在宅介護に潜む「家族介護問題」、何が問題となるかを3つの観点から解説

住み慣れた自宅で「家族介護」を行うことは、要介護者の心身にプラスの効果をもたらすことがあります。しかし家族介護は良いことばかりではなく、いくつか問題点もあり、家族介護が原因で家庭崩壊、うつ病、虐待などが起きてしまうこともあります。

今回は、そうした家族介護問題について、「介護行為」「金銭面」「年齢面」の3つの観点から解説します。どのような部分が問題や課題となるかについて、理解を深めていきましょう。

目次

「介護行為」の問題点

家族介護において、まず問題化しやすいのは、排泄、食事、移乗といった日々の「介護行為」の部分です。

介護行為は毎日のように行わなくてはならず、「家族の中の誰が担当するのか」「ミスをしたらどうしよう」「自分の時間がなくなってしまった」「いつまで続けなければならないのか」といった不安や葛藤が生じやすく、心身を疲労させ、トラブルの原因となりやすい部分です。

ストレスが蓄積されると、介護に協力してくれない兄弟や子供にあたってしまったり、要介護者側へ不満の矛先が向き、虐待などが生じてしまうケースもあります。

また、介護行為の中にも、苦労するものとあまり苦労しないものがあります。参考として、内閣府が2013年に行った「介護ロボットに関する特別世論調査」の中で「介護で苦労したこと」に関する世論調査が行われており、以下が回答結果となります(複数回答可)。

苦労したこと回答割合
排泄(排泄時の付き添いやおむつの交換)62.5%
入浴(入浴時の付き添いや身体の洗浄)58.3%
食事(食事の準備、食事の介助)49.1%
移乗(車いすからベッド・便器・浴槽・椅子 への移乗動作の介助)48.3%
起居(寝返りやベッド・椅子からの立ち上がり動作の介助)47.7%
移動(屋内を歩いて移動する動作の介助)37.8%
認知症ケア(認知症の症状への対応)28.9%
見守り(徘徊防止や夜間転倒防止の見守り)28.2%
外出(買い物などの付き添い)19.4%
リハビリ訓練(体力アップを目的とした歩行 などの訓練の付き添い)16.1%
出典:介護ロボットに関する特別世論調査「(ア)介護で苦労したこと」

ご覧のように「排泄」「入浴」「食事」の3つは苦労しやすい介護行為であり、男性の場合は特にこの3つの作業が苦手であったり、苦痛に感じてしまう人が多く見られます。女性の場合は「移乗」や「起居」といった力を使う作業に苦労しやすい傾向です。

自分の苦手な介護行為ほど負担やストレスが大きくなり、嫌々行うとミスをして事故に繋がる危険性も高まります。

もし苦労している場合には、以下のような対策を施し、現状の負担を減らすことが大切です。

  • 家族の中でその介護行為が得意な人に分担する
  • デイサービスやショートステイを活用する
  • 介護研修を受けスキルアップする  など

「金銭面」の問題点

家族の介護を行う場合、想定以上にお金の出費は激しくなるものであり、金銭面での家族介護問題も生じやすいです。

介護に掛かる費用のデータとして、公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」によれば、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)は平均74万円、月々の費用(月々支払っている(支払っていた)費用)は平均8.3万円と集計されています。

一時費用平均74万円
月々の費用平均8.3万円

仮に月々8.3万円の介護費用が発生した場合、年間では99.6万円の出費となり、それが5年間続けば498万円の出費となります。

介護をしていると、こうした出費が生活費とは別に継続的に発生していくことになるため、家計を圧迫しやすいです。また要介護者本人がお金を捻出できない場合には、その家族が工面する義務があり(詳細後述)、家族全体に金銭的な問題が広がることがあります。

「誰がお金を出すのか」「独身の〇〇がお金を多めに出してほしい」「出すお金がない」「家族の介護費用のために自分が困窮してしまった」といった、家族内での金銭的なトラブルも生じやすくなるのです。

こうした問題を発生させないためにも、両親が元気なうちに介護が必要になった際のお金の出し合い方を家族内で話し合っておいたり、事前に介護用の資金を貯蓄しておくなどの対策が重要になります。

家族は介護のお金を工面する義務がある?

