講師として、これから介護現場へ向かう人たちへ、日々、言葉を届ける香山。そんな彼女の心には、ある人の姿があると言います。
香山「28歳から11年間勤務した助産院の先生なんです。私は看護師として、誕生から老いていく人までさまざまな方と関わってきたんですが、その先生は、お一人で助産院をされていて、『24時間働いて、いつ寝てるんだろう』と思うくらい、元気玉の名物先生だったんですね。
地域でも有名な方で、講演会にもよく呼ばれていて、お忙しい中でも人前で講話をされていました。ある時、講演の前に、本を読んだり、勉強されたり、事前の準備をものすごくされてる姿がちらっと見えたんです。その時、『だから、この先生の話は奥が深いんだ』――っていう根拠と、そのベースがあるからこそ話ができるんだということを知って。人前に立ってお話する人の自己研鑽の必要性を感じました。
今、私自身も講師として仕事をする上で、まずは自らが学ぶこと。それから人に伝えるための言葉選び。ここをしっかり準備していないと、人の心には届かないことをその先生から教わったような気がしています。
言葉を大切に扱うというのは、日本人の大好きな『言霊』にも通じます。例えば病院で、患者さんが痛みを感じている時。実際、痛みは治療で治ってはいくんですけれども、『痛いこと』に対して言葉かけをすることで、痛みが和らいでいくこともあるんです。どんな風に言葉をかけたら、この方はちょっと頑張れるかなとか、そんなことを想像しながら言葉を選んでいましたね。本当に言葉っていうのは魔法だなと思っています」
「あなたが大切にしてるものを、大切にしながら介護職になって欲しい」。そう語る香山自身に、大切にしていることを尋ねました。
香山「私の人生の最大のテーマは、本当にベタなんですが(笑)、愛だと思っています。
その中でも、大切にして欲しいのは自己愛なんです。自己愛というと、あまり聞こえが良くない言い方なんですが、私は『自分自身への愛情』というものはとても大事だと思っています。それこそ私が今、講師という道を選択をしたのも『自分の思いを大切にすること』から始まっているんですね。
今、本当に楽しくお仕事をさせてもらっているんですが、自分を信じて、自分の心に素直になって、自分を大切にすること。これって今の時代に本当に大事なことなんだと思います。まず、自分を愛する。そこから家族に対する愛情や、患者さんへの愛情だとか、ご利用者さんへの愛情に枝分かれしていくーーそんなふうに思うんです」
活き活きと仕事に熱中し、夢中になれるものを追いかけ続ける香山。今、夢中になっているものはなんですか?
香山「私は年齢を重ねて、ますますインドア派になってしまって(笑)。今、仕事の次に熱中していることが、学生時代にしてこなかった歴史の学び直しなんです。
日本史が面白くて、特に戦国から幕末にかけて明治維新辺りの歴史が、非常に今の仕事の考え方にも通じてる部分があるんですね。それぞれの戦国武将の考え方や戦略、その時代に翻弄されながら武士を支えていく女性の生き方。戦いなので、どうやったら勝てるか。その時代の考え方や策略を本で読んだり、調べ直しをしています。問題の解決策を探るために勉強しているわけではないんですが、『日本って、昔こうだったんだ』という過去の中に、今の時代の問題解決のヒントがいっぱいある。
私はいわゆる強い女性、中でも天璋院さん(篤姫さん)と井伊直虎さん、この二人の『どう立ち振る舞ったらみんなを守れるか、切り抜けられるか』という考え方が好きですね。
去年、鹿児島に旅行をしたんですが、歴史探訪をしてきて、篤姫さんの銅像にも触ってきました(笑)」
過去から学び、目に見えない時代に想像を巡らせながら、今を生きる香山。
活き活きと過ごす秘訣をこう語ります。
香山「自分にとっての心地よさを選択して、行動すること。私の得意とする行動ですね(笑)。自分が嫌だと思うものにはあまり手を出さずに、『これやっていて楽しいな』っていうことをしたり、場所にいったり。できないからやってみたいし、できないこともたくさんあるんですが、できる限り自分の感覚を信じるということです」
そんな香山に、これからやってみたいことを尋ねると「したいことは……執筆です(笑)」という応えが。もしかして、自叙伝ですか?
香山「いえいえ、自叙伝ではなくて(笑)。例えば『幕末の女子たちが、時代を越えてお茶会をしたらどんな風になるんだろう』――そんなファンタジーを描きたいんです。『篤姫さん、実はあの時ね……』なんて、井伊直虎さんが、隣にいる篤姫さんに打ち明け話をするとか(笑)。そういうファンタジーが描けたら、すっごく楽しいなぁと想像しています」