介護業界では人手不足が問題化しておりますが、その一方で「介護の仕事は将来なくなるかもしれない」「AIやロボットに奪われるかもしれない」という声も存在します。この先介護業界はどうなっていくのでしょう。
今回は、介護業界の現状と介護の仕事のこれからについて、AIやロボットの脅威も交えて解説します。介護職の将来に不安を感じてる方はぜひご覧ください。
【介護の仕事の現状】人手不足が深刻化
介護の仕事は人手が不足しており、国内の他の業種と比べても深刻な状況です。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和5年11月分)」によれば、介護サービス職業従事者の有効求人倍率は4.06%となり、高い数値を記録しています。
比較としてポピュラーな職業を挙げると、一般事務従事者は0.35%、商品販売従事者は2.04%、営業職業従事者は2.17%となり、介護職に比べればだいぶ低い数値です。
職業名 | 有効求人倍率 |
---|---|
介護サービス職業従事者(介護職) | 4.06% |
一般事務従事者(一般事務) | 0.35% |
商品販売従事者(商品販売) | 2.04% |
営業職業従事者(営業職) | 2.17% |
職業計(全体) | 1.20% |
「有効求人倍率」とは、求人数に対して求職者がどの程度いるかの割合であり、求人数÷求職者で算出されています。たとえば10人分の求人に10人の求職者がいれば有効求人倍率は1%となり、10人分の求人に5人しか求職者がいなければ有効求人倍率は2%となります。
有効求人倍率が高いほど人手が不足している状態を示し、低いほど人気職で仕事に就きにくいことを示します。介護サービス職業従事者は4.06%となり、人手不足が深刻化していることを意味しています。
医療技術の進歩により平均寿命が延伸し高齢化社会となったことで、介護を必要とする人の数は年々増えています。一方で少子化により働き手自体が減っていることもあり、介護業界の人手不足は今後より加速するとも考えらえています。
「AI」により介護の仕事がなくなる可能性は?
今、「AI(人工知能)」の技術が急速に進化しており、近い将来、人間の多くの仕事がAIによって奪われるといわれています。人手不足が深刻化している介護の仕事においても、将来AIによってなくなることはあるのでしょうか。
ここでは介護とAI関係や、将来の展望について解説します。
AIとロボットについて
まず、AIとロボットについて解説します。この2つは一見似ていますが、厳密には別物となります。
「AI(人工知能)」はあくまで頭脳、コンピュータの部分であり、「ロボット」は人の身体、もしくは腕や足などを模した機械のことです。AIのみではデータ処理などは行えても手足がないため介護行為は行えず、ロボットのみでは、AIの頭脳がないため、単純動作のみで臨機応変な対応が難しくなります。
たとえば、入浴介助や移乗介助といった介護行為は、複雑な動きが行える手足、その時々の状況に合わせた動きを考えられる頭脳が必要となります。そのため、機械が完全に人間の手を離れ自発的に介護行為を行えるようになるには、AI技術とロボット技術の両方の進化が必要となります。
すでに、装着型パワーアシスト、歩行支援ロボット、配膳ロボットといった、部分的な動きをサポートするAIやロボットは開発や普及が始まっているものの、SF映画のようにAIロボットが一人で介護の現場に立ち、すべてを賄うまでにはまだ長い時間がかかるでしょう。
「介護事務」系の仕事は一部AIに奪われる可能性あり
AIはコンピュータであるため、データ処理、事務処理、計算処理などの分野に強いです。そのため、「介護事務」系の仕事とは相性がよく、医療事務系の仕事は、将来AIやICT(情報通信技術)の導入により、徐々に減っていく可能性があります。
ただしレセプトチェックなどの部分は専門知識も必要であるため、完全にAI化するのは難しいという考え方もされています。
他にも、ケアマネージャーのケアプラン作成業務などについても、一部AI化が進むと考えられています。株式会社シーディーアイによって開発されたAIマネジメントサービス「SOIN(そわん)」など、すでにケアプラン作成向けのAIサービスは存在しており、利用者も徐々に増えているようです。
AIに「気持ち」のサポートは難しい
介護の仕事では、身体的なサポートをするだけでなく、要介護者の話を聞いたり、気持ちのケアをしてあげることも大切な仕事です。そうした相手の気持ちを察したり、感情に働きかけたりすることはAIには難しいといわれています。
また、レクリエーションのように、場を盛り上げたり楽しませたりする行動も、生身の人間でないとなかなか上手くはいきません。
そうした人間ならではの気持ちや感性の部分が、AIと差別化できる強みとなります。
シンギュラリティーについて
「シンギュラリティー(技術的特異点)」とは、AIが人間のあらゆる能力を超えるという仮説です。2045年にシンギュラリティーに到達すると予想されており、その後はAIが加速度的に進化し、今の人間の想像の範疇を超えるほどの能力や機能を身に着けると考えられています。
シンギュラリティーによる影響は未知数ですが、AIが想像を超える進化を果たした場合、今の人間の働き方が大きく変わる可能性もあります。これは介護の仕事だけに限らず、すべての仕事に関係する話となります。
介護の仕事は今後も需要があるか
介護の需要そのものは今後も増えていく可能性があるのでしょうか。
高齢者の人口データとして、内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によれば、2020年の国内の65歳以上人口は3619万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.8%を記録しています。さらに2040年には35.3%、2060年には38.1%と高まっていくことが予測されています。
年代 | 65歳以上人口の割合(予測) |
---|---|
2020年(令和3年) | 28.8% |
2040年(令和22年) | 35.3% |
2060年(令和42年) | 38.1% |
つまり、将来的には子供や15~64歳の現役世代の割合がさらに減り、介護が必要となる65歳以上の高齢者がより増える社会となると予想されており、そうなった場合、介護の仕事の需要も今よりさらに増える可能性が高いです。
また、若者が実家を出て都会に世帯を持つ流れが今後も加速すれば、地方では介護をしてくれる子供のいない高齢者のみの世帯が増える可能性があり、そうなると介護の仕事の需要はより高まるでしょう。
こうした高齢化の進行具合や社会情勢を踏まえると、たとえAIがいまよりも進化したとしても、介護の仕事自体がなくなる可能性は低いと考えられます。
人間だからこその強みも意識する
以上、介護の仕事の将来について解説しました。
介護の仕事の需要自体は大きく、このまま少子高齢化が止まらない限り、人手不足が継続する可能性が高いです。AIの進化については未知数な部分もありますが、どれほどAIが進化を遂げたとしても、機械であることには変わりはありません。
人間だからこそできる強みを伸ばすことが今後の時代とくに重要になってくるでしょう。