「老老介護」と「認認介護」という介護用語を聞く機会が増えてきました。この2つは一見似たような言葉にも見えますが、意味はそれぞれで異なり、また介護をする上で苦労する部分についても違いがあります。
今回は、老老介護と認認介護の違いについて多方面から解説しますので、その相違点や実情について理解を深めていきましょう。
老老介護とは?
「老老介護(ろうろうかいご)」とは、65歳以上の高齢者の介護を、65歳以上の高齢者が行っている状態を指します。
ポイントは「年齢」であり、65歳以上の高齢者同士で介護を行い合っている場合のみ、老老介護として扱われます。
たとえば70代の夫を70代の妻が介護をしている場合、老老介護として扱われます。90代の高齢の親を70代の子供が介護している場合も老老介護に該当します。
増加する老老介護
現在の日本では、老老介護状態となっている家庭が増えています。
「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、60歳以上同士で介護をしている家庭の割合は77.1%、65歳以上同士は63.5%、70歳以上同士は35.7%というデータが公開されており、老老介護状態の家庭がいかに多いかがわかります。
60歳以上同士での介護 | 77.1% |
65歳以上同士での介護 | 63.5% |
70歳以上同士での介護 | 35.7% |
老老介護は例年増加傾向にあり、その背景には、高齢化、少子化、核家族化といった社会の変化が関係していると考えられております。
認認介護とは?
「認認介護(にんにんかいご)」とは、認知症を発症している人の介護を、認知症を発症している人が行っている状態を指します。
ポイントは「認知症の発症」であり、介護を受ける側・する側の両方が認知症を発症している場合のみ、認認介護に該当します。
なお、認知症は脳の病気となり、一般的な「老化による物忘れ」や「ボケ」とは異なります。自分では自覚できないこともあり、判別には医師による診察が必要となります。
認知症は7人に1人、認認介護は約11組に1組
国内の認知症患者数は、2012年の段階で462万人(高齢者の約7人に1人)と集計されています。将来的にはさらに増加する予測が立てられており、2025年には約650〜700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症患者になると予測されています。
また、首相官邸ホームページから公開されている「認知症年齢別有病率の推移等について」によれば、80~84歳の認知症有病率は21.8%と集計されています。この数値から夫婦両方に認知症が出現する確率を求めると「21.8%×21.8%×2=約9.5%」となり、約11組に1組(約9.5%)が認認介護状態であることが推測できます。
老老介護と認認介護は併発しやすい
老老介護と認認介護は併発しやすく、老老介護と認認介護の両方に該当する家庭も少なくありません。
理由として、認知症の発症原因には「老化」も関係しており、高齢になるほど認知症を発症しやすくなるためです。認知症有病率は70~74歳頃から上昇が始まり、80代90代と年齢を重ねる毎に有病率はより高くなっていく傾向にあります。
つまり老老介護の家庭では、お互いの年齢が高いが故に、お互いが認知症となる可能性が高まるのです。特に80代同士、90代同士のような高齢夫婦となると、老老介護かつ認認介護の状態に陥りやすくなります。
老老介護と認認介護の苦労する部分の違い
老老介護と認認介護とでは、介護をする上で苦労する点や抱える問題が異なってきます。ここでは、双方の苦労するポイントを解説します。
老老介護で苦労する部分
老老介護で苦労するのは「加齢による身体の衰え」です。
介護では、移乗、体位交換など、体力や筋力を使う場面もあります。特に手足が不自由で介護状態となっている人の場合、こうした作業が一日に何回も必要となることがあります。
ここでさらに問題となるのは、介護を受ける側・する側の両方が、加齢と共に身体能力が衰えていくという点です。
介護を受ける側は加齢と共に手足が更に弱り、以前より手厚いサポートが必要となることがあります。介護をする側も加齢と共に体力や筋力が衰えていくため、高齢になると以前はできていた移乗、体位交換などが出来なくなることがあります。また、無理をすると身体を痛め、自分も介護状態となり「共倒れ」してしまうこともあります。
老老介護では、こうした身体の面で苦労することが多く、特に介護する側が女性の場合は、もともと男性に比べ身体能力が劣るため、年齢を重ねるとより厳しい状況に陥りやすいのです。
認認介護で苦労する部分
認認介護で苦労するのは「精神的な面」です。
認知症が原因で要介護状態となっている人の場合、前述した老老介護のケースとは異なり、身体機能は健在であることが多く、移乗、体位交換などは周りのサポートがなくても自分で行えることがあります。
その代わり「物事をすぐ忘れる」「意思疎通ができない」「言うことを聞いてくれない」「急に徘徊する」「暴力や暴言を吐く」など、予測できない行動が増えるため、介護をする側の精神的な負担が大きくなりがちです。毎日そうした相手と過ごすことになるため、介護をする側がうつ病などを患ってしまうことも少なくありません。
また、両方が認知症となり、認認介護状態となると事態はより深刻です。お互いが自分の行動や記憶を認識できなくなることがあるため、意思疎通がより困難になるだけでなく、介護による事故やトラブルも起こりやすくなり、危険な状態ともいえます。たとえばお互い同時に「夜間の徘徊」を行ってしまうと、それを止める人間がいなくなってしまいます。
厳しい立場であることは同じ
老老介護も認認介護も、厳しい立場に置かれているという点では同じです。
理由として、現在の介護保険サービス(介護保険制度)は「強い」介護者をモデルとして作られているためです。想定されている介護者は、若く体力に満ちており、さまざまな介護行為や家事が行える健康な人物です。
老老介護のように65歳以上の人が介護者となるケースや、認認介護のように認知症を患っている人が介護者となるケースを十分に想定できておらず、現状の介護保険サービスを利用したとしても、痛いところに手が届きにくく、徐々に厳しい状況に追い込まれていくことがあります。
地域包括支援センターに相談
現状が厳しい場合や頼れる家族がいない場合、「地域包括支援センター」に相談することも大切です。
介護保険サービス以外にも、各自治体や民間業者、ボランティア団体などが用意する支援サービスはたくさんあり、地域包括支援センターではそうしたサービスの紹介も含め、プロの相談員が相談にのってくれます。
地域包括支援センターは無償で利用でき、全ての市町村に設置されています。詳しくは厚生労働省の公式サイトで調べられます(※リンク先の「全国の地域包括支援センターの一覧」が該当)。
SOSを出すこと、手を差し伸べることが大切
老老介護と認認介護ではそれぞれで抱えている問題が異なりますが、どちらにおいても、若く健康な人が介護をする場合と比べれば、厳しい状況に置かれていることには変わりありません。本来であれば介護をすることが困難な人たちが、無理をして介護をしているような状況ともいえます。
そのため「大変になってきたな」「最近辛いな」と感じた場合には、早めに周囲にSOSを出していくことが大切です。またもし身近に老老介護や認認介護状態の家庭がある場合には、周囲も見て見ぬふりをせず、手を差し伸べていく姿勢が社会全体として求められます。