知的障害を持つ人の家族介護は難しい?どのような部分が大変に感じるのか

家族や親族が、身近な人間の介護を行う「家族介護」。

家族介護は距離が近いが故に苦労することも多く、特に知的障害を持つ方を介護する場合はトラブルも生じやすいため「難しい」「大変」「つらい」という声も目立ちます。

今回は、知的障害者の家族介護のどういった部分が難しいかについて、そのポイントや理由を解説します。家族に知的障害者がいる方、介護を任されることになった方等はぜひご参考ください。

目次

知的障害とは

「知的障害(精神遅滞)」とは、発達期(幼少期から青年期)に生じる知的発達の障害です。大人になっても基礎的な障害そのものを改善することは難しく、症状は継続するのが一般的です(ただし訓練などによって適応力を高めることは可能)。

知的障害者には、具体的に以下のような症状がみられます。

分類症状
概念的領域記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、臨機応変な対応力などが乏しい。
社会的領域コミュニケーション力、感情の管理、他者の気持ちや考えを読み取る力、人間関係を築く力などが乏しい。
実用的領域行動の自己管理、金銭の管理、課題や仕事の管理などが上手く行えない。

知的障害だからといって一律に症状が同じなわけでなく「重症度」によっても症状は変わります。

重症度は「軽度」「中等度」「重度」「最重度」の4つに区分され、「軽度」であれば自分自身の力で日常生活をおくり、仕事をする人も少なくありません。一方で「重度」以上になると、買い物や散歩など日常的な行動ですら介護が必要になることがあります。

知的障害者の高齢化と家族介護の現状

従来は短命とされた知的障害者ですが、近年は寿命が延び、中年期・高齢期を迎える知的障害者の数も増えています。

またこれまでの時代は「親によるケアが難しくなれば親の手を離れて施設に入所する」という図式が、知的障害者に対してのケアや介護のイメージでした。

しかし近年は「入所施設から地域生活へ」という地域生活移行が進み、在宅での家族介護という考え方が普及しつつあるのが現状です。

知的障害者を家族介護をする上で難しいポイント4つ

知的障害者の介護は、健常者の介護に比べ「難しい」「大変」といわれることがあります。ここではどういった点に難しさを感じるのかについて、ポイントや理由を解説します。

コミュニケーションがとれない

知的障害者の中には対人コミュニケーションが上手くとれない方も少なくありません。

会話を試みたり、お願いをしても、話を聞いてくれなかったり、もしくは会話そのものを理解できないこともあります。相手の感情を理解することが困難な方もおり、真剣に話をしていても予想もしないような反応が返ってくることもあります。

介護は人と人とのやり取りでもあるため、介護する相手がコミュニケーションに応えてくれない日々が続くと、介護する側の精神的負担が大きくなりやすいのです。

こうしたことは一般的な高齢者介護でもあることですが、知的障害者や認知症患者ではより身近な課題となります。

目が離せない

知的障害者の中には、時に危険な行動を起こす方もいます。具体的には以下のような行動です。

  • 感情のコントロールが上手くできず暴言を吐く
  • いたずらや暴力を振う
  • 延々と紙やチラシを切り続けるなどの異常行動をとる
  • 周囲の物を叩いたり蹴ったりして破損させる
  • 自傷行為をする  など

特に「強度行動障害」を抱えている知的障害者の場合、こうした危険な行動を起こすことが多いとされています。「少し目を離していたら物が壊され滅茶苦茶になっていた」というようなケースもあり、目が離せない存在であることも、知的障害者を介護する上での難しく大変なポイントです。

加齢による課題

前述もしたように、知的障害者の寿命が延び高齢化が進んでいます。加えて人間というものは、健常者・障害者問わず、加齢とともに知的(認知)能力や身体機能が低下するものです。

そのため、当初は介護がほとんど必要でなかった知的障害者であっても、加齢により本格的な介護が必要になるケースがあります。もちろん知的障害者の中には若いうちから多くの介護が必要になる方もおり、そうした方が歳を重ねるとより介護が大変になってしまうケースもあります。

また、仮に加齢により身体機能が衰え「入浴介助」や「排泄介助」が新たに必要になった場合、健常者であればその状況を理解し、介護を素直に受け入れてくれる方も多いでしょう。

しかし障害者の場合は介護行為そのものが理解できず、入浴や排泄を手伝おうとすれば、反発をしたりパニックになったりしてしまうこともあり得るのです。

発達障害との併発による問題

知的障害者の中には「ADHD(注意欠如・多動症)」や「自閉スペクトラム症(ASD)」といった発達障害を併発している方も少なくありません。

ADHDを発症していると、注意力散漫や思いつきで行動するような症状が出ることがあります。自閉スペクトラム症では、特定の行動に強いこだわりを持ち、考えを変えられないことなどの症状がみられます。

こうした発達障害を併発していると、余計に目が離せず、注意して見守らなければならないため、家族の負担もより大きくなることが予想されます。

家族介護は精神的な負担が大きくストレスを貯めやすい

住み慣れた自宅で親しい家族から介護を受けることができる「家族介護」は、知的障害者が健やかに生きる上でプラスとなる側面もあります。家族介護がきっかけで家族同士の絆が深まることもあるでしょう。

しかし良いことばかりではありません。家族介護は常に介護する相手に寄り添い、そばで同じ時間を過ごすことになるため、介護する側に精神的な負荷が掛かりやすいです。

特に知的障害者の場合、言うことを聞いてくれないことや反発されることも少なくないため、それが積み重なるとストレスとなり「介護疲れ」や「介護うつ」のような状態に陥ってしまうこともあります。

辛い場合は早めにSOSを

「身内のことだから」と一人で抱え込み、無理に頑張り、介護する側が潰れてしまっては元も子ありません。

状況によってはデイサービスやショートステイ、グループホームなどを組み合わせたほうが良いケースもありますので、一人で悩まず早めにSOSを出し相談することも大切です。

知的障害者や高齢者の介護に関する相談先としては、以下が挙げられます。

  • 地域包括支援センター
  • 市区町村の窓口(介護保険課や介護福祉課など)
  • 社会福祉協議会
  • 福祉事務所  など

障害の症状が重く、「障害程度区分」や「要介護度」が高い方の場合、幅広い障害福祉サービスや介護保険サービスが利用できるようになります。現状が辛い場合は、どういったサービスを活用すべきかも含め、専門の窓口に相談してみることが大切です。

現状で一番よい方法を探すことが大切

家族介護には良い点もありますが、難しく悩まされる部分も多々あります。

また介護を行う家族もいずれ歳をとりますし、生活を取り巻く環境というのもその時々で変わっていくものです。最初は家族介護を上手く行えていたけれど、年月が経つにつれだんだんと難しくなっていくケースもあるでしょう。

知的障害者の家族介護は毎日続いていくものですので、気力だけで乗り越えようとするのはあまりよくありません。難しく辛いと感じた場合にはSOSを出して相談し、本当によい方法はなにかを見つけていきましょう。

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この記事を書いた人

介護業界で働かれる方や、介護サービスを利用されている方、これから利用を考えている方などへ向けて、介護保険、障害福祉サービス、社会的背景などの制度情報や役に立つ情報を定期的に発信しています。

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