要介護者の子供、兄弟、配偶者には扶養の義務があります。具体的には、民法877条第1項にて「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められ、民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めがあるため、要介護者本人がお金を捻出できない場合、子供、兄弟、配偶者が援助する必要があります。

ただし絶対的なルールではなく、自分の生活が困窮してしまうような状況の場合は、扶養の義務は強制されないのが一般的です。その判断は、家庭裁判所が家庭の収支(収入や財産、借金などの状況)を踏まえ決めることになります。

「年齢面」の問題点

家族介護において、近年大きな問題となりつつあるのが「年齢面」の問題です。医療技術が進化し高齢化・長寿化が進む中、要介護者の年齢が全体的に底上げされており、また介護をする側の年齢も底上げされています。

「老々介護」や「認認介護」という言葉が注目されるように、65歳以上の高齢者が高齢となった両親や配偶者の介護を行っていたり、認知症患者同士で介護を行っているケースもあります。

2022(令和4年)国民生活基礎調査の概況」の「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢組合せを見ると、60歳以上同士が77.1%、65歳以上同士が63.5%、75歳以上同士が35.7%という結果となっており、高齢者同士で介護が当たり前になりつつあります。

介護をする側が高齢化することでの問題は、やはり身体能力の面です。介護は体力や筋力なども必要としますが、年齢が高くなるほど、そうした力は衰えていくものです。60代の頃は問題なく家族の介護が行えていた人であっても、70代になると移乗や起居のような力を使う介護行為が上手く出来なくなってしまったり、介護が原因で身体を壊してしまうケースもあります。

身体能力の衰えは老化現象として避けられないものでもあるため、年齢的に介護が難しくなった場合には、無理をせず地域包括支援センターなどに相談することが大切です。

年齢が若いが故の問題もある

老々介護とは反対に、10代の若い層が祖父や祖母などの介護をするケースも増加しつつあります。いわゆる「ヤングケアラー」と呼ばれる人たちです。10代であれば体力的には恵まれているものの「子どもらしい過ごし方ができない」「進路に関わる」など、介護によって10代らしい生き方ができないという問題が生じてきます。

また、20代~40代程度の人が家族の介護をしているケースもあり、こうした年代は、結婚、出産、出世といったライフイベントが介護によって犠牲になりやすいという問題が起きやすいです。

家族介護問題を解決するには?

もしも家族介護で問題が生じている場合、まずは家族内でよく話し合いをすることが大切です。

家族同士で意識がズレていたり、考えがバラバラであったりすると、家族介護問題も深刻化、複雑化しやすくなります。また、家族内の誰か一人に介護を押し付けていたり、非協力な人がいたりする場合も、問題の種になりやすいです。

まずは家族同士で集まり「介護をどのように行っていくか」「どのような悩みや課題を抱えているか」などを一度よく話し合うことが大切です。話合うことで家族各々の状況や苦労がよくわかり、解決に進むこともあります。

ただし家族によっては、無理に話し合いをしようとすると口論のようになり、油を注いでしまうケースもあります。話し合いが難しい状況の場合は、後述する地域包括支援センターなどに相談するのがよいでしょう。

地域包括支援センターにも相談する

「地域包括支援センター」は、高齢者の健康面や介護に関する相談等のサービスを無償で提供している、地域に密着した総合相談窓口です。

その道の専門家が問題解決の糸口を考えてくれるため、家族が相談に乗ってくれない場合や、自分たちでは解決できないような問題に関しては、地域包括支援センターにも相談してみるのがよいでしょう。

地域包括支援センターは、全ての市町村に設置されており、厚生労働省の公式サイトで調べられます(※リンク先の「全国の地域包括支援センターの一覧」が該当)。

家族同士で気遣う意識も大切

以上、家族介護問題について解説しました。

在宅介護と家族介護問題は隣り合わせであり、最初はトラブルなく介護が行えていた家庭でも、いつの間にか家族介護問題を抱えてしまうケースもあります。放置するとより深刻化しかねないため、問題が発生している場合にはよく家族内で話し合うことが大切です。

また、性格によってはひとりで抱え込んでしまうケースもありますので、介護によって苦労や悩みを抱えていないかを、家族同士で気遣う意識も大切です。特に家族の中で最も介護に注力している人のケアやサポートは劣らないようにしたいところです。

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この記事を書いた人

介護業界で働かれる方や、介護サービスを利用されている方、これから利用を考えている方などへ向けて、介護保険、障害福祉サービス、社会的背景などの制度情報や役に立つ情報を定期的に発信しています。

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