在宅で介護を行っていると、介護を行う側の配偶者や子供などが「家族ストレス」を溜めてしまうことがあります。ストレスでうつ病などを患い、介護を行う側が潰れてしまうケースも少なくありません。
こうした家族ストレスは、どの程度の人が感じており、何が原因で生じているのでしょう。今回は、介護による家族ストレスの実情について、各種データを交えながら解説します。
家族ストレスを感じている人は多い
在宅介護では、日々、要介護者と密接に関わることになるため、ストレスを溜めてしまう方が多いです。
厚生労働省「国民生活基礎調査の概況(2016年)」によれば、同居して介護を行う人の日常生活での悩みやストレスの有無について、「ある」が68.9%、「ない」が26.8%という回答結果となり、過半数以上が介護でのストレスを感じていることがわかります。
全国国民健康保険診療施設協議会「家族介護を円滑に行うために」でも、「介護することでストレスはあったか?」という問いに対し、「ストレスがあり解消策があった」が69.8%、「ストレスがあったが解消策はなかった」が12.2%という回答結果であり、反対に「ストレスはなかった」はわずか12.5%にすぎませんでした。
在宅介護を行ってまったくストレスを感じない人のほうが少数派であり、また、中心となって介護を行っている人、要介護度の高い人を介護している人ほど、ストレスは大きくなる傾向が見られます。
ストレスの原因は?
在宅介護における家族ストレスは、何が原因となり生じているのでしょう。ここでは各種調査データを交え、家族ストレスの原因について解説します。
厚生労働省の調査
厚生労働省「国民生活基礎調査の概況(2016年)」では、同居して介護を行う人のストレスの原因の割合について、以下のように集計されています(複数回答可)。
ストレスの原因 | 男性の割合 | 女性の割合 |
---|---|---|
家族の病気や介護 | 73.6% | 76.8% |
自分の病気や介護 | 33.0% | 27.1% |
収入・家計・借金等 | 23.9% | 18.7% |
家族との人間関係 | 12.1% | 22.4% |
自由にできる時間がない | 14.9% | 20.6% |
自分の仕事 | 19.6% | 13.0% |
家事 | 8.1% | 7.7% |
住まいや生活環境 | 6.3% | 7.1% |
家族以外との人間関係 | 6.0% | 6.6% |
生きがいに関すること | 6.8% | 5.9% |
特に大きなストレスとなっているのは「家族の病気や介護」「自分の病気や介護」「収入・家計・借金等」であり、男女とも回答割合が高くなっています。女性の場合は「家族との人間関係」の割合が高いのも特徴的です。
内閣府の調査
内閣府が2013年に行った「介護ロボットに関する特別世論調査」の中で「介護で苦労したこと」における世論調査を行っており、以下が回答結果となります(複数回答可)。
苦労したこと | 回答割合 |
---|---|
排泄(排泄時の付き添いやおむつの交換) | 62.5% |
入浴(入浴時の付き添いや身体の洗浄) | 58.3% |
食事(食事の準備、食事の介助) | 49.1% |
移乗(車いすからベッド・便器・浴槽・椅子 への移乗動作の介助) | 48.3% |
起居(寝返りやベッド・椅子からの立ち上がり動作の介助) | 47.7% |
移動(屋内を歩いて移動する動作の介助) | 37.8% |
認知症ケア(認知症の症状への対応) | 28.9% |
見守り(徘徊防止や夜間転倒防止の見守り) | 28.2% |
外出(買い物などの付き添い) | 19.4% |
リハビリ訓練(体力アップを目的とした歩行 などの訓練の付き添い) | 16.1% |
「排泄」や「入浴」に苦労している人の割合が高く、特に介護する相手が実の親や異性の親(息子なら母、娘なら父)となるとストレスがより大きくなることがあります。「移乗」「起居」「移動」の割合も高く、こうした介護行為は体力も使うため、特に体格面で不利となる女性が毎日行うとなるとストレスとなることがあります。
民間の調査
医療法人社団風林会「リゼクリニック」は、介護経験者を対象に「介護で大変なこと」に関するアンケートを行っています。「介護をする(した)際に大変だと感じたことは何ですか?(複数回答)」という問に対しての回答を、割合の高い順にランキング化すると、以下のようになります。
