《interview 2022.06.01》
重度の障害を持つ方の訪問介護サービスを全国展開するホームケア土屋。札幌事業所でアテンダントとして活躍する澁谷(しぶたに) 舞衣子は、幾つもの業種を経たのち、介護の仕事と出会います。介護の現場で、日々対話を重ねる彼女の<他者への好奇心>は今も尽きることがありません。そんな澁谷の笑顔の源に迫ります。
介護事業部 ホームケア土屋
札幌 アテンダント
介護事業部 ホームケア土屋
札幌 アテンダント
重度の障害を持つ方の訪問介護サービスを全国展開するホームケア土屋。札幌事業所でアテンダントとして活躍する澁谷(しぶたに) 舞衣子は、幾つもの業種を経たのち、介護の仕事と出会います。介護の現場で、日々対話を重ねる彼女の<他者への好奇心>は今も尽きることがありません。そんな澁谷の笑顔の源に迫ります。
CHAPTER1
北海道で生まれ育ち、おてんばな幼少期を過ごしたと言う澁谷。
現在の溌剌とした話し方とあふれる笑顔からは想像もつきませんが、当時は、家族の後ろに隠れるような人見知りの一面があったと言います。
澁谷 「父親の転勤で道内を転々としたのですが、いろんなところに行くようになってその度に友達ができなかったのが悔しくって。小学校のグループ分けの時に、私だけ一人でポツンといるのが耐えられなかったですね。そこで明るくならないと、と思って変わりました」
「もともと人と話すのが好きだった」と語る彼女。その頃すでに“こんな仕事がしたい”という想いを持っていました。
澁谷 「私は祖父のことがすごい好きだったんです。その祖父が糖尿病で、片目が見えなくなってしまって。なんで病気になっちゃったんだろう?食べられるものと食べられないものがあるってどういうこと?と考えていた時に『栄養士という仕事があって、栄養管理をすればおじいちゃんも長生きできるんだよ』と小学校の先生に教えてもらいました。それで栄養士になりたいな、と思ったんです」
「本当は看護師になりたかったのですが、成績が足りなくて」と笑う澁谷。短大で栄養学を学び、20歳で念願の病院栄養士になります。しかし、病院での勤務が合わず、半年ほどで退職。
その後に出会った大手レストランチェーンの仕事は「積極的にコミュニケーションを取れるのが自分の強み」と話す澁谷の気質にぴったりはまったそう。店長を目指してキッチンやホールを担当するなど、そこで12年の歳月を過ごします。
澁谷 「それから商品を売り込む仕事がしたくなって、保険の営業を3年ほどやっていたこともありました。
ただ、営業は頑張ったら頑張っただけ成績は上がるんですけれど、その分ノルマも大きくなってくる。数字のために売り込むっていうスタンスが途中で苦しくなってきちゃって。『私、本当にこの人のために保険を売ってるのかな?』と思ったら、仕事に対する意欲も低下してしまったんです」
「一回リセットしないと」と感じ、2017年、再び飲食店へ転職。
自身の体感に素直に仕事を選んできた澁谷。大手定食チェーン店のキッチン・ホールに戻った彼女には「一つ、自慢があるんです」と語るエピソードがありました。
澁谷 「その定食店ではお客さんからの名指しアンケートというものがあって。そこで1位を取ったことがあるんです。2年連続で1位を取りました!」
澁谷に届けられたのは「笑顔がいい」「元気がいい!」という声。そして今も大切にしている「細やかな気配り」に触れてくれたお客さんもいたと言います。
定食店で店長を目指し奮闘していた澁谷でしたが、2020年春のコロナ禍により退職を余儀なくされます。
CHAPTER2
そして澁谷が出会ったのが、重度訪問介護(重訪)でした。
退職後に向かったハローワークの相談員から「向いてると思いますよ」と紹介されたのがきっかけだったと言います。
澁谷 「その時、私が持っていた介護のイメージって祖父の家に来ていたヘルパーの方だったんです。ご飯の支度をして、掃除して帰る。それだったらできるんじゃないか、と最初は思っていました(笑)。
でも『重度訪問介護です』と言われた時に、そのイメージと業務内容が全く違っていて。私は介護のド素人だったんですが、重訪という仕事を知って、すごいなと思いましたね。1アテンダントでも医療的ケアができたり、障害を持つ方と関われるんだ、って」
ALSや筋ジストロフィーなど、重度の障害を持つクライアントの中には、喀痰吸引や経管栄養等の医療的ケアが必要な方もいます。重訪のアテンダントは、特定の研修を修了したのち、そのケアを行うことができます。
「できるかどうか不安だったけど、やってみたいという気持ちの方が強かった」。彼女を動かしたのは、人と関わる仕事への、そして他者への好奇心。
小学生の頃、祖父の体を思い、看護師に憧れた澁谷はひと巡り、ふた巡りののち、命にふれる仕事に就きます。
澁谷 「面接の際に、未経験でもいいんですか、と聞いたら、『私たち、1から教えるので大丈夫です!』と言ってもらえました。働きながら資格を取れるとも聞いて、『経験がなくても飛び込める会社なんだな、自分の働き方に合ってるのかな』と思えてすぐに入社を決めましたね」
2020年8月、重訪の世界に足を踏み入れた彼女は、そこで初めて障害を持つ人と出会います。
