―その後、2025年10月に一般社団法人 土屋雉翔会 はれのくに在宅クリニックを開院され、土屋グループの医療領域を担っています。
ここからは入江さんの価値観というか、日々思っていることや普段考えていること等を伺いたいなと思います。医療のお仕事を続けられてきた中で、また在宅医療にも関わられてきた中で、ご自身が変わってきた部分があったら、伺いたいです。
繰り返しになりますが、医療分野で研鑽していく中では、「より良い治療法」や「病気を治す」というところに主眼を置いてきました。
でもその中で、年老いたり、障害を持つことになったり、人はいろいろと状況が変わっていきます。
その時、必ずしも“その医療がベストチョイス“というわけではないーーそういう状況になった時、価値観というのは人それぞれですので、「最後まで治療を諦めたくない」という人もいれば、「限られた時間があったとしたら、家族と過ごしたい、家で過ごしたい」ということを考える人もいる。
当然、医療を尽くしたとしてもすべての病気が治るわけではないですし、人は必ず亡くなります。
私自身もーー年齢を重ね、家族ができていく中で価値観や考え方もだんだんと変わっていきました。
外科医としてトップを目指していくことをやめたのも、家族ができたからだと思います。
―医療というお仕事や、人と関わる時に大切にしていることはどんなことですか。
なるべく相手の立場に立った医療を大事にしていますね。
基本的には本人が中心の医療を行なっていますが、隣にいる家族の気持ちも同時に考えないといけないところもあります。
この仕事を続けていく中で、価値観はそういうふうに変わっていきました。
それから、さまざまな制度についても、障害者運動についての本を読んでーー当事者の方たちが頑張られて、国と戦って、制度や行政を変えてきた歴史を学んで、「制度を変えることはできないわけではないんだ」「やり方によっては制度は変えられるんだ」ということも知りました。
そうやって、「現行の制度に縛られなくていい」という考え方に自分も変わっていったな、と思います。
―在宅で暮らす患者さんたちと関わられている中で、どんなところに嬉しさを感じられていますか。
そうですね。
今は在宅医療チームのリーダーとして、一医師として、という立場に加えて、クリニックの運営にも関わっていますので、一緒に働く仲間のことも同時に考える立場になりました。
そこは力を合わせていかないといけないな、と思います。
それとーー土屋でいうと“クライアント”という言い方ですが、医療だと患者さんっていう方が一般的なので、“患者さん”という言い方をしますねーー関わる患者さんの家族を含めて、当事者の方の生活を医療の面から支えること。
クリニックを中心に、その他の事業者の方々とうまく連携できた時はやりがいがありますし、嬉しいな、と思います。
もちろん、それが土屋グループ内でうまく連携できる時もあれば、グループ内だけでは必要な職種や人手が足りない時もあります。
それはどちらに限っているわけではなく、その時々で、クライアントや患者さんに相応しい形であれば、地域の他の事業所とも連携しますし、土屋グループ内でも連携します。
そういった形でいろんな人の力を借りて、土屋グループとしての目標に向かっていきたいですね。
スタッフや関わる方みなさんがやりがいを持てたらいいな、と思いますが、ただここは同じ方向を向いていても、価値観はそれぞれなので、結構苦労するところはあるのかな、とも思います。
―これまでインタビューの中でさまざまな職種の方からお話を伺ってきたのですがーー医療と介護、というところではなかなか交われない部分があるっていうことを伺うことも多いです。入江さんはその辺りはどんなことを思ったり、感じられていますか。
そうですね。
お互いに遠慮をしてしまって、「何を相談していいのかがわからない」ーーそういう問題もあるかもしれませんし、医師として働いていると、「遠慮されてるな」とも感じますし。
<パーソンセンタード・ケア>という当事者を尊重する認知症ケアのあり方がありますが、「介護職も医療職も、中心に当事者である患者さん/クライアントがいて、その人を支えるメンバーの一員である」ということでは、役割がちょっと違うだけで、同じ立場なので。そういった意識をお互い持てたら、壁がなくなっていくんじゃないかな、と思います。
そこは同じ土屋グループの一員として働いている、というところでは、お互いに「この人はどんな人か」がわかりやすいですよね。
特にホームケア土屋の事業である重度訪問介護については、喀痰吸引といった医療的ケアがあるので、アテンダントのみなさんが携わられているケアの内容自体が医療に近いことですし、クライアントの見守りの時間があったり、と長時間の在宅介護になるので、在宅医療の診療の時間と重なることも多いですから。
それもあって、重度訪問介護や医療的ケアに携わっている方との壁は低い方なんじゃないかな、とは思っています。
「そういった共通点から、お互いに良い関係が築けたらいいな」と僕自身は思ってますね。
ただ一方で、実際にそう思っている医師はひと握りだとも思います。
だからこそ、ここを皮切りに連携や関係性を積み上げていくことが大切なわけですがーーそういった医療・介護チーム内での声のあげづらさに関しては、構造上の問題もあるので、それを解消するために、はれのくに在宅クリニックでは<メディカルケアステーション>という情報連携ツールを使っています。
場合によっては家族の方にも入ってもらったり、介護職の方にも入ってもらって、誰もが気軽に声をあげられるような工夫をしてます。
うまくいってるチームもあれば、関係を積み上げていくことが難しい方もいらっしゃるーーという例もありますが、こればっかりはコツコツやっていくしかないですからね。
―<メディカルケアステーション>というのは、どんなシステムというか、場所なんですか?
情報共有ツールで、例えて言うなら、グループラインみたいな感じです。
患者さんごとのスレッドがあり、それぞれに異なったメンバーのグループがあって、ひとりの患者さんに関係している事業所に入ってもらってます。
例えば、薬剤師さんが薬を持って訪問する時は、医師から「この薬が少なくなってるから、次回出してください」「副作用が起きている/起きてない」といった内容を伝えたり、「訪問看護さんがこんな工夫をしてます」とか、福祉用具の方が「手すりを買いました」とか、デイサービスの方がその時の状況を共有してくれたり。
他にも、栄養士さん、歯科医師といった多職種の方が入ってくれてますね。
そういったさまざまな職種の方が一堂に入れるツールというのは、他にはほぼないので。
そういったいわゆる“その人のその日の状況や情報の共有”と併せて、もう少し深いところの相談があることもあります。
患者さん本人がご判断ができる状況だったり、家族が遠方の方だったりする場合には、本人やご家族が入ってるグループもあれば、入っていないグループもあります。
それから、患者さんのこどもや、親に入ってもらうこともあります。新しいクリニックなので、そういったICT(情報通信技術)を使った連携に関しては、積極的に取り入れていますね。