1位:相手とのコミュニケーション・・・ 51.7%
2位:排泄の介助・・・ 46.1%
3位:精神面・・・ 42.7%
4位:時間面・・・ 41.4%
5位:食事の介助・・・ 38.4%
6位:入浴の介助・・・ 32.8%
7位:経済面・・・ 29.7%
8位:徘徊・・・ 16.8%
9位:身だしなみのケア ・・・ 14.7%
10位:とくにない・・・ 6.9%
出典:リゼクリニック「介護で大変なこと」のアンケートより
このアンケートでは、1位は「相手とのコミュニケーション」となっており、ストレスの根本にはコミュニケーションの問題が関わっているのかもしれません。
2位は「排泄の介助」となり、前述した内閣府の調査と同様、排泄に関連する作業が大変だと感じている人が多いことがこちらのアンケートからもわかります。
また、4位の「時間面」、7位の「経済面」のように、自分の時間が奪われたり、介護での出費が重なり経済的に逼迫することが大変だと感じている方も多いようです。
家族ストレスへの対処法
介護によって家族ストレスを感じている場合、そのまま溜め込んでいるのは良いことではありません。ここでは家族ストレスへの対処法やストレスとの向き合い方についてお話します。
周囲に協力してもらう
介護によるストレスは、一人で介護をしている人や抱え込んでしまうタイプの人のほうが大きくなりやすい傾向があります。
介護が負担となっている場合、まずは兄弟、子供、親戚など、近い人間に相談し、協力を仰ぐことが大切です。作業を分担し手伝ってくれる相手がいればストレスは減りやすいです。また、単に悩みを吐き出し相談に乗ってもらうだけでも心が軽くなることもあります。
家族に話しにくい場合は、かかりつけの医師、ケアマネジャー、ヘルパーさん、介護の悩みに関するSNSコミュニティ等で、悩みを打ち明けてみるのも一つの解決法です。
休息をすることも大切
ゆったりと過ごせる時間を作り「休息」をとることで、精神的、肉体的なストレスが解消されることがあります。
休息を取る暇もないという場合は、デイサービスやショートステイを活用し、介護施設側に一時的に介護を任せることも一つの解決方法です。デイサービスやショートステイは介護をする側の「レスパイトケア」を目的としたサービスでもあるため、自分が休息を得る時間を作るために利用してもなんら問題はありません。
何かに打ち込む
趣味、遊び、仕事、ボランティアなど、介護以外のことに打ち込み頭を切り替えることも一つのストレス解消法となります。全国国民健康保険診療施設協議会「家族介護を円滑に行うために」内の「ストレスの解消の仕方」をみても、「趣味や遊びで気分展開することで解消した」「仕事をすることで気分展開することで解消した」と回答している人は意外なほど多いです。
介護や日々の生活の活力の素となるような趣味などを見つけられれば、心のバランスがとれ、ストレスとも上手く向き合っていけるようになるかもしれません。
地域包括支援センターに相談する
「地域包括支援センター」は、高齢者の健康面や生活全般の相談、保健医療・介護に関する相談等のサービスを無償で提供している、地域に密着した総合相談窓口です。
介護に関する日常的な悩みから、金銭的な面の悩みまで、その道の専門家が幅広く対応してくれますので、ストレスを抱えていたり、自分でどうすればよいかわからない場合は、地域包括支援センターを利用してみましょう。
全ての市町村に地域包括支援センターは設置されており、厚生労働省の公式サイトで調べられます(※リンク先の「全国の地域包括支援センターの一覧」が該当)。
ストレスを感じている場合はSOSを出そう
以上、介護による家族ストレスについて解説しました。
在宅介護はストレスが溜まりやすいものであり、知らず知らずのうちにストレスが蓄積され、心身共に疲れ切ってしまっていることもあります。溜まったストレスを自力で解消できれば良いですが、そう簡単には解消できないこともあります。
無理に自力で解決しようとするとかえって自分を追いつめてしまうこともあるため、「疲れたな」「辛いな」と感じている場合は、一人で抱え込むのではなく、早めに周りにSOSをだし他者の協力を仰ぐことも大切です。