認知症のクライアントによる介護拒否。なにが原因で起こるの?対応策は?

認知症はもの忘れや見当識障害などから、次第に自立した日常生活を継続することが困難になる病気です。

年齢を重ねるごとに発症のリスクが高まることが分かっており、内閣府では2025年において65歳以上の5.4人に1人が認知症という状態にあると推計されています。

私たちのすぐ身近にある認知症と介護の課題ですが、なかでもクライアントによる介護拒否は家族やアテンダントが頭を悩ませてしまう、大きな問題の一つです。

今回は認知症のクライアントによる介護拒否が起こる理由と、介護拒否への対応について詳しくご紹介していきます。

【参照】平成29年版高齢社会白書(内閣府)

目次

認知症クライアントの気持ち

脳の細胞がダメージを受けることで認知機能が低下してしまう認知症ですが、初期の段階では認知症の症状が出現している時と出現していない時が混在していることがほとんどです。

この認知症の初期段階では、認知症のクライアント本人も「なんだか最近もの忘れが激しい気がする」「どうやって家事をやればいいのか分からなくて困る」と感じており、混乱や不安を感じているケースがとても多いです。

直接的な老いへの不安以外にも様々な気持ちがないまぜになることで、介護拒否という感情が芽生えると考えられています。

不安から生じる介護拒否

自分の記憶力や行動に対して違和感を覚えたクライアントは、自分自身の老いを受け入れられない気持ちや、今後の自分がどうなってしまうのかという漠然とした不安から、気分が落ち込んだり、ふさぎこみがちになってしまいます。

「まだ自分は大丈夫だ」という気持ちから、「もの忘れなんてしていない。泥棒がこの家に入ったんだ」「介護なんて必要ない。私は何もおかしなところはない」と強く発言し、介護拒否的な言動につながってしまうのです。

まだ身体機能が著しく衰えていないクライアントの場合は、暴言や他害などで介護拒否の感情を伝えてくる場合もあります。

自尊心の高さから生じる介護拒否

人間であれば誰しもが、少なからず見栄やプライドといった気持ちを持っています。

特に一家の長として長年威厳を保っていた男性や、一家の家事を一人で担ってきた女性は、「まさか自分がもの忘れをするなんて」「自分がこんなことも分からなくなるなんて」と、自分自身の老いを受け入れられないケースが多々あります。

自尊心の高さから生じる介護拒否の場合は、排泄の失敗に対する気持ちから水分補給や食事を控えたりするような、健康に直結する形で出現する場合もあるので、一層の注意が必要です。

羞恥心から生じる介護拒否

自尊心と同様に、羞恥心も介護を拒否させる一端となる感情です。

特に排泄や入浴などの身体的な介護に関わる部分で羞恥心を抱くクライアントは多く、「知らない人に裸を見られるぐらいなら、入浴はしたくない」「異性のアテンダントに介助をお願いしたくないので、ぎりぎりまで尿意や便意を我慢する」などの感情が、介護拒否へとつながります。

認知症を発症しているクライアントであっても、一人の人間としての尊厳をこめた接し方や発言が大切になってきます。

認知機能から生じる介護拒否

認知症によって低下する認知機能そのものが、介護拒否につながるケースもあります。

「洋服が汚れた時は着替える」「体を清潔にするために入浴する」などといった人間生活の手順が分からなくなり、「急に服を脱がされて怖い」「服を脱がされたと思ったらお湯をかけられて不快だ」などのように感じてしまうのが、認知機能の低下による介護拒否につながる具体例です。

クライアントによっては行動・心理症状によって被害妄想や抑うつなどを誘発してしまうこともありますので、やはりクライアントに寄り添った丁寧な声かけや状況説明が大切になってきます。

介護拒否に対して、家族やアテンダントができる対応

介護拒否が続くと「私たち家族の接し方が悪いのだろうか」「仕事とはいえ、あまりに介護拒否が続くので心が折れそう」という感情を抱く家族やアテンダントは少なくありません。

しかしながら介護拒否は認知症の症状の一種であり、家族やアテンダントに非があるわけではありません。

深呼吸をして一息つき、自分たちにできる対応を少しずつ行っていきましょう。

介護拒否への対応①タイミングを見計う

クライアントによっては「寝起きは意思疎通がはっきりしている」「食事中は笑顔が見られる」のように、認知症の症状があまり出現していないタイミングが分かりやすい方もいらっしゃいます。

全てのスケジュールをクライアントファーストで調整することは不可能ですが、なるべくクライアントの調子が良い時、意識がはっきりしているタイミングで声をかけるようにすると、介護拒否が少なくなる傾向にあります。

また反対に「テレビを見ている時は話しかけられたくない」「雨の日は気分が落ち込みやすい」など気分のムラがある時は、そっと離れるなどの配慮も良いでしょう。

介護拒否への対応②声かけの内容を具体化する

介護拒否の根本には「どうなるのか分からない」「いま何が起こっているのか理解できない」という漠然とした不安があります。

そのため「汚れたから着替えましょう」ではなく「洋服が濡れてしまったので、このままでは体が冷えて風邪を引いてしまいますよ。新しい清潔な洋服を着るために、まずはこの洋服のボタンを外しましょう」というように、クライアントが状況を理解して納得できるような声かけ対応ができると、介護拒否への感情が和らぐことができます。

クライアントが介護拒否を起こしている根本的な混乱を察し、ゆっくりとした声かけを心がけていきましょう。

介護拒否への対応③気持ちに寄り添う

認知症の介護中は、家族やアテンダントも気持ちが張りつめてしまい、限界や辛さを感じてしまうこともあります。

しかしながら家族やアテンダントと同様に、クライアント本人も焦りの気持ちや不安な感情に押しつぶされそうな日々を送っています。

介護拒否の言動が表れた時は一度「そっか。あなたはこれが嫌なんだね」とクライアントの感情に寄り添うことで、お互いに尊厳をもって接することができるようになります。

生活に支障のないレベルでクライアントに寄り添い、また介護の内容を柔軟に調整する余裕をもった対応を行うことで、介護拒否の言動を和らげることができます。

認知症の介護拒否は自然なこと。一歩下がって、余裕ある対応を。

認知症が原因で介護拒否が起こる原因と、家族やアテンダントが実行することのできる対応についてご紹介いたしました。

大切な人が認知症によって変わっていくことはとても辛く悲しいことですが、クライアント本人も変化する自分に戸惑い、介護拒否という言動を起こしてしまいます。

生活や健康に影響のない範囲であれば妥協する気持ちをもって、認知症の介護拒否に対する余裕ある対応を心がけましょう。

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この記事を書いた人

介護業界で働かれる方や、介護サービスを利用されている方、これから利用を考えている方などへ向けて、介護保険、障害福祉サービス、社会的背景などの制度情報や役に立つ情報を定期的に発信しています。

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