18年勤めた有料老人ホームを退職後、別の有料老人ホームのオープニングスタッフとして勤務した岩渕。3年が経とうとした時、職場で足を滑らせ、腰椎を骨折。長期休暇を余儀なくされてしまいます。そんな時……
岩渕「自分でも不思議ですね。突然のことだったので――。ご縁があって、高濱将之さんからお声かけいただきまして。土屋グループの子会社である東京のグループホームのがわで勤務することになったんです。
でも、その矢先に――『土屋で大阪のノーマルライフという事業所を子会社にする救済型M&Aを進めている。岩渕、そこで働いてみないか』と言われました。
その話を聞いて、『どうしようかな』と思いました。妻と夜中ずっと話をしたんですが、朝になって、最後は妻から『なんでこんなに話すの?』と言われて。『相談するってことは、もう最初から行くつもりなんでしょう』と。
当時の自分には何も捨てるものがなかった。それでやっと自分の気持ちに気がつきました。それから『もし自分が働ける場所があるのであれば、その場所で頑張ります』という返答を、将之さんにした覚えがあります。
そうは言っても、急に『大阪に行ってみないか』なんてね。最初に出会った頃のイメージがよみがえってきましたよね(最初の印象は強面で『話しかけるんじゃねえぞ』的なオーラを出していた(笑))。と同時に、今回こそ本当に『騙されてるんじゃないか、どこかに拉致されるんじゃないか』と思いましたよ、正直なところ(笑)。
でも、その後、将之さんと一緒に大阪に行き、ノーマルライフに着いた時にやっと『あ、これは現実なんだな』と(笑)。今から考えれば大変失礼な話なんですけどもね。それが2022年12月の暮れの話です。
現在は、有限会社ノーマルライフの、デイサービス生き活き(地域密着型通所介護)とグループホームおてんとさん(認知症対応型共同生活介護)の管理者をしています。業務としては、職員のマネジメント、収支の管理や営業活動、行政や外部、地域との連携、あとは新規ご利用者の開拓を主にやっていますね。
それまではずっと施設の建物の中で仕事をしてきましたから、外に出て営業活動をすることも、名刺交換することも全く初めてで――。前社長の前田正道さんからもアドバイスをいただいたり、杉さん(杉隆司;現・有限会社ノーマルライフ取締役 兼 執行役員 兼 顧客創造部長)の営業の力を借りながら、営業をスタートしました。
最初はめちゃくちゃ怖かったですよ。私の中に武器が何にもなくて、『何を話したらいいんだろう』って。あるとしても介護の経験が長いことぐらいで、何を話したらいいのか、どうしたら営業につながるのか……さっぱりわかりませんでした。
営業の仕事は『朝出たら、夜まで帰ってこないくらいハードなんだろう』なんて思っていたところもありました。でも杉さんからは『そんなことはないんだよ』と。
『一日、朝から晩まで回っていたら身が持たない。一軒営業行ったら、コーヒータイムだ。そうやってひと休みして、また新しいところへ行けばいいんだよ』『FAX送付や電話一本でも立派な営業活動になるんだよ』なんて言ってもらえて、気持ちがすごく楽になりましたね。そうやって営業を続けていくうちに――自分の中に、武器があったことに気がついたんです。
それは何かというと、認知症の知識を踏まえた会話や介護の現場経験でした。ある入居者さんがデイサービスでどんなふうに過ごしているか、その方の行動が認知症のどこから来ているのか。
『この人はこんなところがあって……』なんて話をすると、営業に行った先でケアマネージャーさんが耳を傾けてくださったんです。自分に認知症介護の知識や経験があることが、ケアマネージャーさんには伝わって自然と営業につながっていったんです」