誤嚥性肺炎は、高齢や寝たきり、脳卒中の後遺症などがきっかけとなって発症するリスクが高い病気の一つです。
2021年の調査では年間4万人の人、2023年の調査では年間約5万人が誤嚥性肺炎によって命を落としており、死亡原因の第6位となっています。
大切な家族やクライアントを誤嚥性肺炎から守りたいと考えるのであれば、介護のポイントを押さえた日常生活のサポートが欠かせません。
そこで今回は誤嚥性肺炎のリスクを極力下げたいと考える方に向けて、介護のポイントや注意点についてご紹介いたします。
誤嚥性肺炎の危険性
誤嚥性肺炎は年齢を重ねて筋力が落ちてしまったり、脳卒中の後遺症による麻痺、寝たきりによる口腔環境の悪化などが引き金となり、本来は空気の通り道である気管に異物が混入することによって引き起こされる肺炎です。
正常な状態であれば気管に異物が入ると「むせる」という行為で気管外に排出することができるのですが、年齢を重ねるとむせる力も衰えてしまい、食べかすや口腔内のウィルスが肺に到達し、炎症をおこしてしまうのです。
誤嚥性肺炎と診断されると抗菌薬を用いた治療が中心となりますが、繰り返す誤嚥によって合併症を誘発したり、死亡のリスクが高まる病気でもあります。
特に高齢者の場合は免疫不全や基礎疾患が原因となって効果的な治療を行うことが困難になるケースも存在します。
従って特に高齢のクライアントの場合は、誤嚥を起こさないことを前提とした介護を行っていくことがポイントになります。
誤嚥性肺炎のリスクを下げる、介護のポイント
誤嚥性肺炎を引き起こさないよう気を付けるには、誤嚥を防ぐ介護がポイントになってきます。
高齢や介護が必要な状態になったクライアントは、気管に侵入した異物をむせて排出する力が弱くなっているケースがとても多いです。
そのため気管に食べ物のかすや唾液、胃液などが入り込みにくい状況を意識することが、誤嚥性肺炎を防ぐための介護のポイントです。
食事の姿勢に気を付ける
食事をするときに背中が丸まっていたり、頭が極度に上を向いたりしていると、口に含んだ食べ物が食堂ではなく気管に入り込みやすくなってしまいます。
また背もたれに体を完全に預けてしまうような姿勢も気管に食べ物が流れやすい姿勢になりますので、適度な前傾姿勢で両方のかかとをしっかりと床につけた状態で食事をすることがベストといえます。
クライアントの体に極端な負担をかける姿勢は推奨されませんが、できる範囲で背中を伸ばし、正しい姿勢で咀嚼ができるようにサポートしましょう。
また食後すぐに横になると、食道内や胃の中の食べ物が逆流しやすくなります。
食後1時間程度はなるべく座位を保つようにしておくと、より安心です。
食事の内容に注意する
大切な家族に「経口で食事を摂取させてあげたい」と考える方はとても多いですが、食事の内容次第では誤嚥を誘発しかねません。
そのため食事の内容は必ず「弱くなった歯や咬合力ですりつぶすことのできるやわらかさ」「飲み込みやすい、とろみのついた内容」を意識しましょう。
またクライアントごとに1度に飲み込むことができる食事の量は異なります。
口にいれる量が多すぎると嚥下ができず誤嚥につながるリスクがありますが、少なすぎても食事に要する時間が長くなりすぎて体への負担が大きくなるというリスクがあります。
口に含みやすいスプーンの形状なども調整しつつ、クライアントにとって体への負担が少なくなるような食事内容を心がけましょう。
定期的に口の中の清潔を保つ
誤嚥性肺炎を誘発してしまうのは、食べ物のかすや唾液に含まれる細菌です。
そのため口腔内を清潔に保ち、なるべく有害な細菌が常在しないように清潔な環境を保つことが必要になってきます。
歯磨きやうがいはもちろんのこと、必要に応じて訪問歯科の往診や訪問看護の口腔ケアを利用するなど、プロの手を借りて適切な口腔環境の維持を意識しましょう。
「おかしいな?」に気付くのも重要な介護のポイント
高齢のクライアントの場合、誤嚥性肺炎を発症した瞬間に症状が出現するのではなく、ある程度症状が進行してから誤嚥性肺炎と判明するケースがとても多くなっています。
そのため誤嚥性肺炎を防ぐためには「いつもと様子がちがう」「なんだかおかしい」というサインに気付けるように、普段からクライアントの様子をよく見ておくことが介護のポイントになってきます。
食事時間が長くなった
食事に要する時間が以前よりも長くなったり、口に含んだ食べ物をなかなか飲み込むことができない状態は、体に異変が起きているかもしれないサインです。
食事時間や嚥下の変化以外にも、食欲が減退しているなどの食事に関するクライアントのマイナスな変化を感じたら、ヘルパーや訪問看護などに相談し、早めに医師の往診を依頼するなどの対策をとるのが、誤嚥性肺炎を防ぐ介護のポイントです。
夜中の咳や膿のような痰が気になるようになった
咳や痰は、誤嚥性肺炎に気付く大きなサインの一つです。
「夜間に普段より咳をしている気がする」「痰の量や色に変化があった」「黄色っぽい痰が出る」という時は、誤嚥性肺炎を発症している可能性があります。
なるべく早めに医療機関に相談しましょう。
のどや肺から雑音がする
クライアントののどからゴロゴロと音が聞こえていたり、肺からヒューヒューやゼイゼイという音がしている場合は、誤嚥性肺炎を発症している可能性があります。
誤嚥性肺炎は風邪の初期症状に似た症状が出現しますので、特に季節の変わり目などは「寒暖差で風邪気味かな?」と見過ごされてしまう可能性が非常に高い病気といえます。
小さな違和感でも医師や看護師などに相談し、誤嚥性肺炎発症のリスクに備えることが、介護のポイントといえます。
誤嚥性肺炎を防ぐために、介護のポイントをしっかりと把握しよう
介護をしていくなかで嚥下や誤嚥は避けて通ることのできない問題です。
誤嚥性肺炎というリスクの高い病気と向き合うなかで、誤嚥は最大限に配慮したい介護のポイントです。
改めて正しい知識をもち、クライアントに合わせた誤嚥性肺炎の予防を心がけていきましょう。