづけていくために──できることを、できる範囲で

現在、土屋のメイン事業である「重度訪問介護」は、介助と並行して医療的ケアが行えることが特徴でもあります。そこは、命を預かる緊張感と、命に直にふれるあたたかさが共存する現場がありました。

そんな日々の仕事との向き合い方について尋ねると、林田の口からは「できることを、できる範囲で」という言葉が返ってきました。

林田 「以前、旅行会社で働いていたことがあるんです。そこで、全部をこなそうとして精神的に一杯一杯になって、家に帰ってきても何もできなくなってしまったことがありました。それはそれでやりがいのある仕事だったんですが、そういう働き方をして、仕事中にポロポロ涙が出てくるようになったんです。目一杯やって、自分の時間が空っぽみたいに感じたんですよね」

それから林田は自身に問いかけるように言いました。「死ぬ間際にそれしか思い出せないのって悲しくないですか」──

林田 「結局、そうなったら意味がないし、そういう働き方は自分は違うかなと思ったんです。だからってサボるということではないけれども、自分なりのバランスを取りたい。そうじゃないと続かないと思いました。継続するのであれば、やっぱり一定のラインで「これ以上、必要?」って(自分に)聞いてみる。必要だったらもちろんやります。でも、毎回継続できないことをやるというのは違うと思います」

そんなふうに考えるようになったのには、海外での経験も大きいといいます。20代、林田はオーストラリアに滞在し、現地の会社で働いていた時期がありました。

林田 「一緒に働いていた地元の人に『そんなちっさなことはどうでもいい』ってよく言われたんです。確かにそうやね、それは明日になったらまた考えよう。絶対、明日解決せえへんけど、と思いながら(笑)。『とりあえず今日は帰ろう』ってみんな言うんですよ。でもそれって、考え方によってはストレスが溜まらないなと思いました。別に投げ捨てるわけではないし、次の日やるって言ってるんだからいいんじゃないかな、って思えるようになりました」

仕事と、自分の時間のバランスをとって継続していくこと。緊張感の絶えない現場で、日々笑顔でクライアントの前に立つために、必要なことなのかもしれません。

CHAPTER4

一生懸命、伝えてくれる「ありがとう」と共に

そんな林田は、介護の仕事をスタートさせて、この10月で丸3年となります。今は介護福祉士の資格取得に向けて、仕事の合間を縫って勉強中の林田。

そして、担当するA L Sの方とは、お正月を家族ぐるみで過ごすなど、仕事という垣根を越えて関わるようにもなりました。

最後に、これから重度訪問介護と出会うかもしれない人へ向けて、この仕事の良いところ、大変なところとは──

林田 「精神的な支えになるときも、精神的な助言をするときもあります。必ず頼りにされていると感じるときがあるし、『ありがとう』って何回も言っていただけます。どんなにしんどくても、文字盤を読んでくれているのを見たら何もかも吹き飛びます。パソコンで打ってくださる方も、本当に一生懸命に、何回も失敗しながらやってくださる方もいるんです」

重度訪問介護は命とまっすぐ関わることができる仕事。

「だからこそ、真面目な人ほど、一人で考えて落ち込んでしまう」、林田はそういいます。

林田 「体力的、精神的に追い込まれたり、自分の生活と仕事とバランスが取りにくいときもあるかもしれません。でも、クライアントの方の行動を見て、何もかもが吹き飛ぶ瞬間が必ずあります。その瞬間があるから持ち堪えることができるっていうのは、この仕事だけじゃないですかね」

インタビューの最後、林田は大切な友人であるハリネズミを登場させてくれました。なんでも「やっぱり一番ほっこりするのは、ハリネズミを見ているとき」なのだとか──それは、日々を懸命に生きる彼女を支える大切な「自分の時間」です。

仕事と生活のバランスを、と語ったものの、今の自分もそれが課題だと笑う林田。

「私、あんまり落ち込んだことがなくて」と終始、笑顔を見せる先に感じたのは、心に素直に生きる人が持つおひさまのようなあたたかさでした。

これからもこの持ち前の明るさで、現場をやさしく照らすのでしょう。雨の日も、風の日も、そしてもちろん晴れの日も。


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