澁谷 「障害と言ってもさまざまでした。生まれた時から障害を持っている方もいれば、病気や事故で、人生の途中で障害を持つ方もいることを知って。いや、知って……。というか、いるのは知っていたんですけれど、実際に関わったことがなかったので、どんな方なんだろうと思っていたんです。『関わりたいな』『役に立ちたいな』っていう想いが強くありました」
そして、現在に至る日々の中で、あたりまえのことに気づいたという澁谷。
澁谷 「障害を持っている方も、年上の方も年下の方も皆さん、自分とは違う経験をしてる。それぞれに人生の経験をされてきていて、自分の考えを持ってる。自分との違いは、ただ障害を持ってるか、持ってないだけなんだな、って感じたんです」
CHAPTER3
未経験で介護業界に飛び込んだ澁谷にとっては、現場で起こる何もかもが初めてのことでした。
澁谷「とにかく体力を使う仕事なんだな、と思いました。最初は、移乗介助──車椅子からベッドやトイレに移動したり──が大変でした。横抱きをしてトイレに行く方がいらっしゃって。人を持ち上げるのが初めてだったので、すごく不安だったんです。
でも、どうしたらいいのかわからないことがあったら、すぐにコーディネーターに相談しました。アドバイスも求めましたし、クライアントのご家族にも相談しました」
どんな相談を持ちかけても、札幌事業所のスタッフはとにかく親身になって話を聞いてくれた──澁谷はそう振り返ります。
澁谷 「実はこういうことができないんです、と言ったら『自分もそうだったんだよね』ってたくさんアドバイスをくれました。仕事を始めたばかりの頃って、目の前のことに必死で、ネガティブなことしか考えられないんですよ。でも、自分は何ができているのかを先輩から教えてもらえると『じゃあ、次はこうしよう』と考えられるようになるんです」
そんな彼女が現場で大切にしてきたのは、やはり「コミュニケーション」。
澁谷「一番最初の『初めまして』も『おはようございます』もそうだし、挨拶はきちんとして。その時の第一印象、クライアントの体調や雰囲気をきちんと読み取ろうと気をつけてきました。
そうして一生懸命、日々通って、積極的にコミュニケーションを取るようにして。そしたら徐々になんですけど、クライアントと信頼関係が築けて感謝の言葉を言ってくださるようになって。その時はやってよかったなぁと思いました」
常に目の前にいる人への気配りをし、丁寧に関係性を築いてきた澁谷。そこには彼女の心の広さが関係あるようです。
澁谷 「人対人のお仕事なので、当たり前ですけれど相性ってあるんです。でも私は今まで一度も『合わないな』と思った人がいなくて。何か違和感を感じても、私に何かを求めているんだろうな、それを読み取ってあげたいな、って思っちゃうんです」
CHAPTER4
澁谷は今、長年関わってきた飲食業の経験から、介護という仕事の「ホスピタリティー」について考えていると言います。
澁谷 「以前、クライアントの方に『介護のホスピタリティーってなんだと思いますか』って聞いたことがあるんです。その方は『心配りじゃない?』と。まず相手の気持ちを理解することが大事だ、と教えてくれました。あとは、目配り。要はその方の状態を観察する力ですね。なおかつ、相手に関心を持つこともすごく大事だな、って」
ひとりの人が生きてきた時間と空間に足を踏み入れる重訪のかたち。これまで彼女が培ってきた視線は、介護の現場で日々、塗り替えられているようです。
澁谷 「飲食店はいろんな方と接することができるけど、常に人が入れ替わる。重訪は一対一で、常に一緒にいる。そういう環境で働いてきて、ひとりのクライアントの何を見つけてあげたら喜んでもらえるのかな、っていう目を養えたんじゃないかな」
アテンダント2年目。澁谷にとって、この仕事の魅力はどんなところにあるのでしょうか。
澁谷 「まず、ダイレクトに『人の役に立ってる!』っていう実感がありますね。例えば、口を拭いてあげると『ありがとう』と感謝の言葉を言ってもらえる。やっぱり、ありがとうって言われてイヤな人はいないじゃないですか。この仕事やっててよかった、なおかつ、その人の役に立って嬉しいな、って思えるのが嬉しい」
澁谷は、介護という業種を通して新たな価値観と出会いました。
澁谷 「もし、介護に興味がある、という方がいたら『ぜひやってみてください!』って自信を持って言えます、私は。自分がそうだったので。
介護ってネガティブなイメージがあると思うんです。でも多くのやりがいを得られるし、想像以上に奥深い仕事だから、極めがいがある。土屋では、色々資格も取れれば、キャリアアップもできるので、メリットもいっぱいあるお仕事なんだよ、と伝えたいです」
つい先日、介護福祉士への最初のステップである実務者研修を修了したという澁谷。
澁谷 「今は、アテンダントとして実践的な経験をどんどん積みたいなって思います。現場に入って、一つひとつ丁寧に習得していきたい。
今後は、管理者としての仕事にも興味があります。コーディネーターと話していると、どの方も皆さん『大変だけど、やってよかったよ』って仰るんですよ」
目の前のこの人は今、何を思っているのだろう。
子どものようなまっさらな目で、好奇心を胸に、アテンダントたちは日々、介護の現場でこう問いかけています。
他者に向けて想像力を働かせ、対話の先にある喜びを笑顔で受け取ることができるのが、この仕事の何よりの魅力。
他者と自分の人生が重なる場所で「生きる」を共にする。澁谷は、重度訪問介護の現場で日々、そんな笑顔をつくり出しています。