介護に関連するワードとして「認認介護(にんにんかいご)」という言葉が浸透してきています。この認認介護についてどこまでご存知でしょうか。また、認認介護は何が原因で増加しており、何が問題となってくるのでしょう。
認認介護を取り巻く環境は複雑ではありますが、今回は現状をわかりやすく簡単に解説します。認認介護について理解を深めたい方はぜひご覧ください。
認認介護とは簡単にいうと何?
「認認介護」とは、簡単にいえば、認知症の人の介護を認知症の人が行っている状態を指します。
たとえば80代の夫が認知症を発症しており、夫の介護を行っている80代の妻も認知症を発症している場合、認認介護として扱われます。
夫婦だけでなく親子のパターンもあり、90代の親の介護を70代の子供が行っており、両方が認知症を発症していると認認介護に該当します。どちらも認知症を発症しやすい年代であり、こうした高齢となった親子間での認認介護ケースも増えてきています。
両方が発症していること
認認介護を区分する上でポイントとなるのは、介護を受ける側・する側の「両方」が認知症を発症しているという点です。症状の大小にかかわらず、両方が認知症状態であれば、認認介護として扱われます。片方だけが認知症を発症している状況であれば認認介護には該当しません。
認知症とは?
「認知症」とは、さまざまな脳の病気により、脳の神経細胞の働きが低下し、認知機能(記憶、判断力など)に問題が生じている状態を指します。初期は物忘れや置き忘れなどから始まり、症状が進むと家族を他人のように認識してしまったり、時間や場所がわからなくなることもあります。
認知症はあくまで脳の病気であり、手足などの身体機能は健在であることが多いです。そのため身体は問題なく動くことから、認知症を患っていても、同じ認知症の夫や妻(もしくは両親)の介護をしようとする人は一定数おります。また、認知症は診断を受けないと本人では自覚できないことがあり、知らず知らずのうちに認認介護状態となっている家庭も少なくありません。
11組に1組が認認介護の可能性
現状、どの程度の家庭が認認介護の状態となっているのでしょうか
認認介護については詳しい調査データなどが乏しいため、認認介護の家庭の正確な数は把握することができません。ただし間接的に割り出す方法はあります。
参考として、首相官邸ホームページから公開されている「認知症年齢別有病率の推移等について」によれば、80~84歳の認知症有病率は21.8%と集計されています。
この数値をもとにすると、80歳の夫婦どちらかに認知症が出現する確率は「21.8%×2=43.6%」と計算できます。さらに夫婦両方に認知症が出現する確率を求めると「21.8%×21.8%×2=約9.5%」となります。
つまり計算上は、80歳の夫婦であれば約11組に1組(約9.5%)が認認介護状態であることが推測できます。なお認知症を発症していても診断を受けない人もいるため、そうした水面下の層も含めて考えれば、認認介護の数はさらに多い可能性があります。
認認介護が増加している原因
認認介護が増加している原因として、主に以下のような事柄が関係していると考えられています。
- 高齢化と老化による認知症
- 頼れる人がいない
- 介護は認知症を発症しやすい
以降では、それぞれの詳細を解説します。
高齢化と老化による認知症
根本的な原因として、高齢化の影響が大きいです。医療技術の発展により平均寿命が伸びたことで、介護を受ける側・する側の両方の年齢が高まってきています。
その上で「高齢になるほど認知症のリスクが高まる」という問題が追い打ちをかけています。認知症が発症する原因には「老化」も関係しており、認知症のなかでも最も患者数が多いアルツハイマー型認知症は、老化に伴い「アミロイドβ」や「タウ」などの蛋白が異常構造となり脳内にたまり、長い時間を掛けて進行していくと考えられてます。
長く生きられるようになった代償として、認知症のリスクが高くなる構図ともいえ、今後平均寿命がより伸びていけば、認認介護もより増加していく可能性があります。
頼れる人がいない
子供や孫が実家を出てしまい、核家族となっている世帯が年々増加してきています。過去の日本のように3世代世帯が減り、頼れる家族が近くにおらず、夫婦お互いが認知症を患っている状況でも、止むを得ず介護を行っている家庭が増えてきているのです。
また、70代~90代の高齢世代には「他人に頼るのは良いことではない」「自分たちで解決すべきだ」といった考えを持つ人もおり、そのような遠慮する価値観が認認介護の増加を後追ししているとも考えられてます。
介護は認知症を発症しやすい
介護は認知症を発症しやすい環境ともいえ、介護を続けたことでの副産物として認知症を患ってしまうことがあります。
具体的に、以下のような環境や生活習慣は、認知症の土台を作りやすいと考えられています。
- 食生活が不規則
- 睡眠不足
- 運動不足
- アルコールをたくさん飲む(アルコール性認知症)
- 人と話さない、外部との接点がない
- ストレスを溜める など
たとえば、日々の介護に追われ、食生活が乱れていたりすると生活習慣病を患いやすくなり、それが認知症の土台作りとなってしまうことがあります。また介護の閉鎖的な環境で「人と話さない」「ストレスを溜める」などの状況が続くと、これも間接的に認知症の発症を後押しすることがあります。
認認介護は何が問題か
認認介護における問題点として、介護での「事故」が発生しやすいということが挙げられます。
具体的には、認知症を患うと、以下のような症状が発生することがあります。
- すぐに物事を忘れる
- 覚えられない
- 計画的に進められない
- 時間や場所がわからなくなる
- 急に徘徊する
- 妄想や幻覚
- 暴言や暴力
- 過食や拒食 など
こうした症状が生じると日常生活に支障をきたしたり、目を放した隙に事故に繋がることがあります。そして認認介護の場合は、介護される側・する側両方にこうした症状が生じることがあるため、事態はより深刻です。たとえば認知症により「介護をすること自体を忘れていた」といった症状がでると、取り返しのつかない事態にも発展しかねません。
両方が同じタイミングで認知症の症状を発症することもありえるため、認認介護というのは危険性の高い状態ともいえるのです。
周囲のサポートが求められる
認知症というのは、一般的な「老化による物忘れ」や「ボケ」とは異なり、時に危険な行動を起こすこともあります。外見的には健康のように見えることもありますが、本来、認知症を発症した方は介護をする側ではなくされる側です。
そのため、認認介護の状態となっている場合には、安易に「大丈夫だろう」と考えず、周りの人間がサポートしてあげることが大切です。また「地域包括支援センター」など公共的な相談窓口に相談してみるのも一つの解決策です。認知症を発症していると当事者だけでは解決策を考えらえれないこともあるため、周囲の人間が積極的に支えてあげたいところです。